さらなるレベルアップを予感させる一発だった。
 3月11日、東京ドームでの日本代表−欧州代表。昨秋の日米野球に続き、侍ジャパンのメンバーに選出された山田哲人(東京ヤクルト)がセンターバックスクリーン右にソロアーチを叩きこんだ。この試合、侍ジャパンは2−6で敗戦を喫したものの、一矢を報いる強烈な一撃は観る者の印象に残った。
(写真:現状、オープン戦の打率は.250だが、「これから(状態は)上がってくると思う」と語る)
「今まで打ったことない方向だったんで、感触は良くもなく悪くもなく、“入ってくれ”という気持ちでした。センターから右方向にしっかり強い打球を打つことを取り組んでいたんで、侍ジャパンの試合で打てたのは良かったです」

 打ったのは外寄りの真っすぐ。弾道は左バッターが引っ張ったかのようにグングン伸びていった。
「時々(右方向に)、こすらずに打てているという感覚があるんです。反対方向に引っ張るというか、押し込めている感じ。これは今までにない感覚でしたね」
 右方向へ鋭い打球を飛ばせるようになった要因を本人は昨季、そう説明していた。いよいよ、そのコツを体得したのだろうか。

「いや、つかんではいないです。今はまだ取り組んでいる途中なんで」
 山田自身は謙遜していたが、開幕前の、しかも代表戦で成果が出たことで手応えは得られたはずだ。

 今回の欧州代表戦では2試合ともスタメン出場。第1戦は左中間フェンス直撃のタイムリー二塁打、第2戦はホームランと2試合続けて打点をあげた。
「個人的には毎試合、それ(打点)を目標にしていたので、結果が出て良かったと思っています」
 勝負強さもみせた若武者に、小久保裕紀代表監督は「彼の打撃は魅力的」と高く評価している。

 この2本のヒットは第1戦の二塁打が初球、第2戦の一発は2球目と早いカウントだった。これは代表の稲葉篤紀打撃コーチの指示によるものだ。
「1球目から積極的に行こう」
 試合前のミーティングで、はっきりと言われていた。

 山田は本人も明かすように、「初球から打ちたくない」タイプである。
「初球から打って凡打だと後悔してしまう。1球待って、どんな感じか打席で工夫してから打ちに行きたいんです」
 その証拠に昨季、初球打ちは685打席のうち、44回しかない。最多安打を争った菊池涼介(広島)が106回(654打席)、首位打者に輝いたマット・マートン(阪神)が137回(591打席)だったのとは対照的だ。

 いつものスタイルとは異なるコーチの指示。その上、慣れないピッチャー相手に初球から打ちに行って結果を出すことは容易ではない。事実、欧州代表戦では侍ジャパンの各バッターが打ち損じするケースも目立った。

 だが、本人に全くとまどいはなかった。
「打つなら打つと決めて、迷わずに行きました」
 チャンスにきっちり相手のボールをとらえ、長打を放った右打者に、稲葉コーチは「対応力がすごい。正直、練習では調子が良くなさそうに思えたんですけど、試合になったら打ちましたからね」と目を丸くしていた。

 初球から打ちに行くつもりで準備する――。現役通算2167安打の稲葉コーチは、その大切さを次のように明かす。
「国際大会に限らず、1球目、1打席目というのはすごく大事なんです。何球か振るうちに対応していく方法もありますが、ネクスト(バッターズサークル)でタイミングを合わせておくことが大切。国際試合で、いきなりそれを実践するのは難しいかもしれませんけど、チームに戻っても1シーズン、1球目からどうすればいいか準備しておけば、いい方向になっていくでしょう」
 ヤクルトの先輩にあたるコーチの助言は、山田はとって大いに勉強になった。

 昨季、プロ4年目にして193安打をマークし、藤村富美男(元阪神)が持つ日本人右打者の最多安打記録を64年ぶりに更新した。今季は日本人右打者初の200安打への期待がかかる。
「ティーは3年は続けてやらせるよ。これだけ打てば相手も対策を練ってくる。続けて結果を出すのは簡単じゃない。まだ若いし、野球に打ち込ませる時期だから」
 杉村繁打撃コーチは、今季も早出のティー打撃を継続させる考えだ。名伯楽による“11種類のティー”はフォームをチェックし、試合へ備える上で絶大な効果があった。本人も「ティーは続けていこうと思っている」と明言している。今季も試合前の室内練習場やグラウンドで打ち込む姿が見られるに違いない。

 加えて、山田は守備、走塁の向上もテーマに掲げる。
「昨年はバッティングがメインで、守備、走塁もミスが多かった。それは自分でも反省している部分です」
 本人も自覚する課題を克服すべく、2月の浦添キャンプでは、三木肇作戦兼内野守備走塁コーチや福地寿樹外野守備走塁コーチとともに、セカンドの守備や走塁の練習も重点的に行った。

「セカンドの動きはまだわかんない。不安な気持ちがある」
 昨季を終えて、山田は守備への「自信のなさ」を口にしていた。セカンドでベストナインは獲ったものの、ゴールデングラブ賞の投票では菊池の237票に対し、山田はわずか3票。大差をつけられた。侍ジャパンでも定位置は菊池に譲り、一塁や三塁に回ることが多い。補殺数の日本記録を2年連続で塗り替えた名手を一気に上回ることは至難の業かもしれないが、一歩でも二歩でも迫ることは可能だ。

 また、俊足の持ち主ながら、昨季は15盗塁。盗塁を仕掛けたのも20回と少なかった。真中満監督は今季も1番で起用する構想で、機動力も使えれば、相手にとってはより手強いリードオフマンになる。
「走塁は技術だと思います。スタートの切り方とかを勉強すれば、もっと盗塁数は増やせる」
 目指すは打率3割、30本塁打、30盗塁のトリプルスリー。プロ野球80年の歴史で、この領域に到達した人間は中西太、秋山幸二、松井稼頭央ら8人いるが、セカンドでの達成者はいない。3割は昨季クリアし、30本塁打もあと1本だった。盗塁数が伸びれば、その可能性はグンと高まる。

「このまま、いい成績のままで過ごしたいんで、来年を迎えたくない(苦笑)。今年だけで終わるんじゃないかという気持ちはすごくあります」
 昨オフ、率直な心境を22歳は吐露していた。1シーズン、好成績を収めることも大変だが、それを残し続けることはもっと大変だ。今季は“結果を出して当たり前”というプレッシャーとの戦いも待っている。

 昨秋の日米野球、山田は代表の仁志敏久内野守備走塁コーチの計らいで、メジャーリーグを代表するセカンド、ロビンソン・カノと会食する機会を得た。シルバースラッガー賞5度、ゴールドグラブ賞2度の実績を誇る名セカンドから、こんな言葉を送られた。
「何事も経験が大事だ。チャレンジ精神を常に持つように」

 1シーズンを戦い抜き、193本ものヒットを連ねた実績、そして侍ジャパンでの貴重な体験は肉となり、骨となっている。走攻守、すべてで次元の高いスーパーセカンドへ――。カノのメッセージを胸に、名実ともに日本を代表するプレーヤーにチャレンジする1年が、間もなく幕を開ける。

(次回は4月6日に更新します)
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