「ジェフ千葉」のイビツァ・オシム監督はJリーグの中で最も優秀な監督と言われている。昨年11月にはJ1最低の年間予算(約14億円)のチームをカップ戦優勝に導いた。「オシムイズムは開花したか?」記者会見での質問にオシムはこう答えたという。「そう言い切れば成長は止まってしまう。人生はこれで終わるわけではない」。
 私も何度か記者会見の席でオシムの言葉に触れたが、その全てが重く、示唆にとんでいた。彼はユーゴ代表監督をはじめ、世界各地のクラブで指揮を執り、実績を残してきた。長いキャリアの中で培った洞察力が言葉に含蓄を与えるのだろう。

 新入団選手の保護者との懇談会で彼が口にした次の言葉が、オシムという指導者の実像を浮き彫りにする。「あなたは息子さんを“最後まであきらめずに走る子供”に育てましたか? そうでなければ期待しない方がいいでしょう。もしそうなら、私が責任を持って育てます」。こんな指導者にこそ息子を預けたいと誰もが思ったはずだ。

 サッカーとは何か。指導とは何か。そして人生とは何か。オシム語録には経典のごとき慈悲にみちた味わいがある。
「オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える」(木村 元彦 著・集英社インターナショナル・1600円)


2冊目は「『感動』禁止!―『涙』を消費する人々」(八柏 龍紀 著・ベスト新書・780円)。「感動をありがとう」。スポーツの大会のたびにメディアから垂れ流される決まり文句。感動とはそんなに安っぽいものなのか。うんざりしていたときに出くわした好著。


3冊目は「日本フィギュアスケート 氷上のアーティストたち」(八木沼 純子 著・日本経済新聞社・1500円)。冬季五輪の華といえばフィギュアスケート。著者はかつて“ジュンジュン”の愛称で親しまれカルガリー五輪にも出場したプロスケーター。最良の五輪用テキスト。


<この原稿は2006年2月1日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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