打率.377、11本塁打、21打点。
 6月の月間MVPはこの男で決まりだろう。東京ヤクルトの4番ウラディミール・バレンティンである。打率、本塁打、打点とも月間リーグトップで“三冠王”の働きぶりだった。
 6月6日からは4試合連続でアーチを量産し、8日から12日にかけては日本タイ記録となる4打席連続ホームランを放った。27日の横浜DeNA戦では初回に3ラン、最終回にソロをスタンドに叩きこみ、一時はホームランダービーを独走していたDeNAのトニ・ブランコと25本で並んだ。

 バレンティンはオランダ代表で出場したWBCで左足股関節を痛め、開幕は出遅れている。出場56試合で25本は、かなりのハイペースだ。このまま残り試合も打ち続ければ、シーズン終了時には58本塁打に達する。タフィ・ローズ、アレックス・カブレラが塗りかえられなかった王貞治のシーズン記録(55本)を上回る計算だ。

 チームがなかなか波に乗り切れない中、カリブの怪人がひとりノリノリな理由はどこにあるのか。
「頭が突っ込んでいかず、ちゃんと残っている。それが好調の証やね」
 バレンティンのバッティングを見守ってきた伊勢孝夫ヒッティングコーディネーターはそう分析する。

 昨季までのバレンティンは一発はあっても、確実性には欠けていた。来日1年目は31本でホームランキングに輝いたものの、打率はわずか.228。インハイで体を起こし、外へのスライダーを投げ込めば、高い確率でバットが空を切った。打ちたい気持ちが先走って、外のボールを追いかければ追いかけるほど、頭が突っ込み、調子を崩していた。
 
 しかし、3年目を迎え、相手の攻めをバレンティンが理解し、対応できるようになってきている。6月23日の広島戦では前田健太の決め球であるスライダーをライトスタンドへ運んだ。バレンティンは試合後、「前の打席を見て自信のあるスライダーを持ってくるのはわかっていた」と狙い打ちであったことを明かしている。

 外の変化球をむやみやたらと追いかけないため、上体が残り、バットも止まる。昨年までは全打席数で2割強もあった三振が、今季は1割台に減少している。出しかけたバットを止め、自ら一塁塁審を指差してチェックスイングを要求するシーンが目立つのもボールが見えている証拠だろう。

 打席内でボールをしっかり待てている要因には今季から仕様変更になった統一球も影響しているに違いない。反発係数がアップし、打球の飛距離は格段に増した。「思ったよりボールがよく飛ぶ」とは本人の談だ。事実、横浜スタジアムでは場外弾を1試合に2本もかっ飛ばし、外野が広いホームの神宮球場でもバッティング練習で場外に飛ばしてしまった。

「芯でとらえられたら、完璧にスタンドまで運ばれる。詰まってもフェンスを越えちゃうから大変ですよ」
 驚愕のパワーに他球団のあるピッチャーはそんなボヤきを漏らしていた。バットでつかまえさえすれば、長打が見込めるなら、そこまで無理に振り回す必要はない。打席内での余裕も好成績につながっている。

 ライバルの存在も大きい。昨年、一昨年とホームラン王レースは、ほぼバレンティンの独走状態だった。昨季は夏場に1カ月強の離脱があり、規定打席未満だったにもかかわらず、タイトルを獲得した程である。それが今季はブランコと高い次元でアーチを競う。

「ブランコのことは意識はしていない」
 本人はそう平静を装っているが、27日のDeNA戦ではブランコが先に25号の花火を打ち上げたのを見て、最終回にこの日2本目のホームランで追随した。DeNAはもともと得意としていたが、今季も打率.375、5本塁打と打ちまくっている。

 ただし、ファンなら誰でも知っている通り、バレンティンは波の激しい選手だ。過去2年、11年5月、12年4月と月間MVPを獲得しているが次の月は絶不調に陥っている。
11年5月=打率.397、7本塁打、14打点 
11年6月=打率.135、3本塁打、7打点
12年3・4月=打率.308、6本塁打、16打点
12年5月=打率.191、6本塁打、9打点

 バッティングの調子が悪くなると、守備、走塁もおろそかになりがちだ。今季も5月にピッチャーゴロで一塁へ走らず、小川淳司監督から「論外」と交代させられたのも記憶に新しい。現状、バレンティンの後を打つ5番打者は固定できず、打率.233と結果も出ていないだけに、今後、ますます相手が勝負を避ける機会も増えてくるだろう。打ちたい思いがはやるばかり、ボール球に手を出してバッティングが狂う心配は捨てきれない。

 だが、借金返済プランがなかなか見いだせないチームにおいて、カリブ海が生んだ助っ人の特大アーチは希望の虹である。6月は主砲の一発が飛び出した試合でも1勝8敗と大きく負け越し、空砲に終わることが多かった。「ホームランは打っても、負けたのでうれしさは半減」「なんとか勝利に貢献できるようにと考えている」などと本人もチームの勝利を欲している。

 月が変わって7月。チームにとってもバレンティンにとっても今後を左右する重要な1カ月である。「勝利の女神が微笑む、スタンド揺るがす一振り、アーチを描け」との応援歌の如く、勝利の女神がニッコリするような一撃を夜空にたくさん飛ばしてほしい。

(次回は7月15日に更新します)

(石田洋之)
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