第3の波、第3世界、第3極、第3のビール、第3のエコカー……。「第3の××」という表現には既存のものとは違う路線で新しく台頭するイメージがある。しかしスポーツの世界で「第3の××」と呼ばれるのは、あまりありがたいことではない。たとえばサッカーの第3ゴールキーパーは、よほどのことがない限り、試合には出られない。それは野球のキャッチャーも同じである。第3キャッチャーは、どんなに選手交代があっても最後の最後の予備としてベンチに残されるケースが少なくない。
しかし、今季のセ・リーグはそんな第3キャッチャーにスポットが当たる不思議な現象が起こっている。首位・阪神は城島健司、藤井彰人のケガで小宮山慎二がマスクをかぶる。広島も石原慶幸、倉義和が離脱し、15日のヤクルト戦では白濱裕太がスタメン出場した。そして東京ヤクルトも相川亮二が右足親指を骨折し、川本良平も故障中ということで、21歳の中村悠平に出番が巡ってきた。
この中村、強肩キャッチャーとして入団時から“古田2世”と期待されてきた。生涯盗塁阻止率.462を誇る古田敦也元監督も「彼のスローイングはいいですね。ビックリするほど、肩は強くないですが、フットワークを使ってテンポよくトントンと投げられる。僕のスローイングと似ている部分がある」と評価していた。
相川離脱後、2度目のスタメンマスクとなった14日の広島戦でも盗塁を1つ刺している。二塁までの送球はこれ以上ないストライク送球だった。テレビ中継のリプレーを見ると、投球前に中村は広島の三塁ベースコーチと、一塁走者の動きを目をキョロキョロと動かして確認しているのだ。おそらく、そのなかで“動いてくる”という気配を察知したのだろう。備えなしにあれだけのスローイングはできまい。野村克也元監督は「キャッチャーに必要な要素は観察力と洞察力」と事あるごとに言っているが、彼は若くして、いい観察眼を持っている。
その“目配り”が光ったシーンは他にもあった。3回、先頭打者の倉義和を打席に迎えた場面。中村は上空を指さし、野手にフライ対応の指示を出したのだ。この指示には2つの意味があったと思われる。まず先発・村中恭兵の球威を考えた時、差し込まれてポップフライが上がりやすいと考えたのが一点。もう一点は、薄暮状態でフライが見えにくくなっていることを注意喚起したのだろう。
果たして、倉は高めのボールに手を出し、高々と一塁へのファールフライを打ちあげた。ファーストの畠山和洋が走り込んでキャッチし、ワンアウト。中継で解説していた達川光男氏も、この中村の細かい指示については褒めていた。
リードに関しても、序盤は村中の投球がインコース寄りに外れる点を逆手にとり、アウトコースのストレートや変化球で勝負させようとしていた。中腰で構えて高めのボールで打者の空振りを誘うなど、横の揺さぶりのみならず、高低の使い方も巧みだった。
ちょうど今季の『2012 FAN BOOK』のインタビューで中村は<ベンチで漫然と試合を見ているのではなく、出ていないときでも、「僕ならこういうリードをする」というシミュレーションをしておきたい>と語っていた。ホームベース上での落ち着きぶりを見ると、それがベンチで実践できていたと言っていいだろう。相川、川本の状況次第では「スタメンで50試合」という目標もクリアできるのではないか。
現時点では相川、川本が復帰すれば、また中村は第3キャッチャーに戻ってしまう可能性が高い。ただ、「プロの世界は、こういうチャンスをモノにできるかどうか。ちょこちょこっと結果を出したら、どうなるかわからない」と古田もエールを送っていた。本人にしてみれば、レギュラー取りへの足がかりを築く絶好の機会である。
ヤクルトファンはキャッチャーにうるさい人種が多い。1990年代の黄金期に古田のプレーぶりを当たり前のように見てきただけに、どのキャッチャーも物足りなく映ってしまうのだろう。レギュラーの相川でさえ、ファンのツイッターやブログでは「リードが消極的」といった厳しい指摘が散見されるくらいだ。今後しばらくは、中村の一挙手一投足に目の肥えたファンの視線は向けられる。“古田2世”や“ポスト相川”と呼ばれているうちは、まだ本物ではない。第3キャッチャーの立場から、近い将来は古田でも相川でもない、中村悠平という“第3の道”をぜひ確立してほしい。
(次回は5月7日に更新します)
(石田洋之)
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