“オホーツクの怪腕”が、花の都にやってくる。
 東京ヤクルトがドラフト2位指名した東農大北海道オホーツクの風張蓮だ。MAX151キロのストレートは、名は体を表すと言われるように吹き抜ける“風”のごとし。身長185センチ、86キロと大型の本格派右腕である。
「ストレートがいいし、スライダー、ツーシーム、カーブもある。(真中満)監督も言っていたが投げっぷりがいい」
 鳥原公二チーフスカウトは「先発、中継ぎ、抑え、何でもできる」と高評価。「これで(来季の)最下位はなくなる」とまで言い切った。
(写真:指名挨拶の際、真中監督からは「必然」と書かれたドラフト会議当日のPASSを受け取った)
 出身は岩手県の北部にある九戸(くのへ)村。高校は人口6000人と決して大きくはない村にある県立伊保内高に通った。
「岩手の無名校に145キロの速球を投げるピッチャーがいる」
 ウワサを聞きつけてヤクルトの八重樫幸雄スカウトが初めて風張を見たのは高校2年生の時だった。

 同時期に東農大北海道オホーツクの樋越勉監督も岩手の豪腕の話題を耳にし、実際に高校まで足を運んだ。
「バランスの良いピッチャーだなと感じました。ストレートにキレがある。高校生のレベルではないなと感じました」
 その素材に一目ぼれした樋越は、風張を熱心に勧誘する。
「最初は東京農業大ってどこにあるかも知らなかったみたいですよ。東京が名前につくから東京の大学だろうと思っていたようです(笑)」

 実際のキャンパスは東京ではなく、北海道北東部の網走市。当時のチーム名は東農大生産学部と呼ばれていた。北海道六大学リーグでは24回の優勝を誇り、ヤクルトにも福川将和(現ブルペン捕手)、小森孝憲と出身者が入団している。今季、福岡ソフトバンクで育成選手から支配下登録され、2勝をあげた飯田優也も、このチームのOBだ。

 北海道の冬は寒く、屋外で野球はできない。しかし、「全国大会に何回も出られるぞ」との樋越の口説き文句が、風張のハートに火をつけた。
「野球をやれるならどこでもいいと思っていましたし、全国のレベルを知りたかったんです」
 高校では3年春の県大会ベスト8が最高。甲子園は遥かかなたにあった右腕にとって、“全国”の響きには惹かれるものがあった。多くのプロ球団が指名へ調査をしていた中、本人は志望届を出さず、大学に進学する。

 念願の全国大会出場は早くも入学1年目から巡ってきた。大学選手権に出場し、2回戦の慶應義塾大戦では2−4と2点ビハインドの9回に登板。しかし、全国のレベルは甘くなかった。2四球にヒットも打たれ、1イニングを投げ切れず、ダメ押し点を与えた。

「全国の初めての舞台で力の差も分かりましたし、どれだけすごい選手がいるか分かりました。当時の自分はコントロールが安定していなかった。全国で通用するために何をすべきかを考えるようになって意識が変わりましたね」
 練習量を増やしてフィジカルを鍛えるだけでなく、よりバッターが打ちにくいピッチングを模索した。

 体力づくりで役に立ったのはアルバイトだ。チームでは春の沖縄でのキャンプ費用を捻出するため、夏は大根掘り、冬は水産加工のアルバイトをしている。風張も他のチームメイトと交代で、1日3〜4時間、冬はシャケやホタテが入った約20キロの箱を積み下ろした。「腕っぷしはもちろん、寒い中で作業をするので忍耐力がついたはず」と樋越は指摘する。

 着実に力をつけた風張は2年時に大学日本代表の候補合宿に招集を受ける。そこには大瀬良大地、九里亜蓮(ともに広島)、杉浦稔大(ヤクルト)ら現在、プロ入りしているピッチャーが何人もいた。
「練習から意識が違いました。チームのムードづくりもうまいし、野球以外の部分でもレベルが高い。こういう選手がプロに行くんだと刺激を受けましたね」
 
 代表入りこそ果たせなかったが、3年時にも候補として呼ばれた。3年秋にはリーグ戦5試合で4勝をあげて、優勝に貢献。今年の夏には練習試合で亜大の山崎康晃(横浜DeNA1位)と対決し、6回無失点で投げ勝った。
「相手も強い中、投げたいところに投げられました。コントロールの付け方が自分の中で感覚がつかめた登板になりましたね」
 今秋のリーグ戦は最優秀投手とベストナインを獲得。明治神宮大会への出場権をかけた北海道地区代表決定戦(対道都大)では、1勝1敗で迎えた最終戦に先発し、中1日の登板ながら4回を無失点に封じて神宮行きの切符を手にした。

「東北の子らしく、じっくりと粘り強く取り組み、成長していきましたね。2年より3年、3年より4年と良くなりました」
 樋越は風張の4年間をこう表現する。 

「大学生は上級生になるにつれて力が落ちてくるピッチャーも少なくない。でも、彼はずっと右肩上がり。故障もないから、これから、もっと伸びてくれるはず」と八重樫スカウトも同じ見解だ。「まだ彼は未完成のピッチャー」とプロ入り後の進化に期待を寄せる。
「体重移動が早くて力が逃げてしまう時があるんです。常に軸足から、しっかり前に体重を乗せて投げられるようになったら、コンスタントに質の高いボールがいくでしょう」

 本人も「真っすぐを生かす変化球のキレとコントロール」を課題に上げ、「館山(昌平)さんに変化球のコツや意識を聞いてみたい」と弟子入りを希望する。「1年目から活躍してチームの一員になりたい」と即戦力としてのフル回転を誓った。

 残念ながら、この神宮大会では初戦に先発したものの、1回で2安打を浴びて降板した。チームは初戦と準々決勝を突破し、ベスト4に進出したものの、風張はベンチを温めている。   
「神宮を自分の球場にしたい」
 大会前に意気込んだ通りの結果には現状なっていないが、プロで神宮を自分の庭にして投げる機会はいくらでもある。ぜひ、北の国から神宮に新風を吹かせ、ここ2年、低空飛行が続いた燕を舞い上がらせてほしい。

(次回は12月1日に更新します)
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