「この年齢になると、自分にヒットが出なくてもチームが勝てばいい。得点圏でいかに結果を出すかを考えている」
 その言葉通り、チャンスで成績を残しているベテランがいる。35歳の岩村明憲だ。オールスター前まで通算打率は.270ながら、得点圏では22打数9安打、1本塁打、13打点、打率.409。ここぞの一打で役割を果たしている。
(写真:6月21日のオリックス戦では2本のヒットがいずれもタイムリー。お立ち台にも上がった)
 東北楽天を戦力外となり、古巣に復帰した昨季は75試合に出場。交流戦終了まではスタメン起用も多かったが、7月以降は代打がメインに。チームが下位に低迷する中、8月下旬に登録を抹消され、そのまま2軍でシーズンを終えた。成績は打率.246、3本塁打、17打点。メジャーリーグ移籍前に燕の中軸を担った頃の輝きを取り戻すには至らなかった。

 迎えた今季、キャンプは2軍スタート。開幕こそ1軍で迎えたものの、打率1割台で4月下旬にはファーム行きを余儀なくされた。
「ファームにいて、チームの勝ちにも貢献できないもどかしさがあった」
 6月、畠山和洋の故障離脱もあって、再び1軍へ。悶々とした思いをバットにぶつけた。

 6月14日の北海道日本ハム戦(札幌ドーム)では第1打席のタイムリー二塁打を皮切りに、左へ右へと広角に快音を響かせた。4打数4安打の4二塁打。1試合4二塁打はNPBタイ記録だった。

 これを契機に6月は打率.435の大当たり。畠山に続き、ウラディミール・バレンティンが故障で戦列を離れた中、「誰も代役とは思っていない」と存在感を示した。7月は14打席無安打の時期があったが、13日の横浜DeNA戦、14日の巨人戦と代打で続けてヒットを放っている。
 
 宮本慎也が昨季で引退し、2001年の日本一を主力として知る唯一の現役プレーヤーである。昨季、最下位に沈み、今季も低迷するチームをどう感じているのか。
「もちろん、結果が出ていない以上、チームとして反省しないといけないところはある。だからと言って悲観的になってもいけない。何かポジティブになれることを見つけていかないとね。僕も14打席ヒットが出ない時は積極性が欠けていた。そういう時はますます結果が出ない。14打席の中でもヒット性の当たりは4本くらいあったから、それをヒットだととらえて前を向いて次に臨むことが大事だと思う」

 起用は基本的に相手が右ピッチャーの時に限られる。スタメンでも代打でも「オレは出たところでやるだけ」と、こだわりはない。「自分の経験を伝えることも役目」と、求められれば若手にアドバイスを送り、ピンチになるとファーストからピッチャーに声をかける。

 とはいえ、かつてシーズン44本塁打を放ち、日本代表の主力としてWBC連覇にも貢献した矜持を捨て去ったわけではない。今季初のお立ち台に上がった6月21日のオリックス戦では、意地のタイムリーも見せている。

 4−3と1点リードの7回、1死二塁の場面、前打者の雄平が敬遠気味に歩かされた。その光景をネクストバッターズサークルで見つめながら、ギュッとバットを握る手に力を込めたのが岩村だ。塁を埋めてゲッツー狙いに来る作戦とはいえ、この日は3回に勝ち越し打を放っている。

「負けてたまるかと気持ちが出た。いい意味で火がついた」
 心は熱くも、頭はクールに。オリックスバッテリーの配球を読み、内野ゴロを打たせるべく、チェンジアップがツーシームが来ると予想した。その通り、岸田護のツーシームをとらえ、センター前に弾き返す。座右の銘である「何苦楚魂」を体現したような一打だった。

 借金15の最下位で、3位・広島までは9.5差。これ以上、負けが込んでは神宮に早くも秋風が吹いてしまう。フロントは川島慶三、日高亮を交換要員に、福岡ソフトバンクの新垣渚、山中浩史とのトレードをまとめ、投手陣を補強した。

 しかし、上位浮上には現有戦力の奮起も欠かせない。何事も苦しみが礎となるーー。苦しんだ前半戦を礎に「何苦楚魂」で、チームスローガンのごとく“這い上がる”後半戦にしてほしい。

(次回は8月4日に更新します)

(石田洋之)
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