晴れ渡った日、新幹線や飛行機の窓から眺める富士山は息をのむほど美しい。その富士山がゴミやし尿対策の遅れなどを理由に「世界自然遺産」への登録申請が見送られたと聞いた時には驚いた。
 登山経験のない私には、聖なる富士山が“ゴミの山”と化していたなんて想像もつかなかった。
 著名な登山家である著者は、もう随分前から清掃登山を通じて富士山の環境保護に取り組んでいる。<日本の象徴、富士山が変われば、日本の環境問題は全体的に改善していく>と著者は説く。
 <死者を出す隊とごみを残す隊は、残念ながら被る>というのも、うなずける話だ。環境に配慮する余裕もないということか。<切羽詰って精神的な余裕のなくなった隊は、判断力が鈍る>と著者は喝破する。ヒマラヤで日本の登山隊は1980年代にかなりの死者を出している。実は日本隊の出すゴミが最も多かったのが80年代だったという。
 著者はチベット問題に対しても積極的に発言し、中国政府の機嫌を損ねた。それが原因でチベット側からのエベレスト登頂が難しくなった。清掃登山もそうだが、「義を見てせざるは勇なきなり」ということか。
「富士山を汚すのは誰か」(野口 健 著・角川oneテーマ21・686円)

 2冊目は「コリアンスポーツ<克日>戦争」(大島裕史 著・新潮社・1600円)。韓国は今やアジア屈指のスポーツ強国だ。しかし、五輪で金メダルをとったのは1976年が最初。特待生や兵役免除などの制度で、選手強化に邁進した隣国の歩みと現状を描く。

 3冊目は「折口信夫−いきどほる心」(木村純二  著・講談社・1400円)。 歌人、民俗学者として知られた折口信夫は「いきどほる」人だったという。折口の思索をていねいにたどることにより、日本人にとって「神」とか何かを浮き彫りにした力作。

<この原稿は2008年7月9日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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