夏休み、田舎育ちの私は近所の川でよくサカナ捕りをして遊んだものだ。足をすりむいたりすると「破傷風になるぞ」と親に叱られ、傷口に消毒薬をかけられた。
しかし、著者によれば消毒は<傷口に熱湯をかけるような行為>だという。<一生懸命に傷を消毒すればするほど、傷の治癒が遅れ、場合によっては傷が深くなり、その結果として傷が化膿する危険性が高くなる>とも。
はて、と思う。私たちがこれまで受けてきた治療は間違いだったのか。これに対する著者の答えは明確だ。<それは、消毒薬について何もわかっていない大昔に消毒という風習が始まって、それが常識として広まってしまったからだ。つまり、喫煙が習慣として広く定着してしまった後に、タバコの健康被害が明らかになったのと同じ構図である>
子供の頃、すり傷を負うと傷の表面を乾燥させ、その上に軟膏を塗ったりして、早くカサブタができるのを待った。これも著者によれば<カサブタは要するに、中にばい菌を閉じ込めて上から蓋をするようなもの>だとか。では、著者が外傷の際に推奨する「湿潤治療」とはどういうものなのか?
「傷はぜったい消毒するな」 ( 夏井睦著・光文社新書・840円) 2冊目は
「闇の中の翼たち」( 岡田仁志著・幻冬舎・1500円)。日本で視覚障害者によるブラインドサッカーが始まったのは2001年と歴史は浅い。ひたむきにボールを追い、驚くテクニックをみせる全盲フットボーラーたちの姿を描く。
3冊目は
「基礎から学ぶ!スポーツテーピング」( 高橋仁編・ベースボール・マガジン社・1600円)。足、肩など部位ごとにテーピングの方法はもちろん、関節の動きや起こりやすい障害を写真入りで解説。夏休み、スポーツをする方にお薦めの一冊だ。
<1〜3冊目は2009年7月29日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
日本の古典劇の本質描く 4冊目は
「江戸演劇史(上・下)」( 渡辺保著・講談社・2800円) 。 たとえば二代目・瀬川菊之丞がスターになるくだり。まず「江戸時代の女形のなかでも、彼ほどの美貌は類がない」と評価し、その出生の秘密に触れる。瀬川家の内情と女傑おまつを語った後、菊之丞の演劇史的意味を4点あげる。一、はじめての江戸根生いの女形。二、菊之丞ブームは人為的につくられた。三、女形時代をつくった。四、その官能的な美の本質は「生のままの美」にあった……。
この叙述方法に、本書の特徴がよく表れている。まず、演劇史といっても人物本位である。役者、プロデューサー、将軍、奉行、観客など多様な人々の思惑、動向が細かく描かれている。次いでゴシップにも言及する。そして、歴史的意味の分析は何点かに整理して、箇条書き方式で示される。
扱うのは江戸260年余。自ら能を舞った豊臣秀吉から筆を起こし、幕末動乱の中、中村仲蔵の透逸な言葉が掉尾を飾る。大河ドラマのように滔々とした筆致だ。
これは、ただの歴史書ではない。歌舞伎のみならず、能、狂言、文楽と日本の古典劇を充分に博捜し、その本質を描き切った。読者を演劇のもつ肌触りにまで誘う筆者畢生の大作だ。
5冊目は
「もっと声に出して笑える日本語」( 立川談四楼著・光文社知恵の森文庫・724円)。 理屈抜きにおもしろい。電車で読んでいて、何度噴出したことか。「ウチの孫はアメリカにホームレスに行ってるんだ」だって。熱帯夜を笑い飛ばしたい。
6冊目は
「ムーブ!」( 片瀬京子著・西日本出版社・1300円)。 3月に終了した大阪・朝日放送の『ムーブ!』はタブーの少ない刺激的な番組だった。プロデューサーは「地雷を踏まないとおもろうない」と語っていた。その内実を描く。
<4〜6冊目は2009年8月19日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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