人生には3度の転機があるという。東京ヤクルトの(高井)雄平にとって、最大の転機は3年前の秋に訪れた。投手から野手への転向――。高卒でプロ入りしたとはいえ、もう7年も投手でやってきた。本人は悩みに悩んだのだろう。1度は決断を翻意してサイドスローで投げる道も模索したが、最終的には野手になることで落ち着いた。
(写真:16日のDeNA戦では野手転向後初めてのお立ち台。チームの3連勝に貢献した)
「転向した時は絶対無理だと思った。奇跡です」
 16日の横浜DeNA戦。決勝の内野安打を放ち、お立ち台に上がった雄平は、大粒の汗をしたたらせながら喜びに浸っていた。石の上にも3年とよく言われるが、まさに転向3年目でようやくスポットライトを浴びた。

 9月になって1軍に再昇格し、13日の阪神戦ではトップバッターとして4打数4安打の大当たり。DeNAとの3連戦ではいずれも1番・センターでスタメン出場し、13打数5安打と役割を果たした。
 
 速球派左腕としてドラフト1位入団したが、その打撃も捨てがたいものがあった。個人的に思い出すのが、1年目(03年)の巨人戦(5月7日)だ。満塁で打席に立った雄平は高橋尚成からライトへの走者一掃のタイムリー二塁打を放つ。グングン伸びて外野を抜けた打球の軌道は今でもはっきりと覚えている。これがプロ初安打。高卒の選手とは思えないほどバッティングに力強さがあった。

 しかし、この試合でも直後に反撃を食らって逆転負けを喫するなど、肝心のピッチングは不安定だった。三振は奪えど、同じくらい四球も出し、暴投で走者を進める……。1年目の暴投12個はリーグワースト。2年目以降も先発、リリーフいずれでも期待されたほどの結果は出なかった。

 まじめすぎる性格も災いした。
「本当にすごく練習するし、勉強もする。暇さえあれば、マウンドに行ってボールを握っているような男です。コントロールが課題と言われてきたから、常にいろんなことを試してやってきたんですよ」
 こう明かしてくれたのは古田敦也元監督である。
「いいヤツなんで、みんなからアドバイスされたことを、全部真に受けてしまうんですよね。そんなことを続けていたらノイローゼになるから、『あんまり、やりすぎるな。オマエの性格からして、やり過ぎるとハマるぞ』と言ったことがあります。でも、彼にとっては、それもひとつの意見として迷う材料になってしまうんです(苦笑)。ちょっと悪いこと言ったかなと、今となっては反省しているんですけど……」

 野手転向してからは投手への未練を断ち切るように手の皮がベロンベロンに剥けるほどバットを振り込んだ。その甲斐あって、2軍では昨季、規定打席到達者ではトップの.330をマーク。今季は青木宣親が抜けて外野の一角が空き、アピールには絶好のチャンスがめぐってきた。

 ただ、1軍ではなかなか快音を響かせることができなかった。打率は1割台に低迷し、5月には2軍へ降格した。ファームに落ちて取り組んだのはフォーム改造だ。それまでの雄平は大きく構え、足を上げて打つスタイルだった。ただ、1軍のキレのあるボールにはどうしても差し込まれる。インコースに対応し切れない点がネックだった。

 足をあまり上げず、無駄な動きを減らす。シャープに振りぬくスイングを目指した。シーズン中のフォーム変更はリスクを伴う。2軍でもなかなか成績は出なかった。
「でも、このままでは1軍に上がっても打てないぞ」
 2軍の監督、コーチ陣の言葉を信じ、我慢した。

 その成果は1軍の舞台で実を結びつつある。お立ち台に上がる前日(15日)の試合ではDeNA先発左腕の王溢正から2安打を放ったが、その2本目はインハイのストレートを詰まりながらもセンター前へ運んだ。
「王はイースタンでも対戦していてインコースに抜けてくるボールが多いのが特徴。だから意識は内側に置いていました。決していい当たりではなかったですけど、ポテンヒットになってくれて良かったです」
 以前だったら、空振りしていたかもしれない苦手なコースを外野まで打ち返せた。雄平の表情からは手応えをつかんだ様子が見てとれた。

 もちろん1軍に完全定着するには課題も多い。本人は「狙った球をミスショットすることが多い」と語る。伊勢孝夫総合コーチは「いろいろ取り入れるのはいいが、やり過ぎのところがある。せっかくいい形で来ていても、すぐ変えては自分のものにならない。ひとつのことを継続して徹底してやってほしい」と古田同様の指摘をした。結果が出なくなった時、2軍でできたような辛抱ができるかどうか。

「打撃のコツはなかなかつかめない。狙い球を絞って、粘って粘ってコツコツ打っていきたい」
 間違いなく雄平にとって人生の転機であり、好機が巡ってきた。良い方向へ転がせるかは今後の自分次第だ。「野手になって良かったか」と訊ねると、28歳は「良かったと思えるように、これからも頑張りたい」と答えた。プロ10年目でも外野手・雄平としての野球人生はまだ始まったばかりである。

(次回は10月1日に更新します)

(石田洋之)
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