昨年、巨人OBの評論家が私に「最近の巨人の野球はサインが少ないように感じる」と語った。「これが巨人の弱くなった理由のひとつではないか」とも。ここ数年の巨人は他球団から4番打者ばかりかき集めていたため、サインを必要としなかった。誰かがホームランを打てばいいのだ。著しく個人の能力に偏った野球をやった結果が3年連続の“V逸”だった。
サインこそは、いうなればチームの“軍事機密”。これを共有することでチームには一体感と求心力が生まれる。忠誠心も育まれる。その意味でサインとは、単にキメ細かい野球をするためのツールではないのだ。
V9を達成した巨人・川上哲治監督がチームの方向性を定めるにあたって、モダン野球の教本ともいえる『ドジャースの戦法』を参考にしたことは広く知られている。巨人には理想とする野球があり、選手たちには「オレたちが日本の野球を引っ張っているんだ」との自覚と誇りがあった。一方、パ・リーグのチームには「打倒巨人」以上の目的がなかった。このミッションの違いこそが他を寄せつけない巨人の「無形の力」の正体だったと著者は説く。
この本はアンチ巨人の指揮官が書いた巨人再建の建白書でもある。
「巨人軍論」 (野村 克也 著・角川Oneテーマ21・686円)2冊目は
「Jリーグの挑戦とNFLの軌跡」(佐野毅彦・町田 光 著・ベースボールマガジン社・1500円)。スポーツビジネスnに関係する仕事をしたいと考える若者が増えているという。そもそもスポーツとは何なのか。その根源を探るにあたって最良のテキスト。
3冊目は
「とっておきのドイツ」(ホーム社編集部編・集英社・1600円)。旅の目的別のおすすめトップ10の紹介や、高原直泰、伊達公子らドイツを経験したアスリートへのインタビューは必読。サッカーW杯観戦旅行には欠かせない一冊だ。
<この原稿は2006年3月15日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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