「今までいろいろな代表チームを見てきたが、キャプテンシーということならオフトジャパンの時の柱谷哲二が一番かな」。日本サッカー協会名誉会長の川淵三郎は言った。
異議なし、だ。代表監督に初の外国人ハンス・オフトが就任した時のことだ。チームの規律を重視するオフトと個々の能力を尊重すべきと主張する司令塔のラモス瑠偉が対立した。ここはキャプテンの出番だ。「カリオカ(ラモスの愛称)、オマエの言うことはよくわかる」。ラモスをなだめつつ、しかし妥協はしない。「まずオフトの言うとおりにやってくれ。それで結果が出なければ文句を言えばいいじゃないか」。そして、続けた。「カリオカ、アンタは確かに必要な選手だよ。だけどアンタと他の仲間のどっちかをとれ、と聞かれたら、オレは仲間をとる。これだけは覚えといてくれ」
まるで青春ドラマである。夕日に向かって浜辺を走るシーンがあれば完璧だ。ヤンチャではあるが、愛すべきチームだった。
この暑苦しさが、最近は妙に懐かしい。「中村俊輔と本田圭佑は本当に腹を割って話し合っているのか」などという声が関係者から聞こえてくること自体、岡田ジャパンの平熱の低さを物語っている。
余談だが、人体においても体温が低いと抵抗力が落ち、病気にかかりやすいという定説がある。カゼをひいても頭は冷やすが体は冷やさない。むしろ温める。
それはチームという名の生命体においても同じことが言える。体温の低いチームは免疫力に乏しく、外からの圧力や組織内部の相互不信に脆い。この期に及んで言うのも何だが、もっとチームの平熱を上げることはできないものか。
そして、これは日本代表のみが抱える問題ではない。人間が発する言葉には熱も色もあるのだが、メールにするとひどく無機質なものになり、それが常態化すると組織の体温はどんどん低下していく。
最近では5メートルも歩けば、自らの口で伝えられるのに、わざわざメールで用件を伝える者もいると聞く。コミュニケーションの底がそんなに浅くていいのか。深入りを避け、干渉を嫌う「メール世代」のチームワークとはいかなるものか。残念ながら、それを論じている時間はない。
<この原稿は10年6月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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