ボクシングのWBCダブル世界タイトルマッチが30日、東京・日本武道館で行われ、11度目の防衛を目指したバンタム級王者の長谷川穂積(真正)はWBO世界同級王者・フェルナンド・モンティエル(メキシコ)に4R2分59秒TKO負けを喫し、5年間守ってきた王座から陥落した。長谷川は具志堅用高が持つ日本人連続防衛記録(13回)まで、あと3回と迫っていたが、その更新は叶わなかった。一方、スーパーバンタム級王者の西岡利晃(帝拳)はバルウェグ・バンゴヤン(フィリピン)を5R1分14秒TKOで下し、4度目の防衛に成功。初防衛から4戦連続でのKO勝利は日本人初の快挙となった。
(写真:試合を優勢に進めていた長谷川だったが……)
★二宮清純コメント★

 西岡は倒すコツをつかみ、完全に自信を持っている。挑戦者は乱気流に巻き込みたいところだったが、その手に乗らず、適度に距離をとり、左ストレートのタイミングを待っていた。非常に安定感のある戦いぶりだった。もっと防衛回数を伸ばしそうな内容だ。

 長谷川にとっては非常に残念な試合になってしまった。3Rまでの戦いぶりは完璧だった。しかし、ちょっとしたスキを相手は見逃さなかった。早めにダウンして回復を待つ手もあったが、倒れなかったのはファイターの本能だろう。立ち続けてパンチをもらったことがアダとなった。ただ、長谷川のコンディションはよく、体のキレもあった。バンタム級でまだ戦えるのではないか。モンティエルとのリベンジマッチに期待したい。

<長谷川、悔し涙……「油断した」>

 永遠に勝ち続けるチャンピオンなどいない。だが、最強を誇る王者が、一瞬にしてベルトを失った。
 試合は長谷川ペースだった。素早い右のジャブでリズムをつくると、ワンツーで挑戦者の顔面に左パンチをたびたび当てた。天才的な距離感も絶妙で、強打のメキシコ人から繰り出されるパンチをうまくかわした。「1Rで(パンチを)もらって、左の奥歯がグラグラした。普通とは違う」。3階級制覇の実績を引っさげて日本に乗り込んできたモンティエルだけに、長谷川も深追いすることなく冷静に攻めていた。

「4Rまではあのボクシングでハマっていた。次のラウンドからはロープやコーナーにプレスをかけて、うまく誘い出そうかなと思っていた」
 しかし、セコンドの真正ジム・山下正人会長が次のプランを練っていた4Rラスト10秒、事態は暗転する。挑戦者の強烈な左フックが長谷川のあごに入り、腰が砕けた。さらに左がもう一発入って、ズルズルとロープ際に後退すると、WBOの世界王者はチャンスを逃さない。追いかけて連打の雨を降らせ、レフェリーが割って入り、試合を止めた。「気を抜いたところにパンチをもらった。油断した」。この間、わずか10秒の出来事だった。

 連打をくらいながらも、長谷川は「早くロープ(を背にした状態)から抜けなあかん」と冷静だったという。的確な状況判断が10回の連続防衛と、ここ5試合のKO防衛を支えてきた。では、なぜ、あの場面でモンティエルのパンチを見切ることができなかったのか。勝負に対する集中力は人一倍優れていた王者が陥ってしまったエアポケット。悔やんでも悔やみきれない敗戦だった。
(写真:控室で目を真っ赤にし、呆然とする長谷川)

 試合後も「相手との駆け引きが楽しかった」と淡々と振り返っていた長谷川だったが、報道陣から「負けたことに対して、どのような心境か」と問われた時は、さすがに感情が抑えきれなかった。「悔しさはあります。ただ……」。連続防衛失敗という変えられない現実を前に悔恨の涙が頬を流れた。

「本人の気持ちはどうか分からんけど、もう1回バンタムで、もう1回モンティエルと勝負したい」
 山下会長はすぐにリベンジを誓った。長谷川本人も「今はちょっとゆっくりしたい」としつつ、「できるならやりたい」と再びベルトを取り返すつもりだ。今回の敗戦によって、日本記録更新は夢と消えたが、V10の偉業は色あせることはない。むしろ、ここからどう再起を遂げるのか。最強伝説の第2章がみてみたい。

<西岡、止まらぬ進化に「すごいな」>

 チャンピオンは4試合連続KOという結果にも、「すごいなぁと思っています」と他人事のような口ぶりだった。「KOは狙ってできるもんじゃない。1試合1試合、精神的にも肉体的にも強くなっていこうとしてやっている」。心身の充実がそのままリング上に現れた一戦だった。
(写真:落ち着いた試合運びが光った西岡)

 相手は10歳年下のフィリピンの新鋭。「不気味だった。一発を狙っていた」。西岡が出てきたところへ左ボディ、右ストレートを振り回してきた。だが、挑戦者の戦い方は王者にとって織り込み済。「ビデオで見たら前半に強いタイプ。ジャブで深追いせず、当てて相手にやりにくさを与えつつ、出るでもなく下がるでもなく。前半は無理して倒そうとはしなかった」。経験豊富な33歳はパンチをまとめ、確実にポイントを稼いだ。

 4Rを終えて、ジャッジの採点は3者とも西岡優勢。バンゴヤンは自分から攻めざるを得なくなった。「やりやすくなった。バッチリ、タイミングがあった」。右のジャブをちょんと合わせて相手を誘いだし、得意の左を突き刺す。次の瞬間、無敗のチャレンジャーはキャンバスに崩れ落ちていた。鮮やかな一撃で勝負あり。なんとか立ち上がったフィリピン人に最後は連打を浴びせ、レフェリーストップを呼び込んだ。
 
 今回の防衛戦に向けては、体幹強化に取り組んだ。「バランスが流れなくなった。疲れにくくなったし、いいパンチがラクに数多く出せるようになった」。本人も「より完璧になっている」と止まらぬ進化を実感している。

 長谷川が敗れ、名実ともに“日本のエース”となった。試合後はボルテージが最高潮に達した客席に向かって、「目指すは世界のNISHIOKAです」と堂々と宣言した。次の防衛戦は同級1位のランドール・マンロー(イギリス)との指名試合が予想される。「指名試合は望むところ。海外でもいい」。単なる日本人チャンピオンではなく、世界でも名の通るスーパーチャンピオンへ。遅咲きの王者は、その階段を一歩ずつ昇っている。
(写真:コミッショナー特別功労賞の特製トロフィーに笑顔をみせる)

(石田洋之)