1月末に行なわれた四大陸フィギュアスケート選手権。多くの五輪代表選手が本番に向けての調整を優先し、欠場する中で、日本代表の浅田真央(中京大)と鈴木明子(邦和スポーツランド)が出場。浅田が見事優勝し、ショートプログラムではトップについた鈴木も2位に入った。これで、ともに大きな自信をもって本番に臨むことができそうだ。前回のトリノ大会に続いて日本選手が金メダルを獲得できるのかが注目される女子フィギュア。国民の大きな期待を力にかえ、バンクーバーに挑む。
前回大会では、グランプリファイナルで優勝しながら年齢制限のためにオリンピックに出場することが叶わなかった浅田。あれから4年。あどけない表情と愛くるしい笑顔の少女は今、大人へのステップを一歩一歩駆け上がっている。技術のみならず、表現力においても飛躍的に成長を遂げ、初のオリンピックに挑む。
そんな浅田の成長と期待をバンクーバー冬季五輪でフィギュアスケート監督を務める財団法人日本スケート連盟・吉岡伸彦理事はこう語る。
「確かに今シーズンの前半は非常に苦労しましたが、今ではいい状態に戻りつつあります。調子も上向きですし、オリンピック本番では最高の演技を見せてくれると信じています。今シーズンのフリーの曲からは、これまでの浅田選手のイメージと大きなギャップを感じる人も少なくなかったと思います。実は私自身も最初に聴いた時には驚きました。しかし、浅田選手が滑るととても良い曲で、観客の心をグッと引き込む力を持っています。これに浅田選手しかできないトリプルアクセルをショート、フリーともに完璧に跳ぶことができれば、皆さんの期待に充分応えることができるでしょう」
その浅田にフリーで逆転され、先の四大陸選手権では惜しくも2位となった鈴木だが、ショートプログラムでは浅田を退けてトップに立つなど、安定感は抜群だ。オリンピック出場権をかけた全日本選手権でも最後の枠を争った中野友加里(プリンスホテル)が高得点をたたき出した後の最終滑走、大きなプレッシャーがかかる中で鈴木は堂々の演技を見せた。途中ミスはあったものの、そこからすぐに立て直しをはかった。後半には躍動感あふれるステップと豊かな表情で観客を引き込ませた。そしてショートプログラムからの逆転で見事、オリンピックの切符をつかみ取ったのだ。
「正直、彼女には浅田選手のトリプルアクセルのようなこれといった武器はないんです。しかし、逆に欠点もない。プログラムも非常にバランスがとれ、メンタルの強さも兼ね備えているので安心して見ることができる選手です。実力的には入賞はもちろん、彼女にだってメダル獲得のチャンスは十分にありますよ」(吉岡理事)
そして、唯一オリンピックを経験しているのが安藤美姫(トヨタ自動車)だ。4年前は18歳と若く、初めてのオリンピックにプレッシャーが重くのしかかっていた。だが、今回はインタビューの様子を見ても非常に落ち着いている。トリノとは明らかに違う彼女の姿に、メダルへの期待が膨らむ。
「もともと彼女は天才肌の選手。だからこそ、浮き沈みが激しい面もありました。しかし、オリンピックを経験したことで、今の彼女には周りを見て自分をコントロールする余裕があります。加えてニコライ・モロゾフコーチの指導も彼女に合っているのでしょう。ニコライコーチは勝つためにはどうすればいいかを熟知している指導者です。そのニコライコーチの考え方を安藤選手がしっかりと理解している。バンクーバーでは最高の状態で臨むことができると思いますよ」
オリンピッククラスの選手がズラリと並ぶ日本女子フィギュアスケート界では、世界大会以上に国内で代表権を獲得することの方が難しいという見方もあるほどだ。その厳しく狭き門をクリアした3選手は、まさに世界トップクラス。荒川静香に続く金メダリスト誕生は決して夢ではない。
その日本選手の最大のライバルとなるのが、キム・ヨナ(韓国)とジョアニー・ロシェット(ロシア)だ。キム・ヨナは周知の通り、ショート、フリー、総合得点でいずれも歴代最高得点を誇る。4年前のイリーナ・スルツカヤ(ロシア)に代わる金メダル候補No.1といっても過言ではない。19歳とは思えない豊かな表現力と、安定したきれいな回転軸のままランディングまでもっていくことができるジャンプは、既に貫禄さえ覚える。
一方、ロシェットはキム・ヨナほどの武器を要してはいない。体もかたく、スピンなどは他の選手と比べると、レベルは決して高くはない。しかし、演技と演技との間にも配慮し、精細につくりこまれたプログラムをしっかりと滑りこなしていることで高得点をたたき出している。また、今大会では地元開催というアドバンテージも否めない。吉岡理事も「地元開催はプレッシャーとなることが多いのですが、北米の選手はそれをエネルギーにしてしまう力があります。だから地元開催の大会にめっぽう強い選手が多いんです」と警戒心を募らせる。
しかし、何が起きるのかわからないのがオリンピックだ。
「4年前、金メダル間違いなしと言われていたスルツカヤが、銅メダルに終わってしまいました。それだけオリンピックという舞台は他のどの世界大会とも異なり、選手にかかるプレッシャーは計り知れません。もうここまできたら、技術うんぬんというよりメンタル勝負になってきます。平常心で、どこまで冷静に自分の演技を出し切ることができるか。メダルの行方はそれにかかっています」(吉岡理事)
出場選手の力が拮抗しているだけに、ショートからの大逆転劇も十分に考えられる女子フィギュア。果たして日本人選手はいくつのメダルを獲得することができるのか。最後まで目を離すことはできない。
さて、男女シングルのほか、アイスダンスにも日本代表が出場する。米国人の父親と日本人の母親をもつハーフのキャシー・リード、クリス・リードの姉弟ペアだ。もともと米国で選手登録していた2人だが、安藤や織田信成(関西大)と同じモロゾフコーチの指導を受けている縁から、06−07年シーズンから日本に所属している。米国に登録していたノービス時代には全米選手権で優勝するほどの実力ペアだ。実は妹のアリソン・リードもグルジア代表としてバンクーバー五輪に出場が決定しており、一家総出のオリンピックとなる。
「弟のクリス選手は昨シーズン、ヒザを痛めてしまい、今ひとつだったのですが、それも完治して、バンクーバーには万全な調子で臨むことができます。出場カップル24組中、実力的には10番前後ですから、入賞の可能性だってありますよ」と吉岡理事も2人の活躍に太鼓判を押す。
オリジナルダンスには日本の名曲「さくら」を選んだ。米国人のニコライが構成を考え、ハーフのリード姉弟が踊るため、日本人が考える「さくら」とは少し異なる。だが、外国人がイメージする「さくら」=「日本人」が垣間見え、実に興味深い。
「見た目は日本人離れした派手さや華やかさが目立つかもしれません。しかし、彼らは日本チームに溶け込もうと、日本語の勉強も一所懸命。そういった真面目さは日本人らしいといえるかもしれませんね」と吉岡理事。スケートの本質的な良さがふんだんに組み込まれているアイスダンスにも注目したい。
(斎藤寿子)
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