トニ・ブランコのグランドスラムがナゴヤドームのレフトスタンドに突き刺さった瞬間、事実上、東京ヤクルトの2012シーズンは終わりを告げた。そしてクライマックスシリーズ(CS)の敗退により、プロ19年目の福地寿樹、17年目の宮出隆自の現役でのユニホーム姿はもう見られない。
 特に宮出はベンチ入りはしたものの、3試合とも出場なし。「最後に大きな仕事ができるように頑張ります」。その思いを一振りに込めることは叶わなかった。

 もし勝ち進んで東京ドームでの巨人戦となれば、宮出がキーマンのひとりになるはずだった。巨人戦の今季打率は.389。記憶に新しいのが、9月21日の試合だ。巨人の優勝がかかった一戦で左腕の内海哲也からドームの左中間に一時は同点となる3ランを放った。とりわけ内海にはめっぽう強く、8打数6安打とカモにしていた。

 今季は3年ぶりのホームランを放つなど、打率.296、3本塁打。対左ピッチャーは打率.349とサウスポーキラーぶりを発揮していた。
「ホームランはたまたま。狙って打てるようなバッターじゃないよ」
 そう笑いながらも、今季は「統一球の対応ができてきた」と手応えを口にしていた。
「今のボールは飛ばないから、ただ押し込むだけでは打てない。うまく手首を使ってヘッドを走らせる技術が必要になる。最初は苦労したけど、だいぶ分かってきた感じがするかな」

 宇和島東高校から1995年のドラフト2位でピッチャーとして入団したものの、当時からバッティングの評価も高かった。
「僕自身、バッティングのほうが好きでしたからね。ピッチャーでプロに入るとは思っていなかったですよ」

 190センチを超える長身から投げ下ろす速球が魅力だったが、コントロールは決して良くなかった。それでも3年目には4月22日の中日戦でプロ初先発で初勝利。しかも今中慎二から初安打初打点をマークするおまけがついた。今、思えば、この時点から左殺しの片鱗をのぞかせていたのだ。

 2000年には自己最多の22試合に投げて3勝を挙げたが、この年の最終戦では当時広島の金本知憲に30号ホームランを打たれ、史上7人目のトリプルスリーの陰の立役者になっている。
「最後の登板で防御率も上がって、あの時は最悪の気分でした。でも、今となってはいい思い出ですね」

 その後、故障もあり、野手に転向。野手2年目の03年5月には地元・松山で阪神・藤川球児からプロ初本塁打を放った。個人的にも印象深いのは2005年4月16日の巨人戦。最終回に左腕の林昌範からレフトスタンドへサヨナラアーチを描いた。「まだあの時は若かったから興奮して眠れなかったんですよ。今はすぐ寝ちゃうけどね(笑)」と本人も思い出に残る一打にあげていた。

 プロでは投手として49試合に登板し、6勝5敗、防御率4.73。野手としては649試合に出場し、投手時代も含めれば458安打、39本塁打、216打点、打率.277。結果的にはレギュラーシーズン最終の広島戦で8回にセカンドフライに倒れたのが現役ラストの打席になってしまったが、「最後は振って終わりたかったので悔いはないです」と言い切った。

 CSを控えていたため、福地同様、引退試合は行わなかった。ただ、最終戦後のセレモニーではプロで1年先輩にあたる宮本慎也から花束を渡され、思わず涙がこぼれた。
「宮本さんは入ってきた時からいる唯一の選手。性格もすべて知っている。楽天に移籍した時もずっとお付き合いしていただきました」
 その宮本からは「お疲れさん。CSあるから長くユニホーム着られるように頑張ろう」と声をかけられた。

「泣かないと決めていたんですけど、涙が出てしまいました。“泣いたら罰金”と言われていたんですけどね(笑)」
 2009年の開幕前、交換トレードで東北楽天に移籍が決まった際も宮出は涙を流していた。
「僕のためにみんなが集まってくれて送別会をしてくれました。“またみんなで野球できたらいいな”って話をしていたのが印象に残っています」
 2年間の仙台生活を経て、昨季からは再び古巣に。多くの選手から慕われ、またみんなで野球ができた。ただ、東京ドームでの戦いを経て、最後にもう一度、神宮でユニホームを着て現役生活を締めくくることはできなかった。

 個人的な話になるが、宮出は母校の先輩にあたる。高校時代の宮出を間近で観た時、その体の大きさに圧倒された。まだプロ野球選手ではなかったが、“これがプロレベルなんだな”と体感させてくれた初めての存在である。僕は当時からスポーツに携わる仕事を希望しており、“いつか母校の先輩を取材したい”という思いを抱いてきた。その意味では僕自身にとっても夢を与え、そして叶えてくれた存在である

 かつて大杉勝男が引退の際に、あと1本で届かなかった両リーグでの200号本塁打に触れ、「この1本をファンの皆様の夢の中で打たせていただきますれば、これにすぐる喜びはございません」と語った。後輩の勝手なお願いかもしれないが、先輩にはもう1本、特大の一撃を、ぜひ夢の中で打たせてほしい。

 勝利に導く粋な男・宮出、気合だ! その一振り輝く瞬間――気合だ! 燃えろ! 宮出!

(次回は11月5日に更新予定です)

(石田洋之)
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