27日、南アフリカワールドカップ決勝トーナメント1回戦がヨハネスブルグ・サッカーシティで行われ、アルゼンチン(FIFAランキング7位)とメキシコ(同17位)が対戦した。立ち上がりから出足よく相手ゴールに迫ったのはメキシコだった。しかし、先制点を奪ったのはアルゼンチン。26分、FWリオネル・メッシ(バルセロナ)のパスを受けたFWカルロス・テベス(マンチェスター・シティ)がヘディングでゴールへ流し込む。さらに7分後、DFのパスをカットしたFWゴンサロ・イグアイン(レアル・マドリッド)がゴールを奪ってアルゼンチンの2点リードで前半を折り返す。後半もメキシコが攻めこむも、圧倒的な個人技でテベスがこの日2点目をあげ、試合を決める3点目が入る。アルゼンチンは1点を返されたものの、2点のリードを守りきり3対1で試合終了。アルゼンチンが2大会連続のベスト8入りを決めた。

 1点目でのミスジャッジが流れを変える(ヨハネスブルグ・サッカーシティ)
アルゼンチン 3−1 メキシコ
【得点】
[ア] カルロス・テベス(26分、52分)、ゴンサロ・イグアイン(33分)
[メ] ハビエル・エルナンデス(71分)

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 グループB首位通過のアルゼンチンとグループA2位通過のメキシコの対戦となった決勝トーナメント1回戦。このカードは4年前の決勝トーナメント1回戦でも行なわれており、前回は延長戦までもつれこんで2対1でアルゼンチンが勝っている。決勝ゴールを決めたマキシ・ロドリゲス(リバプール)は今日の試合でも中盤で先発出場している。

 メキシコにとって決勝トーナメント1回戦は超えなければいけない壁だ。94年アメリカ大会以降、4大会連続でグループリーグを突破したにも関わらず、すべてベスト16で敗退している。最後にベスト8入りを果たしたのは地元で行なわれた86年大会。5大会連続同ステージ敗退という不名誉な記録は残したくない。前回大会のリベンジの意味もこめて負けられない一戦となった。

 試合はメキシコペースで始まる。細かいパスを中盤でつなぎながら、アルゼンチン陣内へと攻め込みチャンスを作る。8分には右サイドバックのカルロス・サルシード(PSV)がPA少し手前からミドルシュート。無回転でゴールに向かったシュートはパンチングに入ったGKセルヒオ・ロメロ(AZ)の手をすり抜けバーに直撃する。サルシードはこの後も再三いい上がりから無回転シュートを打ち込んでいく。

 その1分後には右サイドを突破したFWジオバニ・ドスサントス(ガラタサライ)がマイナスのボールをMFホセ・アンドレス・グアルダード(デポルティボ・ラコルーニャ)に送ると、左足で強烈なシュートを放つ。ボールはややアウトにかかりゴール左を襲うも、惜しくもわずかに枠の外を通過する。メキシコは可能性を感じさせる攻撃でアルゼンチンゴールへと向かい続けた。

 しかし、先制点を奪ったのは攻めの形のできていなかったアルゼンチンだった。中盤でボールを奪ったメッシが前線で待つテベスへスルーパス。うまく前を向いたテベスはシュートを放つが、これをGKオスカル・ペレス(チアバス)が好セーブ。しかしそのクリアボールを再び拾ったメッシがループ気味のボールをゴール前に送り返し、それをテベスが頭で押し込んだ。このプレーでアルゼンチンに待望の先制点が入った。

 しかし、このプレーが場内にスロー再生されると、スタジアムの空気は一変する。メッシがパスを送った瞬間、テベスは明らかにオフサイドポジションにおり、その様子が映像で明らかになったのだ。アルゼンチンの攻撃に推進力があり、メキシコDFも必死でゴール前に戻ったのだが、ラインズマンがそのスピードについていけなかった。この日行なわれたドイツ−イングランド戦でもイングランドのゴールが認められなかったシーンがあったものの、このオフサイドはいい訳の利かない明らかな誤審だった。このVTRを見たメキシコイレブンがラインズマンに詰め寄り、ピッチ上では両チーム間でもみ合いも起こる。主審がどうにかこの場を収めたものの、試合はやや荒れる展開となった。

 アルゼンチンの2点目もミスから生まれた。しかし今度のミスは審判のミスではなく、DFラインでのミスだった。33分、メキシコDFリカルド・オソリオ(シュツットガルト)がゴール前で力のない横パスを送ると、それをイグアインがカットしゴールへと向かう。オソリオも必死にイグアインにチェックに行くが、イグアインはGKの動きも冷静にかわしながら左足でシュートを流し込んだ。今度は完全なゴールでアルゼンチンがメキシコから得点を奪った。

 試合はそのまま2対0のまま折り返しハーフタイムに入る。ただし、ここでも事件が起こる。やや興奮したメキシコ選手がロッカールームへ下がるアルゼンチン選手に詰め寄り、両国がベンチ裏で一触即発の雰囲気となる。これまで今大会では荒れたシーンはなかったものの、得点シーンでの誤審からメキシコがあきらかに苛立ちを見せるようになっていった。

 後半は追いかけるメキシコが仕掛ける。開始と同時にFWパブロ・バレーラ(プーマス)をピッチに送り込み、攻撃の再構築を図る。バレーラにボールを集めると、ドスサントスやFWハビエル・エルナンデス(グアダラハラ)へとボールがスムーズに供給され、チャンスを作っていく。それでもなかなかゴールは遠く、2点差を詰めることができない。

 すると7分に、アルゼンチンに素晴らしいゴールが生まれる。左サイドからのボールを受けたテベスが一瞬ゴール前へ向かう姿勢を見せる。そこへDF2人がチェックに入り攻撃を遅らせるものの、テベスは咄嗟にボールをコントロールし直し、右足を振りぬく。PA少し外からまっすぐな軌道を残したシュートはメキシコゴール右隅へと凄まじいスピードで吸い込まれていった。1点目は疑惑のゴールとなってしまったテベスだが、自身この日2点目は芸術的なゴールでアルゼンチンの勝利を決定づける得点となった。

 その後、メキシコが一方的に攻め込むも、アルゼンチンにボールを持たされているかのようにゴールを割るには至らない。26分にH・エルナンデスが高い個人技で1点を返したものの、反撃はここまで。アルゼンチンが3対1でメキシコを下し2大会連続8度目のベスト8進出を果たした。

 アルゼンチンは攻撃の形をほとんど作れなかった。それでも結果的には3点をあげ勝利した。イグアイン、テベスといったタレント豊かな攻撃陣の力だけでゴールをもぎ取ってしまった印象だ。次の相手は今大会で最も魅力的なサッカーをしているドイツとの対戦。ここでも個人のポテンシャルに頼ったゲームを展開すればドツボにはまることになりそうだ。カギを握るのは、やはり今大会無得点のメッシだろう。メッシがゴールを決めればチーム全体が盛り上がることもあるが、彼が周りをうまくいかすことに成功した韓国戦、ギリシャ戦はチームとして攻撃が機能していた。良くも悪くもこのチームはメッシのチームだ。土曜日に行なわれる準々決勝では、ドイツの若き司令塔メスト・エジル(ブレーメン)との共演は見もの。エジルには同年代のトーマス・ミュラー(バイエルン・ミュンヘン)という相棒がいる。メッシもイグアインやセルヒオ・アグエロ(アトレティコ・マドリッド)といったパートナーと呼吸のあったプレーを見せることができるか。この対戦を制した国が、今後しばらくは世界のサッカーを牽引することになるかもしれない。

 不運な判定があったとはいえ、敗れたメキシコは5大会連続のベスト16敗退。ここまで来ると、やはり強化策の見直しが必要なのではないか。37歳のクアウテモク・ブランコや33歳のギジェルモ・フランコは今大会も活躍こそしたものの、彼らがまだ代表に入っていること自体、世代交代が上手くできていない証拠でもある。幸いFWではドスサントスやH・エルナンデスといった世界のトップでも通用する選手が育ってきている。彼らのあとに続く世代が出てくれば厚い壁を越える瞬間があるかもしれない。4年後のブラジルでは、20年間乗り越えられなかった壁を是非とも突破したい。

(大山暁生)

【アルゼンチン】
GK
ロメロ
DF
デミチェリス
ブルディッソ
エインセ
オタメンディ
MF
マスチェラーノ
M・ロドリゲス
→パストーレ(86分)
ディマリア
→グティエレス(79分)
FW
メッシ
テベス
→ベロン(69分)
イグアイン

【メキシコ】
GK
ペレス
DF
ロドリゲス
オソリオ
サルシード
フアレス
MF
マルケス
トラード
グアルダード
→フランコ(61分)
FW
バウティスタ
→バレーラ(46分)
ドスサントス
H・エルナンデス