二宮: 今シーズンの野球を振り返ると、やはりトップニュースとして挙げられるのはWBCでの日本代表の連覇。岩村選手は東京ドームでの1次ラウンドでは9打数0安打と苦しみました。3月初旬に向けて調整するのは難しかったですか?
岩村: いや、そんなことはなかったですよ。ボールは見えていたし、フォアボールも選んで出塁ができていた。ただ、結果が出なかったんです。それでもノーヒットという結果は間違いなく周りから叩かれる。覚悟はしていました(苦笑)。米国行きの飛行機の中ではイチローさんと「やるしかないですね」といった会話をしたのを覚えています。


二宮: イチローもずっと不振でしたからね。
岩村: イチローさんが悪かったから、僕の結果が目立たなかっただけですからね。とはいえイチローさんは東京ラウンドで、まだヒットを打っていたんですよ。スタメンでノーヒットなのは僕だけ。「連覇するには岩村を外せ」という声が聞こえてきて、内心は「今に見とけ」という思いがありました。

二宮: 「もう打てないかも」という不安はなかったですか?
岩村: それはなかったですよ。ヒットが出ない時は「いつかは打てる」って思っていますから。ヤクルト時代に30打席近くノーヒットだった経験もありますし、バッティングは水物なので、打てる時もあれば打てない時もある。確かに一発勝負の短期決戦なので、ここで打たないと意味がないんですが、9打数0安打でも10打数0安打でも、次の試合で3安打、4安打する可能性がある。そう考えていたので、特に心配はしていなかったです。

 きっかけをつかんだバント

二宮: 2次ラウンドからはヒットを量産して、最終的には28打数8安打、打率.286の成績でした。
岩村: 2次ラウンド初戦のキューバ戦で速球派のチャップマンからインコースをおっつけてレフト前に初ヒットを打てたのが大きかったですね。1本出てホッとしました。
 キューバ戦の前には現地でオープン戦を2試合したのですが、サンフランシスコ・ジャイアンツとの試合でセーフティバントがキレイに決まった。ライン上を転がってベースに当たってヒット。あのバントで流れが来たかなと思いました。

二宮: とにかくヒットが出たことで気持ちが楽になったと?
岩村: バッティングの上でバントはとても大事だと僕は考えています。バントをする時のバットの出し方やボールを捉えるポイント、ボールを殺すタイミングは全部、バッティングにもつながってくる。バントがうまくできたということはバッティングの状態は悪くない。そう感じました。

二宮: 私はエンジンのかかりが遅かった背景には打順も影響していたと思うんです。岩村選手は9番バッターだった。私はレイズと同様、トップバッターを打つと見ていました。あとは3番・イチローで、5番・城島健司とメジャーリーガーで上位を固めると予想していたんです。ところが実際にはイチローをトップバッターにして、他の福留孝介、城島、岩村選手は下位に並べた。正直、やりづらかったのでは?
岩村: それはチーム事情もあるし、勝つためには誰かが犠牲にならないといけない。これが勝つための打順なのであれば、9番でも何番でもいいという思いはありました。ただ、プロ選手である以上、たとえば元チームメイトの青木(宣親)が3番を打って、自分が9番だったら、「アイツより下なのか」という気持ちもゼロではないですよ。だけど、最終的に日本が勝つならなんでもいい。青木が3番でどんどん打って走ってもらえるなら、そのほうがいいのかなと自分を納得させていました。

二宮: 9番バッターだとリズムが作れなかったのでは? 打席が回ってくるまで間があって、1回凡打になると、また次の打席まで時間が空くでしょう。
岩村: 1回凡打して次まで時間があるのは、1番でも何番でも一緒です。ただ、9番だと打席が3回まで回ってこないこともある。そうすると守備ばかりで、試合に参加していない気分になるんですよ。
 でも、よく考えるとDH制の9番バッターは上位につなげる点で、とても大事な打順。試合をこなしていくうちに、7、8番よりも9番には意義があるんだと感じるようになりましたね。

 原監督からの言葉

二宮: 原辰徳監督から9番起用の説明はありましたか?
岩村: 監督には、まだ誰を使うかわからない最初の時点で「イチローとオマエだけは要として使っていきたい。だから、どういう状況であっても使い続ける」と言葉をかけていただきました。「この人を本当に男にしよう」とモチベーションが上がりましたよ。

二宮: いくら信頼されているとはいえ、まさか9番とは……。
岩村: まぁ、あれだけのメンバーですからね。代表漏れした人間もいたわけですし、選手を落とすといっても、候補の中から状態の良い人間をピックアップする話なので、選考や打順決定は本当に難しかったと思います。監督も相当、悩まれたはずです。

二宮: 原監督は岩村選手に「セカンドに固定する」と告げたと聞きました。サードを守る選択肢は自分の中でもなかったと?
岩村: ええ。セカンド一本で行くつもりでした。後のことを考える状況ではないにしても、サードでプレーするとシーズンに影響する心配もあったので。もちろん、チーム事情で「サードを守れ」と言われれば、やるつもりではいました。

二宮: 昨年、レイズでセカンドにコンバートされましたが、実際には口で言うほど、サードから移るのは簡単ではないでしょう?
岩村: 動きが全然違いますから難しいですね。強いて言えばセカンドは捕球してからがラク。一塁が近いですから、捕るほうに集中できる。サードの場合は逆にスローイングが優先。甘くみていたら、本当に一塁までは遠いですから、少々無理してでも投げやすい体勢で捕らなくてはいけない。

 野球を盛んにすることは使命

二宮: 私は今回のWBCの連覇は、監督選考時のイチローの発言から始まったと感じています。北京五輪で惨敗したにもかかわらず、WBCの代表監督も星野仙一さんで固まりつつあった時に、イチローが「(WBCを)リベンジの場ととらえている空気があるとしたら、チームが足並みをそろえることなど不可能」と言いましたね。その気持ちはよくわかる。メジャーリーグの人間、特に前回大会も出ている選手からすれば、日本はディフェンディングチャンピオン。リベンジではない。そういう思いをイチローは代弁してくれたのではないでしょうか。
岩村: そうですね。僕も少なくとも同じものを感じましたね。出ている選手が一緒であれば、リベンジと言えるかもしれませんが、あくまでも北京は北京、WBCはWBC。WBCはメジャーリーガーが参加する初めての世界大会ですから五輪とは全く違う。
 確かに五輪も世界が認める国際大会かもしれないですけど、今回、正式種目からなくなってしまった。つまり、野球は世界から認められていないスポーツなんですよ。だからこそ野球選手である以上、周りから認められるように頑張るしかない。メジャーであっても日本であっても、野球熱を盛んにさせることは選手としての使命。僕はそう思っています。

二宮: チームとしても韓国に1次ラウンド、2次ラウンドと続けて負けて苦しい時期がありました。ムードはどうでしたか?
岩村: チームのムードは全然悪くなかったですよ。結果論だから何でも言える部分もありますが、逆に1次ラウンド2位通過で気合が入ったことが良かったのかもしれません。

二宮: それにしても、やはり韓国は強敵でしたね。
岩村: 強かったですね。本当にいいバッターが揃っていました。1、2番を打っていたチョン・グンウとか、決勝で9回に同点打を放ったイ・ボムホとかはガッツもすごかった。一発のある3、4番よりも彼たちのほうがイヤでしたね。

二宮: 左腕のボン・ジュングンにも苦しめられました。
岩村: 最初は五輪で苦しめられたキム・グァンヒョンをマークしていましたからね。彼を最初に打ったから「楽かな」って思ったら、さすがメジャーを経験したピッチャー。150キロの速球で勢いがあることに加えて、ピッチングをよく知っている。なかなか打ちにくかったですね。

 ルーティーンを変えないイチローのすごさ

二宮: 韓国との決勝はリードしながらも、終盤に追いつかれる展開。イヤな流れを最後はイチローがバットで振りはらってくれました。
岩村: 最終回に同点になった時は「ヤバイかな」という雰囲気でしたけど、同点止まりで終わった時点で「行ける」と思いました。勝ち越した10回の攻撃は、まず先頭の内川(聖一)がよくヒットで出てくれましたよ。

二宮: 続く稲葉篤紀がバントで2塁に送って、打席に入ったのが岩村選手。レフト前ヒットで、見事なつなぎ役を果たしました。
岩村: バッターボックスに入った時は、僕がランナーを還すつもりでした。イチローさんに回すつもりはなかったんです。ちょっと飛んだコースが悪くて打球が強かったんで、内川の脚ではホームに還れなかった。ただ、1塁ベースを回った瞬間に「これなら絶対イチローさんは打ってくれる」と確信しました。

二宮: イチローの打席で2塁へ盗塁しました。1塁が空くとイチローが敬遠される可能性もあった。この時の判断は?
岩村: ベンチから「行け!」という指示が出ていました。こちらからも「行っていい?」とお伺いを立てていたんで、迷いはなかったです。たとえイチローさんが歩かされても、次の(中島)裕之が決めてくれると思っていましたから。

二宮: ところが韓国のクローザー、イム・チャンヨンはイチローと勝負。ここが勝負の分岐点となりました。韓国ベンチは「敬遠の指示を出したが、うまく伝わらなかった」と明かしています。
岩村: 僕はそうは思いませんでした。韓国サイドにも僕たち選手にも敬遠という雰囲気は全くなかった。むしろ、あの状況でキャッチャーが立って歩かせることのほうが考えられなかったですね。

二宮: メジャーリーグの舞台やWBCでプレーしてみて、イチローのすごさはどこに感じますか?
岩村: 9年連続で同じことを達成し続けるのは本当に難しい。僕も含めて、200本安打を単年で打とうと思っても打てない選手はたくさんいます。それを9年やっちゃう。しかも200本。イチローさんは自分のルーティーンを大事にして、絶対にこれを変えない。
 以前、イチローさんに試合前に挨拶をしたいと思って、ウォーミングアップで走っている最中に呼び止めたことがあったんです。そしたら城島さんから、「オマエすごいな。イチローさん、止めたよ」と言われました。そのくらいアップの順番から時間まで、きちんと決まっている。

二宮: イチローは止まってくれましたか?
岩村: ちゃんと止まって話ができましたよ。でも基本的に日々のルーティーンは崩さない。こんなことはイチローさんにしかできないでしょうね。

 飲み会で生まれた一体感

二宮: 前回大会では途中で肉離れをして、優勝の瞬間はベンチで見届けました。今回はフル出場しての優勝。また違う喜びがあったでしょう?
岩村: 前回は僕もまだ若くて、先輩についていった感じでしたからね。今回は内野手ではガッツさん(小笠原道大)以外、全員が年下。しかもメジャーリーガーでは唯一の内野手なので、自分がしっかりやらなきゃという思いが強かったです。
 最初の宮崎合宿の時には僕が音頭をとって、ガッツさんも含めて内野手で飲み会を開きました。若い連中と一緒にお酒を飲めば、その人間の本性が出ますから、そのほうが逆に付き合いやすい。僕はヤクルトにいた時からチーム内の縦の関係だけじゃなくて、チームを越えた横のつながりも大事にしたいタイプ。ガッツさんとも、もともとオールスターゲームや日米野球で一緒になった時にいろんな話をしてきました。だから今回のWBCではすごくコミュニケーションがとりやすかったんです。

二宮: 中島や片岡易之ら若い選手はどう映りましたか?
岩村: (中島)裕之は一緒に自主トレをやって、飲みに行ったこともあるので、どういう性格か把握できていました。片岡に関しては、本職はセカンドで僕とポジションがかぶる。そこで彼だけに向けたわけじゃないですけど、飲み会の時に「日本の内野は、ここにいるみんなで守っていこう」と話をしました。「WBCは誰が出たからどうこう言って済まされる大会じゃない。先発も控えも関係なく、みんなで守っていこう。誰かがケガをしたら誰かがカバーしよう」と。そこには宮崎の選考で落ちた(栗原)健太もいました。だから最後に(村田)修一がケガをして(栗原)健太が代わりで来た時には「健太、分かっているな? みんなで守るんだぞ」と話しました。最初にそういう話をしていたので、途中から合流しても健太はやりやすかったと思いますよ。

二宮: 栗原には一度、代表落ちした際にも、声をかけたそうですね。
岩村: 「腐るなよ。絶対、このまま腐ったらシーズンが始まっても棒に振ってしまう。もちろん、これで腐らないというのは難しいかもしれない。でもモチベーションを高く持てるように自分で方法を見つけて頑張れ。やるしかないんだよ」と言いました。なんだかんだ言っても僕たちに残された道は野球をやること。そして野球をやり続けるためには結果を出すしかない。

二宮: 今回の左ひざ靱帯断裂や日本時代の右手首骨折など、ケガによる挫折もありましたが、日本一とWBCでの世界一も経験して、野球選手としての大きな目標はほぼ達成できたのではないでしょうか?
岩村: でも、ワールドシリーズを制覇していないですから。まだ夢の続きはありますよ。清純さんのような専門家なら、レイズでワールドシリーズに出たことを評価していただけるのですが、一般的には「最後に負けちゃったね」で終わってしまう。だったら、勝つしかない。

二宮: 今の野球選手は30代前半が全盛期。30歳を迎えた岩村選手のこれからの5年間がとても楽しみです。同郷のひとりとして新天地パイレーツでの活躍を期待しています。
岩村: レイズはヤンキースやレッドソックスと同地区で日本でも中継が多かったんですけど、パイレーツの試合なんてほとんど放送されない。頑張らないと日本では名前が出てきませんからね。せっかくなので清純さんのホームページで、「今日の岩村」ってコーナーを作って成績を更新してください。よろしくお願いします(笑)。

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<岩村明憲(いわむら・あきのり)プロフィール>
1979年2月9日、愛媛県出身。右投左打の内野手。宇和島東高時代は甲子園の出場経験はなかったが、全日本高校選抜の4番を務める。97年ドラフト2位でヤクルトへ入団。00年にはサードのレギュラーとなり、ゴールデングラブ賞を初受賞。翌年、ヤクルトの日本一に貢献した。04年に自己最多の44本塁打をマークしたのを皮切りに、3年連続で打率3割、30本塁打以上を記録。ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞6回の実績を残し、06年オフにポスティングシステムでメジャーリーグに挑戦、デビルレイズ(現レイズ)に移籍した。慣れないセカンドへのコンバートを経験しながら、08年には1番打者としてチームを牽引。球団創設以来10年で9度最下位だったチームを初のリーグ優勝に導いた。今季は3月のWBCで、06年に続き、日本代表のメンバーとして連覇を果たしている。来季からはパイレーツへ移籍。日本での通算成績は打率.300、188本塁打、570打点。メジャーでの通算成績は打率.281、14本塁打、104打点。
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(構成:石田洋之)
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