二宮: 北京五輪での金メダル、おめでとうございます。実は先日、斎藤さんの出身地の弘前に行ってきました。津軽の方はみなさん、お酒をおいしそうにどんどん飲みますね。聞くところによると、斎藤さんもお酒がかなり強いとか?
斎藤: どこから、そんなウワサが出たんでしょうね(笑)。強くはないと思いますが、お酒は大好きです(笑)。


二宮: 五輪後、地元では熱烈な歓迎だったでしょう。お祝いのお酒も相当飲まれたと……。
斎藤: え? なんですか(笑)。北京から戻ってきても、まだまだのんびりする時間がとれないのが本当のところです。帰ったのはまだ3回くらいですよ。

二宮: 今回、日本ソフトボール界の悲願を達成したわけですが、監督は金メダルがもらえないそうですね。
斎藤: メダルをもらえるのは選手だけです。みなさんにもよく「金メダルを見せてください」と言われますが、お見せできないので心苦しく思っています(笑)。
 でも、いいんです。その分、選手から紙でできた手づくりのメダルをもらいました。私にとっては一番重みのあるメダルをもらったと感謝しています。

 上野の連投が可能だった理由

二宮: 今回の金メダルを振り返ると、何といってもエース上野由岐子投手の力投が光りました。米国に敗れた準決勝で9イニング、夜に行われたオーストラリアとの3位決定戦でも12イニングを投げて球数は計318球。上野投手も疲労の色は隠せませんでした。継投策が頭をよぎったことは?
斎藤: 何度かありましたね。米国戦ではタイブレークの延長戦に入った時と、9回にブストスにホームランを打たれた時。オーストラリア戦では昼からの連投でしたから、それこそ1イニング毎に状態を確認していました。いくら上野投手でもあれだけ延長戦が続くと心配でしたよ。ただ、彼女は「まだ行ける」という強い気持ちをみせてくれていたので、トレーナーやドクターとも相談して大丈夫だと判断しました。

二宮: あれだけの球数を投げると肩、ひじを壊さないか心配になりました。
斎藤: 技術的な話をすると、ソフトボールのピッチングフォームは野球より肩、ひじの負担は軽いです。野球は上から投げますから、肩、ひじを持ち上げる際に、どうしてもムリがかかる確率が高い。一方、ソフトボールの腕の振りは歩行時の腕の動きと基本は同じ。疲労は考慮しなくてはいけませんが、野球より連投がきくことは確かでしょう。五輪ほどではないにせよ、普段のリーグ戦でも上野の連投はありえない話ではなかったですから。

二宮: 普段の上野投手はどんな選手ですか?
斎藤: 真面目ですね。本当に几帳面。自分で決めたトレーニングは1から10までストイックなまでにやります。こちらが止めないといけないほどです。それだけ五輪に賭ける思いが強かったのでしょう。ある意味、努力の天才なのかもしれません。

二宮: 上野投手には剛速球というイメージがありましたが、今回の五輪では変化球を駆使した、打たせて取る投球も光りました。
斎藤: そうですね。彼女なりの工夫が見られましたね。日本リーグの平均的なピッチャーのストレートの球速は100キロ前後。体感速度は野球の1.4倍と言われていますから、だいたい140キロの感覚です。ところが彼女のストレートは世界最速の119キロ。これは野球では約166キロという計算になります。そのスピードボールにチェンジアップで緩急をつけられると、ストレートを予測したバッターにとってはボールが届く前にバットがクルッと廻ってしまう。慣れるまでは攻略が本当に難しいピッチャーだと思います。

 王者・米国から3点とれ!

二宮: 日本代表には1次リーグで3勝をマークしていた坂井寛子投手もいました。彼女を先発させて、勝負どころで上野投手をリリーフという選択肢もあるのかなと予想していました。
斎藤: 決勝戦の先発は、ギリギリまで迷いましたね。ただ、私たちのプランとしては、決勝トーナメントで米国に勝つことを最優先に考えていました。もちろん準決勝で勝っても、敗者復活でアメリカが上がってくることは想定されましたが、翌日の決勝まで1日空いて万全の状態で戦えます。だから、米国戦は上野投手で行くと最初から決めていたんです。
 当然、坂井投手もブルペンでずっと準備をしていました。彼女は1次リーグから出番のあるなしに関わらず、ずっとスタンバイしてくれていました。投手起用に関しては本当に苦しい状況が続きましたね。

二宮: 1次リーグの米国戦では上野を使いませんでした。これは作戦?
斎藤: はい。米国に勝つには、これまでの経験から綿密な戦略、戦術が必要だと思っていました。どの試合も全力で戦えればいいのですが、それだけでは勝てない。1次リーグではコールド負けでしたけど、全く気にはなりませんでした。

二宮: 惨敗に終わった野球はそういった戦略がなかったですね。1次リーグのキューバ戦をエースのダルビッシュ有投手で勝ちにいって落とした。そのショックを最後まで引きずってしまったように感じます。迎えた決勝の米国戦、勝利を確信したのは?
斎藤: まず、「いける」と手ごたえをつかんだのは、4回の山田恵里選手が打ってくれたホームランです。金メダルを確信したのは、やはり最終回の追加点。1死2、3塁の場面で藤本索子選手がよくエンドランを決めてくれました。1点差だと、ソロホームラン1発で局面が変わってしまう。2点差になって、ようやく不安が消えました。優勝の瞬間はうれしいというより、責任を果たせてホッとしたのが正直な気持ちでした。

二宮: 最終回の1点は相手のバント処理エラーがきっかけ。ミスにつけこんだという点も米国に相当なダメージを与えたはずです。
斎藤: 「米国から3点とる」。これが今回の代表チームの大きなテーマでした。米国相手ではいつも1、2点勝負で負けていましたからね。3点とれば、上野投手が2点以下に抑えてくれると信じてチームづくりをしてきました。最後の最後で目標が達成できました。

 あらゆる想定に対応した直前合宿

二宮: 試合途中では雨による中断がありました。リードしていた展開だけに流れが変わるのでは、とヒヤヒヤしました。
斎藤: 一瞬、シドニーの決勝が頭をよぎりました。あの時も同じ米国が相手。雨が降っていて、最後に外野手が足を滑らせてサヨナラ負けを喫してしまった。でも、そういった悔しい経験を次に生かそうと、ひとつひとつチームとしてやるべきことはやってきましたから。選手を信じていました。

二宮: 中断中、選手にどんな指示を?
斎藤: まず、雨がいつ止むのかリサーチしました。その上で、休ませたほうがいいのか、ウォーミングアップを続けたらいいのか、的確に伝えるようにしました。幸いなことにグラウンドの水はけがよく、中国側もすぐに内野にシートをかぶせて雨が止めば再開できる体制をつくってくれた。中断が最小限で済んだのは、私たちにとってプラスに働いたと思います。

二宮: 北京五輪に向けて準備を積み重ねてきた中で、実際に役立ったことは?
斎藤: ナイター用のサングラスを用意したことです。実は今回の会場は、昼間の太陽並みに照明がまぶしかった。特に外野手はライナー性のボールが照明にかぶる可能性がありました。現に1次リーグの最初のナイターで、レフトが打球を見失った場面があったので、夜の試合もサングラスをかけて守るよう徹底しました。

二宮: 照明がまぶしいという情報を、事前の視察でつかんで準備していたと?
斎藤: いや。あそこまで明るいのは想定外でした。2006年の世界選手権を同じ球場で戦った時は、むしろ暗い印象がありましたからね。当初は照明を落とした設定で練習をしていました。でも勝つためには、あらゆる想定をしなくてはいけない。照明を明るくしてサングラスをかけて守る練習をしたことが結果的には良かった。

二宮: 照明が明るい可能性は万に一かもしれない。それでも練習はしたと? すごい話です。
斎藤: 直前の合宿ではこんなこともやりました。当初の予定は午後6時からのナイター。当然、午前中はホテルでみんな寝ているんですよね。そこを急遽、集合させてミーティングを行いました。北京の本番では、何が起きるかわかりません。アクシデントへの対応力も勝つためには必要だと思っていました。

二宮: 金メダルは偶然の産物ではない。あらゆる状況を想定して準備した人間に勝利の女神は微笑むのだと改めて感じました。
斎藤: 本番では絶対にミスは許されない。ソフトボールで特に守備のミスは命取りです。今回はナイター用のサングラスを北京用につくっていただいて、非常にありがたかったです。たったひとつのアイテム、ほんのわずかな練習で、プレーが変わってしまうわけですから。

(後編につづく)


斎藤春香(さいとう・はるか)プロフィール>
1970年3月14日、青森県出身。日立ソフトウェアソフトボール部アドバイザー。中学よりソフトボールを始め、弘前中央高時代に3年連続で国体出場を果たす。88年に日立ソフトウェアへ入社。強打者として93年から日本代表でも活躍する。五輪には96年アトランタ大会、00年シドニー五輪(銀メダル)、04年アテネ大会(銅メダル)と3大会連続で出場。04年には日立ソフトウェアの選手兼任監督を務め、05年に現役を引退。06年12月より日本代表監督に就任。北京五輪では3連覇中の米国を決勝で下し、日本を悲願の金メダルに導いた。





★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
 
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