13日、世界バドミントン連盟(BWF)公認のスーパーシリーズ(SS)「第34回ヨネックスオープンジャパン2015」最終日が東京体育館で行われ、女子シングルス決勝はBWF世界ランキング9位の奥原希望(日本ユニシス)が同10位の山口茜(勝山高)をストレートで下した。奥原はSS初制覇。山口は2年ぶり2回目の優勝はならなかった。男子シングルスはリン・ダン(中国)がヴィクター・アクセルセン(デンマーク)を破り、9年ぶりの3回目のヨネックスオープン優勝を果たした。その他の種目では、女子ダブルスはツァオ・ユンレイ&ツォン・チャンシン組(中国)が、混合ダブルスはヨアキム・フィッシャー・ニールセン&クリスティナ・ペダセン組(デンマーク)、男子ダブルスはイ・ヨンデ&ユー・ヨンソン組(韓国)が制した。
(写真:山口<左>との日本人対決を制した奥原)
 “自分らしさ”を貫き、見せた先輩のプライド

 20歳奥原vs.18歳山口――。ナショナルチーム同士で、ジュニア時代から将来を嘱望されてきた2人の公式戦5回目の直接対決は、またしても奥原に軍配が上がった。

 立ち上がりは両者が得点を奪い合う展開となった。奥原が広角に打ち分け、山口のミスを誘う。山口もスマッシュとドロップショットを組み合わせた縦の変化を中心に奥原を揺さぶった。互いの持ち味を出しつつ、主導権を握らせない。

 全日本のナショナルチームの練習でも打ち合うことがある奥原と山口。互いの手の内はわかっている。奥原の見立てでは、打ち合う展開にしたくはない山口は、後ろからクリアー(相手コートの後方に打ち出すショット)ではなく、ハーフスマッシュを打つなど、奥原に前へ詰めさせて勝負を誘いたかった。それに対し、奥原は「焦ってドライブ勝負にいったら、茜ちゃんのカウンターが待っているので、落とすか後ろにつないで、相手の足を動かして自分のストロークゲームに持ち込もう」と相手の誘いには乗らず、自らのプレーを貫いた。

 奥原は山口のトリッキーなショットに翻弄されることなく、シャトルを拾う。粘りのプレーで相手のミスを誘いながら、チャンスと見ればスマッシュを叩き込んだ。20−18と奥原のマッチポイントで迎えた場面では、山口のロングサーブを奥原がサービスリターンをクロスに決めた。21−18で最初のゲームを掴んだのは、奥原だった。

 第2ゲームは、5−6から奥原が7連続ポイント奪うと、一方的な展開となった。最後は奥原がチャンピオンシップポイントを掴むと、ロングサービスを山口のリターンが若干浅かった。クロスにスマッシュを叩き込み、ゲームセット。SS初タイトルを手にした奥原は、両手でガッツポーズを作った。

 準々決勝、準決勝とファイナルゲームまでもつれた試合を勝ち上がってきた両者だが、リ・シュエルイとワン・シーシャンという元BWF世界ランキング1位の中国勢を連破した山口の方が疲労度は濃く残っていたようだった。動きのキレはあまりなく、ショットの精度も前の2試合と比べれば、それほど高くはなかった。

 全日本のパク・ジュボンヘッドコーチも「両方頑張ってましたが、昨日までの動き面から比べると、パフォーマンスは山口選手は奥原選手よりも悪かった感じがした。今日は奥原選手がスピード面で良かったですし。集中力も良かった。逆に山口選手はこれまでの2試合が本当に厳しかった分、疲れかな。スピードも足りないし、ミスも多かった。疲労度が大きかったですね」と試合を総評した。

「自分らしく戦える方が勝つ」と語っていた奥原の言葉通りの結果となった。全日本の佐藤翔治コーチが「なかなか一発で決まられるプレーヤーではないですが、技術はあるので相手の逆を突いたり、ミスを誘うようなプレーができる。プレーの幅は広いと思います」と評価する奥原は広角に打ち分けた正確なショットで相手を振り切った。

 SS初制覇を成し遂げた奥原だが、満足する様子は見られない。「年間12大会の1大会に過ぎない。トップランカーは何大会も獲っている。来週から韓国オープンがあるので、気を引き締めていきたい」。視線はもう先を見据えている。4年前に全日本総合を最年少で制し、3年前は世界ジュニアを掴み取ったホープ。それからの約2年はヒザのケガで苦しんだが、ようやく花を咲かせようとしている。

 新鋭の挑戦退けた絶対王者の風格

 相手に胸を貸しながら、最後は勝ち切る。まるで横綱相撲のようだった。“キング・オブ・バドミントン”と呼ばれる男の強さの一端を見た気がした。北京、ロンドン五輪金メダリストのリン・ダンが、アクセルセンをファイナルゲームの末に破った。

 32歳のリン・ダンにとって、ヨネックスオープンは、ロンドン五輪後に休養を充てたこともあり、5年ぶりの決勝。SS初制覇を目論む21歳の新鋭を迎えた。第1ゲームは、194センチの長身から降り下ろされる鋭角なスマッシュに得点を許す場面もあったが、21-19でモノにした。

 しなやかで強いリストから繰り出す多彩なショット。リン・ダンがコートからほとんど動かないのに対し、相手は踊らされるようにコート上を右往左往させられる。暗闇の中で照らされた第1コートを支配する男。スコアほどの接戦とは感じさせなかった。

 しかし、勢いに乗るアクセルセンの強打に苦しみ、第2ゲームを16-21で落とす。更にはファイナルゲームは2−1から6連続ポイントを奪われ、リードを広げられた。1点を返した後も4連続ポイントを許した。6−11でインターバルを迎える。「試合をしている感じではなかった」と振り返るリン・ダン。小休憩を終え、「1点1点取り返そう」と気持ちを切り換えた。とはいえ、一度失った流れを取り返すのは容易ではない。トップ選手同士の戦いでも、そのまま勝負のカタがつくことは多々ある。

 反撃を許してしまうのがアクセルセンの若さか、それともリン・ダンの老獪さが勝ったのか。じわりじわりと10−12まで詰め寄る。ところがリン・ダンのサービスがフォルトの判定。完全にアクセルセンの逆を突いており、自信を持ってのサーブだったのだろう。その場にしゃがみ込んで悔やしがった。遅延行為により警告をもらったが、“キング”は屈しない。

 15−16の場面では、コートの左隅ギリギリに落とす。リプレー映像を見た観客からは思わず感嘆の声が漏れた。「今日一番のプレーだったと思う」と競った展開でも冷静かつ正確なショットを打てるのが、絶対王者たる所以か。その後も得点を重ねる。20−19でチャンピンシップポイントを握ると、コート奥に放ったコントロールショットをアクセルセンが見送った。判定はイン――。勝敗は決した。リン・ダンは左手をグルグル回し、喜びの感情を爆発させた。

 田児賢一、桃田賢斗(ともにNTT東日本)という日本のエースたちが「オーラがある」と語るトッププレーヤー。桃田は「立っているだけで、存在感がすごい。コートが狭く見えますね」。全日本総合3種目で計14度の優勝回数を誇る舛田圭太によればリン・ダンの強みは「コートの四隅を使う教科書通りのプレーができる」ことだという。飛び抜けて身長が高いわけでもなく、スバ抜けたパワーを持つわけではない。それでも勝ち続けることができるのが、彼の凄さである。

 五輪で2回、世界選手権で5回頂点に立った王者のプレーに東京体育館に詰めかけた5110人が酔いしれた。10月に33歳になり、この先は決して長くないだろう。リン・ダンはデンマークの新鋭の挑戦を退け、今季SS初制覇。桃田やアクセルセンら20代前半の若手も台頭してきたが、リン・ダンは大きな“壁”となることを誓った。「私はまだ負けない。勝ち続ける」。その言葉に絶対王者としてのプライドを滲ませた。

(文・写真/杉浦泰介)