今季の東京ヤクルトで巻き返しのポイントとなるのは、巨人にFA移籍した相川亮二の抜けたキャッチャーである。正捕手候補の中村悠平を筆頭に、誰が扇の要をきっちりと担うことができるのか。球団では巨人を戦力外になった井野卓を獲得したが、もうひとり将来性豊かなキャッチャーをドラフト会議で指名した。福岡工大城東校からドラフト3位入団した山川晃司である。
(写真:「小川(泰弘)さんのボールを受けてみたい」とバッテリーを組むのを楽しみにしている)
「肩の強さ、キャッチャーとしては自信を持っています。ベストナインを獲れるように頑張りたい」
 入団発表の席で18歳は堂々とプロでの抱負を口にした。本人もアピールポイントとしてあげたように、「小さい頃から強かった」という肩は大きな魅力だ。二塁送球のタイムは1.85秒で、これはプロでもトップクラス。身長184センチ、86キロと高校生ながら恵まれた体格も大きな伸びしろを感じさせる。「バッティングはこれから」と山川は課題にあげるものの、高校通算17本塁打とパンチ力も秘める。

「単にスケールが大きくて肩が強いだけでなく、機敏な動きもできる。このサイズでは珍しいタイプの選手だと思いました」
 そう証言するのは福岡工大城東高の山本宗一監督だ。「これは成長する」と感じた山本は、1年時から山川をレギュラーとして起用した。

 当時、チームのエースは笠原大芽(現福岡ソフトバンク)。プロ注目の左腕とバッテリーを組んだ。
「真っすぐはきれいな回転なんで、何とか捕れたんですけど、カーブとかの曲がりにはついていけませんでしたね」
 初めて笠原のボールを受け、山川は「すげえな」と面食らった。

 だが、2日目には早くも本人曰く「コツをつかんだ」。日に日にキャッチングが上達する1年生キャッチャーに山本は目を見張った。
「2日目にはミットが反応できるようになり、3日目にはしっかりキャッチできた。4日目にはワンバウンドになったボールも止めていたんです。適応能力が高い選手だと感心しましたよ」
 
 山本は教え子を「感覚が鋭い」と評する。もともとキャッチャーを始めたきっかけは小学3年の時、チームメイトに球の速いピッチャーがおり、山川以外に誰も捕れなかったから。キャッチングのセンスは生まれながらにして持っていた。

 当然、プロの世界には、さらにキレや変化の鋭いボールを投げるピッチャーがゾロゾロいるはずだ。その点を本人に質すと、「でも、キャッチングに自信はなくはないですね」とサラリと言った。新人らしからぬ度胸の良さは、むしろ頼もしさを感じさせる。

 笠原のみならず、身近に目標となる存在が多かったのも、原石を磨くのに役立った。阪神の梅野隆太郎、中谷将大は学年こそ離れているが、高校の先輩。同じキャッチャーとして大学時代の梅野とは一緒に練習をしたこともある。

 さらにはライバルとの切磋琢磨も大きかった。同じ福岡県下の同学年には、日本ハムにドラフト2位入団した清水優心(九州国際大付高)がいた。強肩強打のキャッチャーとして山川と並んで、高校生では高い評価を受けていた。

「口にはしなくても、意識はしていたと思います。高校時代、清水の体格が大きくなったことに刺激を受けていたようですから」と山本は証言する。2年の冬には「これではダメだ」と食事量を増やし、走り込みと筋力トレーニングを重ねて体重を約10キロ増やした。「土台がしっかりしたので、スローイングも安定感が出ましたし、打球も飛ぶようになりました」と本人は明かす。
(写真:今季の新人では唯一の高校生だが、年上の同期に負けじと合同自主トレのメニューをこなしている)

 高3夏には福岡県大会5回戦で清水擁する九州国際大付と直接対決。敗れて甲子園出場の夢を断たれただけに「プロでは負けたくない」と言い切る。

 理想とするキャッチャーにはミスタースワローズ・古田敦也の名前をあげる。
「頭が良くて考えて野球をしている。僕もそういうキャッチャーになりたいです」
 背番号は「55」に決まったが、球団では「(古田の)27は空いている。それを獲る気持ちでやってほしい」と飛躍を望んでいる。

 もちろん、一朝一夕で球史に残るレジェンドに肩を並べることはできない。古田はキャッチャーとして真っ先に求められるポイントに「技術の高さ」をあげる。まずは、しっかり捕って、盗塁を刺せなければ、ピッチャーからの信頼は得られない。“ID野球の申し子”と呼ばれた古田は“頭脳派”のイメージが強いが、そのベースには、際どいコースをストライクにみせる高度なキャッチング技術と、盗塁阻止率歴代ナンバーワン(.462)を誇る正確で速いスローイングがあった。

 肩の強さとキャッチングのセンスを持ち合わせた山川も、技術の高いキャッチャーになれる要素は十二分にある。
「プロのレベルを吸収して経験を積めば、能力は磨かれるはず」
 恩師の山本が期待を寄せるように、近い将来、中村や西田明央らと高い次元で競い合うことで、原石からまばゆい光を放ってほしい。それは必ずやチームに栄光をもたらせるはずである。

(次回は2月2日に更新します)
◎バックナンバーはこちらから