
「僕が起爆剤となってチームを盛り上げていきたい」
5月29日のオリックス戦、初のお立ち台に上がった3年目の山田哲人はファンに向かって高らかに宣言した。不振の田中浩康に代わって5月25日に1軍に昇格。この日から1番に据わって、2安打4打点を叩き出した。
(写真:足を大きく上げるフォームは池山打撃コーチの現役時代を彷彿とさせる) それから4日後の千葉ロッテ戦、敵地のQVCマリンフィールドで再びヒーローインタビューを受けた。3−3の同点に追い付かれた直後の8回、1死一、二塁のチャンスで右中間を破る勝ち越しの三塁打を放った。
「僕が活躍して、どんどんチームに貢献したいと思っている」
20歳の若武者が昇格して以降、彼がマルチヒットを放つか、打点をあげた試合は勝利している。その意味では、まさにリードオフマンの働きぶりが白星に直結している。
「バットは振れているので、あとは結果が出るか出ないかだと思っていました」と本人は語る。開幕から2軍暮らしが続いたものの、ファームでの打率はイースタンリーグ9位の.303。満を持しての昇格だった。
今季の山田は滑り出しは良かった。春のキャンプでは、初実戦となる紅白戦でホームラン。ショートの川端慎吾が早々に離脱したこともあり、開幕スタメン争いに割って入るかと思われた。
ところがオープン戦では10試合で打率.190。生き残りに失敗し、ファームに落とされた。打撃でアピールしきれなかった一因には、一段上をにらんだスタイル変更が影響していた。昨オフから山田は宮本慎也らのアドバイスもあり、広角打法に着手した。しかし、実戦が進むにつれて、外のボールをうまく弾き返そうと意識するあまり、インコースの速球に振り遅れるかたちになってしまったのだ。
「僕はまだ広角には打てません……」
開幕1軍が潰えた山田は、思わず2軍の杉村繁打撃コーチにそんな弱音を吐いた。
「じゃあ、引っ張ったからといって30本、40本、ホームランが打てるのか。広角に打てるようにすべきじゃないのか」
失意の若者を杉村は叱咤激励し、右打ちを徹底して取り組むことを決めた。練習中はもちろん、試合後も居残りのティーバッティングや特打を連日敢行。外のボールを右方向へ運ぶポイントやスイング軌道を体で覚えこませた。
大阪の強豪、履正社高からドラフト1位で入ってきた選手だけに、もともとのレベルは高い。「ヘッドスピードの速さは、僕が横浜のコーチ時代にみた内川(聖一、現福岡ソフトバンク)と同レベル。ポイントさえつかめば広角に打てると見ていました」と杉村も評する。宮出隆自コーチも交えた特訓の甲斐あって、1軍昇格後の8本のヒットは、レフト方向が2本、センターが4本、ライトが2本と、きれいに打ち分けている。
“広角打法のリードオフマン”といえば、今やブルワーズを牽引するメジャーリーガー・青木宣親を思い出す。彼が東京ヤクルトのトップバッターとして広角にヒットを量産していた頃に背負っていた番号「23」を山田は入団時に受け継いだ。
履正社高の岡田龍生監督が「バッティングも守備もいいし、足もある。でも表に出ていた力は氷山の一角だった」と話すように、プロ1年目から潜在能力の大きさを示してきた。ルーキーイヤーの2011年は中日とのクライマックスシリーズ・ファイナルステージで抜擢され、第4戦ではマルチヒットを記録した。
昨季は8月の巨人戦で、最多勝左腕の内海哲也から東京ドームのレフトスタンドへプロ初アーチを描いた。しかも試合前、上田剛史に「内海さんなんで、ホームラン打ちますよ」と“予告”していたというのだから恐れ入る。
高校では1年からベンチ入りし、甲子園での一発も含む通算31ホームラン。先輩であるT−岡田(オリックス)にちなんで、T−山田の愛称がつけられた。プロを意識し始めた2年の冬、母校で自主トレをする長距離砲の姿がお手本になった。岡田監督は「野球に対する姿勢がガラリと変わりました」と17歳の転機を振り返り、こう続ける。
「プロに行くには何をすべきか。体づくりも一生懸命するようになりましたし、ひとつひとつのプレーに手を抜かなくなりましたね。たとえ凡打になっても常に全力疾走していましたよ」
10年のドラフト会議では斎藤佑樹(北海道日本ハム)、塩見貴洋(東北楽天)の外れ外れ1位とはいえ、オリックスとの競合となった。入団会見では「青木さん、宮本さんのように日の丸を背負える有名な選手になりたい」と夢を語り、特技の逆立ちで花道上を移動してファンを驚かせたのは記憶に新しい。
1番打者としてのみならず、高校2年以来というセカンドの守備もはつらつとこなしている。28日のオリックス戦ではライト前に落ちそうなフライを追いかけ、後ろ向きのままキャッチ。飛び出していた一塁走者もアウトにして併殺を完成させた。
当然、2軍落ちしているレギュラーの田中もこれから黙ってはいないだろう。杉村コーチによると「内と外のボールをとらえるポイントが一緒になっていたのが不調の原因。それが解消されて、いい打球が飛び始めた」と復調気配だ。
同じ内野手では荒木貴裕も2軍で打率.345とリーグ2位の好打率をマーク。今年の初めはショート川端、セカンド田中がテッパンと見られていた二遊間だが、熱い火花が散り始めた。山田も「残り試合、全部出場できるように頑張りたい」と一歩も引くつもりはない。
実際の起爆剤は火をつけると燃え尽きてしまう。交流戦も低迷中のチームにおいて、確かに着火役となっている山田だが、それだけで終わってほしくない。T−山田の「T」は、TNT火薬の「T」と言わんばかり、花火の季節に向かって爆発を続けられるか。湿っぽい6月は起爆剤の真価が問われることになる。
(次回は6月17日に更新します)
(石田洋之)
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