二宮: セルジオさんとは毎年、NHKラジオの年末スポーツ特番でご一緒させていただいています。
セルジオ: もう何年もやっているよね。サッカーにはたくさん言いたいことがあるから、今日は呼んでもらって光栄ですよ(笑)。
二宮: セルジオさん、お酒は飲まれるんですか?
セルジオ: 飲みます。大好きですね。ザ・プレミアム・モルツが出た時に、週刊誌で広告をやらせていただいて、それ以来、慣れ親しんでいます。泡がクリーミーでおいしいよね。
二宮: 辛口のセルジオさんから高評価を頂きました(笑)。
W杯を決めた岡田ジャパンの評価は? 二宮: 南アフリカW杯まであと1年を切りました。セルジオさんには当然、このお話をうかがわなければなりません。6月6日、アウェーのウズベキスタン戦で日本代表は4大会連続のW杯出場を決めました。その後、カタール、オーストラリアとの試合もありましたが、セルジオさんは以前から「必ず1位通過しろ、オーストラリア戦が大事だ」とおっしゃっていました。
セルジオ: 日本はW杯に行くだけで満足してはいけない国のはずなんです。W杯出場というノルマを果たしただけではダメだよということを言っていました。
オーストラリアは強いナショナリズムを持つ国だから、ホームで試合をするとすごく盛り上がる。そういう文化を持つ相手に、敵地で戦って1位になることが大切だった。W杯の本大会は当然、アウェーでの戦いになる。厳しい環境を経験し、意識を高めることで、日本に求められるノルマや戦う方法が変わってくると期待していたからです。どうしても日本は営業社会でね、今月のノルマを果たしたからもうサボればいいという風土があるよね(笑)。
二宮: ノルマ文化かな(笑)。
セルジオ: そうです。それと予算社会ね。要するに与えられた仕事をこなしてさえいればいいという。選手たちがすでに「皆で行こうぜ!」という雰囲気になっている。まだ彼らが選ばれるとは限らないのにね(笑)。W杯はクラブチームが行く大会じゃなくて、国の代表が行くはずなのに。
カタール戦の後、「あなたが行けるかわからないのに、何をしゃべっているんだ」と突っ込むマスコミもなかったですよね。北京オリンピックの時もそうだった。「オーバーエイジはいらない、皆で行こう」。ドイツの時も同じだよね。今のメンバーと監督で、何とか結束して行こうというようになっている。
二宮: 最終予選1位と2位では1年の過ごし方が変わってきます。
セルジオ: オーストラリアに負けたら、勝ち点5の差がつくんだ。そういう危機感がなかった。アジアの相手に、ですよ。恥ずかしいじゃないですか。プライドに傷がつくじゃないですか。1位で通過すれば国民に与える夢は大きくなりましたよね。でも結局、いいところなく負けて2位通過でしょう。これじゃあ、一生懸命応援してくれるサポーターはしらけちゃうよ。
岡田(武史監督)は「ベスト4」というマスコミが大好きなタイトルをつけちゃったよね。あんな目標を立てておいて(アジア予選を)2位通過で「ベスト4」なんて言っていたら、お笑いになっちゃう。「アナタ、面白いこと言うね」って。1位で通過して初めて目標に重みが出た。オーストラリアは予選が終わるまで、自分たちにノルマなんかつけていなかった。だからメディアは17日の試合にはすごく大きな意味のある試合なんだということを、もっと世間に知らせないといけなかった。
二宮: グループBに比べると、グループAはどう考えても楽でした。グループの中でW杯出場経験があったのはオーストラリアと日本だけ。ヨーロッパや南米の強豪に近いとすればオーストラリアしかなかった。彼らとのアウェー戦で日本代表の姿がおぼろげながら見えてくると思っていたのですが……。
セルジオ: オーストラリアは本当ならアジアに来ていない相手ですからね。オセアニア代表ならダントツだったけれど、プレーオフで南米とやると、なかなか勝てなくて苦しんできた。(日本はオーストラリアに)ドイツでも負けたし、世界のトップレベルではないけど、アジアの中では手応えのある相手ですよね。多少は本大会へのシミュレーションにもなる。
その意味も含めて、やはり2位ではいけなかったんです。1位になってこその「ベスト4」というスローガンだし、期待も出てくる。期待されることによって、この1年間で活気が出てきて選手に伝わるでしょ。笑いものになり始めたら「ベスト4」というのはすごい雑音で、チームを潰してしまうんじゃないかという感じがします。
これからは強豪相手の試合が始まる。いきなり9月にオランダとやってコテンパンにやられたら、反動が怖いですよ。オランダはフルメンバーで来るかわからないけど、向こうでやりますからね。大敗の可能性もある。今の代表はそういう強いところと一度もやっていないから。
「ベスト4」は打ち合わせ不足!?
二宮: グループに恵まれたことで、逆に岡田ジャパンはタイトな試合をしてこなかった。1年間でどれだけ世界標準に近づけるか……。
セルジオ: 07年のアジアカップでベスト4で負けたでしょう。それでコンフェデレーションズカップ(現在南アフリカで開催中)に出場できなかった。勝つというのが、この世界でいかに大切なことなのか、わかったでしょう。そして、勝てる相手には勝たなきゃいけないんです。
ディフェンディングチャンピオンが4位になるということはいかにダメージが大きいか。(コンフェデ杯は)本当は絶好の腕試しの機会だったのに。色々なところを見失っている段階で次のW杯にいくわけだから、この1年でやるべきことはいっぱいあるよね。オーストラリア戦はこれまで無失点のチーム相手に、本当の自分たちの力を試す機会だった。僕はそこで勝ってから、岡田に目標を言って欲しかった。
二宮: ベスト4という目標を立てているわけですが、岡田監督はコンセプトで「攻守の切り替えの速さ」と「前線からのプレス」ということを言っています。少しずつチームには浸透してきていますが、「ベスト4」という目標、「世界を驚かせる」という言葉はドイツ大会の前、ジーコ監督も口にしていた。妙な既視感がある。
セルジオ: プロの監督が言う「優勝する」とか「決勝まで行く」「ベスト4に入る」というのは「もう1年やらせてくれ」というおねだりですよ。ただ、契約やノルマというのは監督ではなくて、協会が決めるべきことです。監督が口にしたら、それはノルマじゃない。反町(康治・北京五輪代表監督)だって「メダルを獲ってくる」と言ったら1年任せられた。仮に年俸が1年1億円だったら「もう1億円ください」と言っているようなものです。
そして惨敗して帰ってきても、クビじゃないからお金を返さないのよ。これが日本の予算社会のマンネリ化。本当ならサッカー協会が「岡田、もう1年やってくれるならベスト4をお願いできますか? 給料1億円でベスト4に入ったら、ボーナス5000万でどうだ!」と言って契約をする。そのかわり「決勝トーナメントに行けなかったら5000万は返して半額だ。ここで勝負してみるか」というのが普通のプロのやり方ですよ。
でも結局、ジーコで失敗した時も監督が辞めて、そこで終わりなんです。これが予算社会の寂しさですよ。今回も(協会の)ノルマはないのね。普通なら(アジアカップで)4位になった時にオシムは更迭のはずだよ。どんな名前であれ、どんないい人であれ、前回のチャンピオンが4位になったらそこで終わるの。あの人事の時と全く変わっていない。そういうところがまだアマチュアっぽい。日本のサッカーは、まだアマチュアです。
二宮: 確かに契約にはインセンティブが働いた方がいい。
セルジオ: (最終予選ホームで)1勝3分けからベスト4って言ってもね。公約って格好いいんだけど、それを守れなかったときには命取りになるのをわかっているのかな。報道陣に受けた時には気持ちいいんだけど、少しでもうまくいかないことになればパロディーになる。「オイ、ベスト4なんて絶対に無理だろう」って。これは精神的に絶対にプレッシャーになる。岡田はなんであんな目標を立てたんだろう。
二宮: グループリーグ突破なら1億とか、ベスト8なら2億とか、細かい線引きをすればいい。
セルジオ: そう、それがプロの世界。得するものと損するものを賭けてみるか、ということです。勝利ボーナスで勝ったら手に入る。引き分けならば半分。こうするほうがわかりやすいでしょう。そうすれば必死になる。それがプロですよ。
けれども岡田は保険つきでオリンピック代表もみているからね(笑)。その人事もオレにはよくわからないよ。こんなにやりたい人が待っている人事でさ、こんなことでいいのかね? やっぱり今までやってきた監督の失敗が生かされていないことが、すごく気になるんですよね。
二宮: 山本(昌邦、アテネ五輪代表監督)さんもそうでした。
セルジオ: 首もかかってグループリーグを突破したのは(フィリップ・)トルシエ(日韓W杯代表監督)だけだよ。彼は多くを求めたよね。練習試合からフランスとやりたいとか、あれやりたいとか。予選がなかったけど、厳しいことをやっていた。逆にジーコは強いところとはやりたくないって言っていた。弱いところとばかりやって、叩かれたくなかったのよ。皆、4年間やりたいのよ。ブラジル人は言うもの、「セルジオさん、日本は天国だね。最低3年契約すればいい。あとで首を切られても、日本人はお金を払ってくれる」と。予算社会だからだよね。
二宮: ある程度の基本給のようなものがあって、勝ったらインセンティブという方がプロらしい。選手がそうなんだから。
セルジオ: 営業マンが自分でノルマをつけて会社勤めをしていたら、相当優秀な社員を集めないとやっていけないですよ。ノルマを果たしたところに出来高払いがあるし、そこで勝負して競争するところに美しさがある。「成功して得をする、失敗して損する」という、はっきりした基準がないのね。そういうことが常識になっている世界のサッカーと闘うことを自覚しないといけない。
僕からみれば、選手にも監督にももっと稼ごうとする意識がない。例えばW杯で4位にならなかったら、犬飼(基昭サッカー協会会長)さんも1期で下りるとか。命をかけないといけない。そういうことをしたのはひとりだけね。長沼(健)さんだけが加茂(周)さんを更迭して岡田にして「W杯に行けなかったら俺がやめる」と言ったのは。あれはわかりやすかったけど、その後は1度もないのね。ジーコで負けても誰も責任を取っていない。
二宮: ベスト4になったら3億、5億出せ。その代わり、行けなかったら一銭もいらないというほうが面白いですよね。
セルジオ: いいね、男だね! けれども、それなら協会と打ち合わせして「ベスト8」でもよかったじゃん(笑)。今の言い方じゃ引っ込みがつかないもんね。
日本は決定力不足ではない!?二宮: セルジオさんのおっしゃる通り色々な課題があるかと思うんですが、日本が今まで負けてきた理由というのは決定力不足だったわけですよね。何しろ日本のFWは1大会で1点ずつしか取っていないんだから。
セルジオ: いや、それは違う。実力不足なの。サッカー界だけが決定力といいますけど、団体種目の中で、日本が決定力のある競技を教えてくださいよ。バスケットにしてもハンドボールにしても、同じでしょう。強いところとやって(点が)取れないのは決定力の違いじゃないの、それは実力の違い。だから、実力を高めるためには改革が必要なの。
決定力というのは個人が練習すればいい。でも、結果出せないレベルの人にいくら練習をさせても変わらない。これにはもっと大きな改革が必要。要するに(選手が出てくる)確率を高めるということなの。僕は常に補欠をなくせと言っているけど、それをやろうという意識が日本にはない。サッカーに限らず全種目、補欠の発生するスポーツは国際的に実力不足であるということなの。
2軍クラスのチリやベルギーが来たら、4点も取っている。しっかりと決定力があるじゃない。でもそれは相手の質が落ちただけで、同じゴールの大きさ、同じボールでやっているんだから。ちょっと相手が強くなっただけで点を取れないというのは、決定力不足じゃないじゃない。これはレベルの違いです。日本代表が高校生とやったら2桁は入れるでしょう(笑)。
二宮: ホーム最終戦でもカタールがあれだけシュートの精度が低かったから助かったけど、本当ならば3点くらい入っていてもおかしくなかった。ウズベキスタンもシュートをフカせまくっていた。W杯で上位にくる国は少ないチャンスでも確実に決めてくる。
セルジオ: アジアのレベルが低いから助かっている。カタール戦もウズベキスタン戦も同じですよ。それと最終予選で圧勝した試合が1つもないでしょ。ホームで1勝3分け。その1勝だって点が入ったのは、相手の頭に当たったフリーキックが入っただけ。日本のサッカーは明らかに低迷しているんですよ。下の世代がいないでしょう。中田、中村俊、小野の世代から下がなかなか出てこない。前から谷間の世代という言葉があったけど、そのまま来てしまっているんですよ。
二宮: セルジオさんはドイツの時も勝ち点1くらいだろうとおっしゃられていて予想が当たったわけです。このままだと南アフリカ大会も同じくらいの予想ですか?
セルジオ: もっと厳しいでしょう。アジア全体が厳しい。そのアジアの中で日本は今、4位なんだから。
二宮: 予想がハズれることを祈っています(笑)。
(後編につづく)
<セルジオ越後(せるじお・えちご)プロフィール>
1945年7月28日、ブラジル・サンパウロ出身。両親が日本から移民した日系2世。18歳で名門クラブ・コリンチャンスと契約を結ぶ。入団後から頭角を現し、ブラジル代表候補にも選出される。23歳で一度引退するものの、日本からのオファーを受け72年に来日を果たす。藤和不動産サッカー部で2年間プレーし、現役を引退。その後は指導者に転身し「さわやかサッカー教室」を開催、長年に渡り全国の子供たちにサッカーの普及活動、指導を行った。現在はサッカー解説者として活躍する一方、アイスホッケー「HC日光アイスバックス」の役員に就任し、地域密着を目指したチーム作りに参画している。
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(構成:大山暁生)
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