
18年ぶりのリーグ優勝へ、オリックスを牽引するのがエースの金子千尋と西勇輝の両右腕だ。ここまで、ともにリーグトップの12勝をあげている。なかでも球団記録となる開幕8連勝をあげ、チームに勢いをもたらせたのが6年目の西である。若きエースと称されることも増えてきた23歳が考える理想のピッチャー像はどんなものか。二宮清純がインタビューした。
(写真:「間延びすると野手も攻撃につながらない」とリズム良く投げることを意識している)二宮: 先輩の金子投手から、たくさんの影響を受けていると思います。特にどんなところが勉強になりますか。
西: 金子さんはエースそのものだと僕は思っています。何も文句の言いようがないし、付け足すこともない。身近にいるからこそ、それはよくわかります。成績はもちろん、練習での取り組みや、意識の高さも含めて、誰が見てもエースだと認める存在です。だから、僕は金子さんのマネをさせてもらっています。
二宮: 具体的にマネたことで、どんなことがあるのでしょう。
西: 初歩的なことですが、練習でも50メートルなら50メートルをきっちり走り切る。たとえばグラウンドにコーンがあって、その間を走るとします。普通はコーンの手前で「ゴールだ」とスピードを緩めてしまう。でも、金子さんはコーンのところまで、しっかり走るんです。それからスピードを落とすので、実際には3メートルくらい余分に走るかたちになる。同じ50メートル走でも最後に力を抜いて49メートルで終わるのと、ゴールまで走り切って53メートルくらい行くのではまったく違う。しかも、全力で走ったからといって、手をついてハァハァいったり、しんどい素振りをみせない。平然と歩いて、次に備える。
二宮: ひとつの練習メニューでも、ちょっとした意識の差で取り組みが変わる。まさに森脇浩司監督がいつも言っている「微差が大差を生む」わけですね。
西: シーズンは1試合で終わりではなく、20数試合を先発として投げ続けなくてはいけない。だから、1試合結果が出たからといって満足してはいけない。金子さんの姿勢から、そんなことを学びました。
二宮: 金子投手は研究熱心で、さまざまな変化球を同じ腕の振りで精度高く投げ込みます。そういった技術面でもマネをすることは多いと?
西: マネしたくてもできない部分や、僕には合わない部分もありますが、最初から「無理だ」とは考えないようにしています。野球はマネしてうまくなるものだと僕自身、とらえていますから。金子さん自身、深いところまで考えて取り組んでいるので、僕もなるべく近いレベルで話ができるように学んでいきたいです。
ただ、そういった技の部分はあまり注目されなくて、みんな見ているのはボールのスピードだけですよね。この前のオールスターゲームでも、大谷(翔平、北海道日本ハム)の162キロと比較したら、金子さんが全球変化球を投げたのは扱いが小さかった。それは個人的にはものすごく不満ですね。
二宮: その通りですね。確かに球速162キロはインパクトがあるかもしれない。でも、それと同じくらい全球変化球を投げたのもプロならではの芸です。もっと技の部分にもスポットを当てないと野球の本当のおもしろさは伝わらない。この点に若くして気づいているのは素晴らしいことです。
西: プロ野球の世界は単に能力が高いだけではやっていけない世界だと思っています。いろんなことを吸収して成長しないと結果を残し続けるのは無理です。そういった先輩方の姿を見たり、一緒に食事をさせてもらって話をする中で学ぶ機会を与えてもらっていますね。
二宮: 広島の前田健太投手などとも食事をしたそうですね。
西: はい。僕はご飯に連れていってもらうのは、勉強の場だととらえています。野球の話しかしないですし、聞いた話は全部、部屋に戻ってノートに書き留めています。
二宮: へぇ〜、まるで記者の取材みたいですね。
西: でも、そういうのが、すごく大事だと思うんです。僕はタダ飯を食べに行っているわけじゃない。せっかくの貴重な機会なのに、なんで、その先輩が活躍しているかのかを僕は知りたいんです。自分もマネして、うまくなりたい。僕は「ウサギとカメ」でいえば、カメタイプ。一歩ずつ着実に基盤をつくって活躍し、有名なピッチャーになりたい。それは常に意識していることですね。
※8月に『週刊現代』で掲載された西投手のインタビュー記事が「Sportsプレミア」にも転載されています。
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