まだ、あどけなさの残る顔立ちである。入寮時には友人からもらったクマのキャラクター「リラックマ」を手に笑顔をみせた。
 児山祐斗、18歳。岡山・関西高から東京ヤクルトにドラフト5位指名を受けて入団したサウスポーだ。今季、チーム唯一の高卒新人ゆえに、早くも同期のルーキーたちやファンから愛されている。
(写真:年末年始には高校の先輩の上田や、同じ岡山県出身の星野と自主トレをした)
 だが、ひとたびマウンドに上がると優しい顔つきに似合わぬピッチングをみせる。ストレートで真っ向勝負を挑む強気のスタイル。3年夏の岡山県大会準決勝では、2点リードの最終回、21球すべてストレートを投じ、チームを勝利に導いた。「ストレートが自分の持ち味」と本人も断言する。

 MAX140キロと球速はさほどでもない。しかし、テイクバックが小さく、前でボールを離すため、バッターはスピードガン以上の球威を感じる。担当の岡林洋一スカウトも関西高の江浦滋泰監督も「球持ちがいい」のが長所と口を揃える。
「調子がいい時は、相手バッターがストレートと分かっていても、きちんととらえられないんです。狙っていても打てないボールを持っているピッチャーなんてなかなかいません。これは彼の大きな武器です」
 
 そう江浦が評するストレートを生みだすフォームは天性のものである。小学3年でピッチャーを始めた頃から「誰かから教わったのではなく、自然と、あのフォームになっていました」というのだから驚きだ。
「自分のフォームを意識したのは高校に入ってから。監督から“フォームがいい”と言われたので、それを生かせるように取り組んできました」

 コントロールも良く、江浦に見込まれて1年秋からベンチ入りを果たすが、まだ当初は線が細かった。体重は61キロ。1試合を投げ抜く体力が備わっていなかった。「1年の頃からプロへ行きたいという目標を持っていましたから、練習ではそのための体づくりに重点を置きました」という江浦の下、筋力トレーニングはもちろん、食事内容も部で提携している管理栄養士とメニューを写真付きメールでやりとりし、アドバイスを受けた。女手ひとつで世話をしてくれた母は毎日、弁当とは別に、おにぎりを10個も持たせてくれた。

 その甲斐あって、児山の体はみるみる成長していった。「特に2年の夏前に一段と大きくなりましたね。2年秋の中国大会はボールが低めに集まって、安定感が増しました」と江浦は振り返る。体格は今では182センチ、85キロと見違えるほど立派になった。

 技術面でもブルペンでホームベース上に置いたボールに投球を当てる練習を繰り返し、制球力がさらにアップ。2年秋の中国大会では全4試合をひとりで投げ切り、優勝に貢献した。地区代表として出場した明治神宮大会でも2回戦、準決勝と完投勝ちし、決勝にコマを進める。

 決勝の相手は4番にプロ注目の左打者・上林誠知(福岡ソフトバンク4位指名)を擁する仙台育英。3連投の児山は神宮の舞台で、野球人生で最も悔しい経験をする。7連打を含む12安打を浴びて2回途中9失点KO。上林にも2点タイムリーを許した。
「ストレートで思い切って勝負に行ったんですが、全部打たれた。力不足を痛感しました」

 その後の高校生活でも自らの最大の武器でバッターに立ち向かっていきながら、肝心なところで抑え切れなかった。3年春のセンバツ(対高知)も、夏の県大会決勝(対玉野光南)も、中盤までは好投をみせながら、最終的にはストレートを弾き返され、涙を飲んだ。

「変化球の精度がまだまだなので、どうしてもストレートを狙われる。調子がいいとそれでも抑えられるのですが、疲労が溜まるとキレが落ちて、つかまってしまうんです」
 江浦の指摘を胸に、児山はプロ仕様のピッチャーにレベルアップすべく、変化球の習得に励んできた。身につけようとしているのは縦に曲がるスライダーやフォークボールだ。
「ドロンとしたカーブや、120キロくらいのスライダーしか投げられなかったので、ストレートに近い速さの変化球を身につけたいと思っています」
(写真:背番号は、石井弘寿2軍コーチが現役時代につけていた「61」。ともに左腕だが、日常生活では右を使うなど共通点がある)

 それでも、「変化球を練習するのは、ストレートを生かすため」と目指す方向性はブレていない。高校時代、帽子のひさしの裏には「威風堂々」と書いていた。「ピッチャーはみんなに見られている。どんな場面でもピッチャーは感情を顔に出さず、笑顔で安心感を与えたい」との思いからだ。これまでで一番、悔しい思いを味わった神宮のマウンドで、今度はプロの強打者を威風堂々とストレートで牛耳る。それが秘めたる目標である。

「僕は小さい頃からプロ野球選手に憧れて野球をやってきました。だから、今度は自分が子どもたちの憧れとなるような選手になりたいです」
 最後に児山は表情をキリッと引き締めて決意を語った。その顔は既に少年のものではない。勝負を賭ける男の面構えだった。

(次回は2月3日に更新します)

(石田洋之)
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