サッカーW杯南アフリカ大会の開幕まで、この10日で336日となった。アフリカ大陸では初のW杯開催に向け、現地では急ピッチで準備が進んでいる。だが、南アフリカは治安の悪さやエイズの蔓延、人種間の格差など多くの問題を抱えており、大会実施を不安視するものも少なくない。実際のところ、現地の情勢はどうなっているのか。このほど、番組撮影のため南アフリカに渡ったテレビマンユニオンの牧有太氏に現地レポートを寄せてもらった。
(写真:コンフェデレーションズカップ決勝が行われたエリス・パーク)
 希望にあふれる子供たち

「なぜ、わざわざ世界一危険といわれる南アフリカでW杯を?」
 そんな疑問を抱えながら、成田を飛び立つこと24時間以上。ヨハネスブルグ国際空港に降り立つと、まず肌寒さを感じた。思っていたよりも、空港の雰囲気は悪くない。多くの空港で良くあるような、タクシーの客引きなんかはいない。荷物の受け取りも、セキュリティーチェックもスムーズ。都会の空港だ。

 今回の撮影は3泊4日の日程で行われた。僕は約2年前より、元日本代表・中田英寿さんの世界各国への旅の模様をビデオカメラに収めてきた。この旅もその一環だ。南アフリカでは中田さん、そして北澤豪さんがTAKE ACTION FOUNDATIONの活動として現地の子どもたちにサッカーボールを配布する模様を撮影する。

早速、サッカーボールを配布するため、中田さんたちと小学校を訪ねた。会場となったのは黒人が暮らす地域と白人が暮らす地域のちょうど中間地点にある、東オブザーベトリー小学校。子供たちの肌の色はさまざま。サッカーボールとともに子どもたちはグラウンドを走り回っていた。サッカーを楽しんでいた。ひとり1個、計100個以上のボールをプレゼントされた子どもたちは目をキラキラさせて喜んでいる。あの輝きにみちた笑顔は今でも忘れられない。報道されている通り、彼らを取り巻く環境は決してバラ色ではない。しかし、彼らは僕たちと同じくらい、いや、それ以上の「希望」を持っている。最初に抱いていた南アフリカの印象が少しずつ変わり始めた。

 中田さんの発案で、現地の日本人学校の子どもたちも交えて一緒にサッカーをすることになった。そこには日本や南アフリカといった国籍や、肌の色といった違いを越え、ただ、ひとつのボールを純粋に追いかける子どもたちの姿があった。その光景を見ながら、ある日本人の保護者の方がこんな話をしてくれた。
「今までは黒人の人とはなるべく目を合わさないようにしなさい、と子供に伝えていました。それは、もちろん色々な犯罪がある中で自衛手段として仕方がないことです。しかし、今回のプロジェクトに参加して黒人の親の方ともコミュニケーションが生まれました。当たり前のことですが、人と人、個人と個人の付き合いの大事さを改めて知りました」

 1年後、この国には世界中からたくさんの人がやってくるはずだ。その経済効果は6700億円とも言われている。それ以上に、現地の住民と観戦に来たサポーターが国境を越え、人種の壁を越えて触れ合うことが、南アフリカの未来へお金には換算できない価値をもたらすだろう。「なぜ、わざわざ世界一危険といわれる南アフリカでW杯を?」。最初に抱いていた疑問に対する答えが見つかったような気がした。

 大渋滞と閑散とした駐車場

 翌日はコンフェデレーションズカップの決勝(ブラジル−米国)を観戦に会場のエリス・パーク・スタジアムへ向かった。距離的にはホテルからさほど遠くない場所にあるにもかかわらず、たどり着くまでは一苦労だった。移動手段は基本的に車のみ。地下鉄は走っているが車内での犯罪が多く、現地の人間でもあまり利用しない。
(写真:スタジアムの外観)

 さらに一般車両は規制が敷かれ、スタジアムの周囲2、3キロは立ち入ることができない。僕たちは駐車許可証を発行されていたため、中に入ることができたが、そのカテゴリーに応じて、それぞれ立ち入りできる範囲は決まっている。スタジアムへと続く道には各所で検問があり、許可証のチェックを受ける。1台ずつ止められるため、道路は大渋滞だ。
(写真:地図上に色分けされ、各許可証の規制区域が示されている)

 ホテルを出発して約1時間、ようやく指定の駐車場に着いた。そこからは徒歩でスタジアムに向かう。10分ほどで入場ゲートに到着した。そこでも荷物チェック、チケットチェック、ボディチェックが待っている。だが、検査は意外と厳しくない。さほど時間をとられることもなく中に入ることができた。

 席を探そうとスタジアム内を散策していると、ふと施設内にある駐車場に目がとまった。ガラガラだった……。車はほとんど止まっていない。「だったら、ここに駐車させてくれ!」。思わず、そう叫びそうになった。こういった車両整理や振り分けは、来年までの改善点となるだろう。

 スタンドは満員。8割方はブラジルを応援していたようだ。長いラッパ状のブブゼラで「ブブゥー」と爆音を響かせながら観戦している。好プレーには自然と歓声が沸き、南アフリカの人たちが心からサッカーを楽しんでいることが理解できた。幸い、大会期間中、国際的に問題になるような事件や事故も起きなかった(実はいくつかの事件もあったようだが……。南アフリカに原因があるとは思えないのでここでは触れない)。
「来年のW杯も成功してほしい」
 そう感じつつ、短い南アフリカ滞在を終え、帰りの飛行機に乗った。

 南アは寿司ブーム!?

 来年、W杯観戦ツアーを考えている方に、僕からアドバイスできることは以下の3つだ。
1.移動する車の確保
2.危険地帯の把握
3.防寒の用意

 まずは「移動する車の確保」だ。たとえば決勝戦が行われる予定のサッカー・シティ・スタジアム(ヨハネスブルグ)は9万人以上が収容できる大きな会場だが、交通手段は車しかない。電車を通す計画もあるものの、現地の情報によれば、「おそらく間に合わないでしょう」とのことだった。世界各国から大勢のサポーターが押し寄せることを考えれば、現状だとおそらく大会期間中、車両が不足するだろう。現地で移動するための車(運転手)は早めに押さえておくべきだ。
(写真:まだ建設中のスタジアム)

 また南アフリカは意外と広い。他の都市に行くには飛行機も必要になってくる。甘く見ていると、せっかくチケットを取れても試合が見られない事態になりかねない。当然のことながら、余裕を持った観戦計画を立てることが大切になる。

「危険地帯の把握」。これは南アフリカに限らず、どの外国に行っても当たり前の話と言える。
・ひとり歩きはしない。
・現地の人間が「行かないほうがいい」という場所には行かない。
・車の中に物を置いていかない。
 この3つは最低限、注意しなくてはいけないことだ。確かに現地の治安はよくない。「行かないほうがいい」という場所も他国と比べて多い印象を受けた。南アフリカ在住の日本人に話を聞けば、強盗にあった経験を持つ人も少なくないようだ。しかし、犯人が狙っているのは、「物」と「金」。「万一、犯罪に巻き込まれた場合は“反抗しない”ことが大事だ。そうすれば命まで持っていかれることはない」。現地の人々のアドバイスには素直に従ったほうがよい。

 最後に「防寒」。これは現地での思わぬ盲点だった。南半球は6月、冬の季節にあたる。夜の観戦は予想外に寒かった。コートにマフラーをしても震えるほどだ。選手にとっては、夏の暑さに比べてプレーしやすい気候かもしれないが、観る側は万全の寒さ対策をお勧めしたい。

  南アフリカは食事面では充実していた。イタリアン、中華、日本食とレストランは何でもそろっている。近年は寿司ブームらしく、スーパーでパックが買えるほどだ。ワインもおいしい。せっかくのW杯、せっかくの南アフリカ。正しい情報を入手し、準備をしていけば、楽しい観戦旅行になるだろう。
(写真:寿司につける醤油も日本企業のものが使われている)

「See you next year!!」
 コンフェデ杯決勝の翌日の紙面には、そんな見出しが躍っていた。自国では一生に1度あるかないかという祭典を南アフリカの人たちは心待ちにしている。日本から現地へ行って、そのお祭りを直接体感するのも悪くない選択かもしれない。2010年6月、アフリカ大陸ならではのW杯ができることを、そして改めてサッカーの力を感じられることを僕は今から期待している。


※牧氏は二宮清純がインタビュアーを務めるBS朝日『勝負の瞬間』でもプロデューサーを務めています。
19日(22:00〜22:55)にはサッカー日本代表の中澤佑二選手をゲストを迎え、二宮とのロングインタビューが放送されます。どうぞお楽しみに!

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