近年、流行したスモールベースボールの原型、つまり近代野球のテキストともいえる「ドジャースの戦法」を日本で最初に取り入れたのも川上だった。
 たとえば1死1、2塁の場面。打者は最悪でも塁上の2人のランナーを進塁させなければならない。そのためには右方向にゴロを転がすのが得策だ。これまで、個人の判断でそれをやる選手はいた。しかしベンチの指示として、それを徹底させたのは川上が初めてだった。

 これについても野村は次のような賛辞を寄せている。
「この、『自分たちはほかより進んだ野球をやっている』という意識を選手が持つことは、チームづくりにおいて非常に大切なことである。選手に自信を与えるだけでなく、監督に対する信頼と尊敬が生まれ、相手チームに対しては優越感や優位感を感じさせることができる」(前掲書)

 そして、こう続けている。
「川上さんの革新性はそれだけでは終わらなかった。戦術や戦法はどんなに斬新であっても相手から研究され、同じことをやられてしまえばアドバンテージは失われてしまう。勝ち続けるには、それをベースにさらに新しいものを加え、磨いていかなければならない。川上さんは、べロビーチキャンプで導入したドジャースの戦法に、毎年のように新しい戦術やスタイルを加えていった」(前掲書)

 このように川上野球はイノベーションに次ぐイノベーションで、一度たりとも歩みを止めなかった。組織とは生命体だ。勝ち続けるためには進化の速度をあげていかなくてはならない。

(おわり)

<この原稿は「フィナンシャルジャパン」2009年10月号に掲載されました>
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