「オフがあるので仮に肉離れしても無理して投げるつもりでした。靭帯断裂とか、そういう大ケガさえしなければ……」
 一昨年、昨年とクライマックスシリーズを前に館山昌平の右腕は限界に達していた。一昨年は右手指の血行障害で人差し指と中指の感覚がなかった。そのオフに手術を受けて血行障害は改善されたが、昨年は右ひじが悲鳴をあげていた。
(写真:実際、一昨年のCSでは右前腕の肉離れも起こしていた)
 だが、マウンドでは、そんなことをほとんど感じさせないような熱投をみせた。11年は巨人とのファーストステージ第1戦に先発し、5回1失点。中日とのファイナルステージでは第2戦に8回からリリーフで登板して逃げ切り勝ちに貢献し、中2日で第5戦に先発した。12年は中日とのファーストステージ第2戦に先発。後がない中、6回無失点で1勝1敗のタイに持ち込んだ。

 本人によると、血行障害に苦しんでいた一昨年は人差し指と中指がしびれていたため、特に真っすぐやスライダーはリリースの感覚がわからなかった。
「抜けるし、回転もかからないし、1球1球投げるたびに指に耐えられないような痛みが走るんです」
 血が通わない指は冷たく、へこんだまま、元に戻らない。爪も伸びず、今にも剥がれ落ちそうな状態だった。

 では、そんな指でいかにしてボールをコントロールしたのか。へこんでしまう指を逆に利用したのだ。
「投げる前に指にギュッとボールの縫い目に押し付けるんです。そうすると指に縫い目の跡がそのまま残るので、それに引っ掛けて投げていました。真っすぐでも、ある程度は思ったところに投げられるようになりましたね。この発見は面白かったですよ(笑)」
 ピッチャーにとっては致命的な状態であっても諦めることなく最善手を模索する。その姿勢には本当に感心させられた。

 しかし、「靭帯断裂とか、そういう大ケガさえしなければ」という最も恐れていたことが今回、起きてしまった。4月5日の横浜DeNA戦、今季2度目の先発マウンドで右ひじの異常を訴えて緊急降板。翌日に検査を受けた結果、内側側副靱帯の再建手術が必要であることが判明した。12日に手術を受け、全治1年。5年連続で2ケタ勝利をあげていた右腕が、今季は1勝もできずにシーズンを終えることになってしまった。

 館山にとって右腕にメスを入れるのは、もう5度目になる。日本大4年の春に右肩棘上筋の部分断裂部をクリーニング、プロ入り2年目の04年春には右ひじの靭帯再建、翌05年秋には右ひじの神経移植……。11年秋には右手指の血行を改善すべく、指の両サイドを切り、血管を圧迫していた筋肉を切除した。4回の手術で計91針も縫った。
(写真:浦添キャンプ中の取材では「こんなに切るとは思わなかった」と手術の跡を見せてくれた)

「10年で4回も手術しているんで、あと10年野球をやり続けるには、あと4回手術しないといけないかもしれないですね(苦笑)」
 そんなブラックジョークを飛ばすほど、ケガまたケガの野球人生である。

 一方で、それはチームのために全力で投げ続けてきた証でもある。
「安全運転で行けるほど、この世界は甘くない。後先見ずにペースを落とさずに全開でやっているのでリスクはありますよ。いつか、またケガするんじゃないかという不安がないわけではない。ただ、たとえ、そうなっても後悔だけはしないように、と思っています」
 この春のキャンプ中、自身のスタンスをそう語っていたことを思い出す。今回の靭帯断裂に関しても「試合中に切れたので悔いはない」と言い切った。

「実は手術をする時は、気持ちがちょっとワクワクするんです」
 こちらが思わず、「え?」と聞き返してしまうようなセリフを館山は口にする。
「手術の痛みはあるかもしれないけど、それがとれれば、もう肩やひじで悩むことはない。だから、どうやって体をつくり上げていこうかと術後のことばかり考えています」
 
 術後に向けての準備も怠りない。手術を受けると決まれば、普通の発想ではトレーニングを休むものだが、館山の考えは違う。
「入院しなくてはいけないので、その前に思い切りウエイトトレーニングをするんです。入院中も筋肉痛が残るくらい。そうするとリハビリを始めた時に体の動きが違ってくる。何もしていないと体を元に戻すのに時間がかかってしまいますから」
 おそらく今回もハードに鍛えて病院に乗り込んだのだろう。復活への道のりは手術を決めた時点で始まっているのだ。

 館山は「自分のピークは2010年の後半だった」と明かす。その後は血行障害の影響もあって、自分の思い通りのピッチングができていないからだ。
「正直、1度、山のてっぺんまで登りきってしまったと思うんです。そこから、今はちょっと山を下っているところ。だから、もう1回、もう少し高い山へ登りたい気持ちがあります」
 右肩を故障した後は腕の位置をスリークォーターに下げるなど、ケガを乗り越えるたびに新たなスタイルを身につけてきた。ひじの靭帯を再びつなげた先には、どんな館山昌平が待っているのだろうか。

「もし次に靭帯が切れたらバネを入れてくれないかなと思うんですよ。そしたら、どんなピッチングができるか」
 キャンプ中、そんな冗談も言っていた。頼れるエースの開幕早々の離脱はチームにとって本当に痛い。誰よりも本人が一番、無念な思いを抱えているはずだ。ただ、サイボーグと化した右腕は必ずや、バージョンアップした姿でウイニングボールをつかむに違いない。

(石田洋之)

(次回は5月6日更新です)
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