夏場の巻き返しへ昨季の最多勝右腕が戻ってくる。
 4月に打球を受けて右掌を骨折していた東京ヤクルトの小川泰弘が7月5日、戸田球場でのイースタンリーグの混成チーム「フューチャーズ」戦に先発登板。5回を3安打無失点に抑え、今週中の1軍復帰が濃厚となった。
 この日、小川をリードしたのが同期入団の星野雄大だ。これまでブルペンでボールを受けてきたことは何度もあったが、実戦でバッテリーを組んだのは初めてだった。
「やはり2軍のピッチャーとはレベルが違う。勝てるピッチャーだなと感じましたね」
 ルーキーイヤーから1軍で勝ち星を積み重ねてきた右腕の投球術に星野は感心させられた。

「たとえ投げミスがあっても、絶対に危険な方向にはいかない。追い込んでカウントに余裕がある時は勝負球であっても、ベース板の端の方に投げてくるんです。これならヒットになっても長打にはならない。そういったことを1球1球、考えながら投げてくれる。リードをしていて僕も勉強になりましたね」

 特に印象に残ったのはインコースへのピッチングだ。ストレートでコースをきっちりと突き、ファウルを打たせてカウントを稼ぐ。インコースを意識させておいて、最終的には変化球でポンポンとアウトを重ねていく。
「でも、後で話をしたら、変化球で空振りが取れなかった点を反省していました。2軍レベルで簡単に変化球で仕留められなかったら、1軍では抑えられないと感じたのでしょう。結果が良くても、全く満足したところがない。そういった意識の高さは同じチームメイトとして刺激を受けました」

 四国アイランドリーグplusの香川から入団して2年目の星野にとって、インコースの使い方はリード面でのひとつの課題だ。NPBのピッチャーはアマチュアと比較すれば総じてコントロールがいい。そのため、ついつい外中心の安全策に走ってしまう。しかし、外一辺倒で抑えられるほどNPBのバッターは甘くない。かといって、ただ闇雲にインコースへ投げさせれば良いわけでもない。インコースを意識させつつ、外のコースで勝負したり、別の球種で打ち取る。逆に外を意識させて、内で仕留める方法もある。状況やバッターの特徴、狙いを見極めながらの駆け引きが求められる。
(写真:「1軍に上がっても、やるべきことをきっちりやりたい」とコーチの話に真剣に耳を傾ける星野<右>)

「ピッチャーだって生活がかかっているんだ。もっと考えてリードしてやらきゃダメじゃないか!」
 星野が2軍の野村克則バッテリーコーチからカミナリを落とされたのは、3月28日の千葉ロッテ戦だった。試合途中からマスクをかぶり、松岡健一とバッテリーを組むも、7安打を集中され、一挙6点のビッグイニングを与えてしまったのだ。

「松岡さんはシュートがあるので、インコースにはそれを使っておけば大丈夫と安易に考えてしまったんです。それで単調なリードになってしまった。もっと他のボールを交ぜたり、勝負球と見せ球を使い分けたり、工夫が必要でした……」
 乱戦の末、試合は12−11で延長サヨナラ勝ちを収めたものの、星野には苦い思いしか残らなかった。

 リードは一朝一夕には上達するものではない。指導する野村コーチは「まだまだ経験が必要」と話す。
「星野に限らず、2軍のキャッチャーには“いろいろなことに興味を持て”と言っています。さまざまなことに興味を持ち、視野を広げることで感性が磨かれる。それが試合でも生きてくるようになるんです」

 1軍昇格には越えるべきハードルはいくつもあるが、自らの持ち味すら見失っていた1年目と比較すれば星野の表情は明るい。
「スローイングには自信があったのに、盗塁が全く刺せませんでしたから……」
 昨季は春のキャンプで1軍メンバー入りしながら、実戦ではスローイングエラーもあり、アピールしきれなかった。2軍降格後も送球に悩み、夏場には体重がガクンと落ちた。

 自信を取り戻したのは、今年に入ってからだ。野村コーチから「スローイングは余韻を楽しめ」とアドバイスを受けた。
「要するに“しっかり前でボールを放せ”という意味です。スローイングが安定しなかった時の僕はヒジを巻きこむような感じで投げていてフォロースルーが小さかった。手を前に伸ばす感覚で放ると、今まで悩んでいたのがウソのようにラクに投げられるようになりましたね。その感覚を忘れないように今はショートスローや遠投を繰り返しています」
 長所であったスローイングの良さに磨きがかかり、野村コーチからも「捕って投げる技術は1軍クラス」と太鼓判を押されるようになった。

 ヤクルトのキャッチャー陣で現状、1軍でマスクをかぶったことがないのは星野だけである。ルーキーの藤井亮太にも先を越された。2軍では西田明央に次ぐ試合数でキャッチャーを任されているが、イースタンリーグでの打率は昨季に引き続き1割台。1軍から声がかかるには打力アップも不可欠である。

「バッティングに関しては宮出(隆自)コーチに熱心に教えてもらっています。僕はヘッドがピッチャー方向に入りこみ、バットが遠回りして下から出るクセがある。その点を今年のキャンプから修正しているところです。僕が1軍に行っても最初は8番バッターでしょう。簡単にヒットは打てなくても、粘って粘って四球を選んだり、相手のエラーを誘うような打球を打ったり、出塁できるバッターにならなくてはいけないと感じています」

 フューチャーズ戦で小川との初バッテリーを経て、星野は改めて1軍への思いを強くした。
「もう一度、今度は1軍でリードしてみたいですね。同期の石山(泰稚)も2軍に落ちて先発のテストをしていた時にはバッテリーを組んでいました。今、1軍で先発をしていますから、彼のいいところを引き出して同期生でチームの勝利に貢献できるようになりたいです」
 
 野村コーチは「星野は決して器用なタイプではないけど、逆にそれは強みにもなる。器用な人間は飲み込みも速いけど、抜けるのも速い。不器用でもひとつひとつ吸収して着実に自分のものにしていけば、1軍で通用するキャッチャーに成長できるはず」と背番号37の今後に期待を寄せる。

 将棋の歩は前にひとつずつしか進めない。しかし、敵陣に入った途端、「と金」に変わる。星野も輝く「と金」を目指し、一歩一歩、神宮への道のりを進んでいる。

(次回は7月21日に更新します)

(石田洋之)
◎バックナンバーはこちらから