監督として初めてのシーズンが開幕しました。信濃グランセローズは現在、2勝1敗1分という成績です。12日の富山サンダーバーズとの開幕戦では、選手がウイニングボールを手渡してくれました。これまで受け取った「初勝利」「初セーブ」のウイニングボールに、またひとつ宝物が増えたなと思うのと同時に、「いよいよ始まったんだな」という実感がわきました。
 試合前の国歌斉唱の際には、思わず涙が出てきました。私は昨年6月に加入したものの、結局は一度もチームに貢献することはできませんでした。そんな中で自分の限界を感じ、引退を決意しました。そこからさまざまな人のおかげで、今度は監督としてチームに戻ることができました。ケガをしてからの6年間の思い、今ユニフォームを着てグラウンドに立てていることへの感謝の気持ちが、国歌を聴きながらこみ上げてきたのです。

 さて試合はというと、富山との開幕2連戦は、どちらも2ケタ得点で大勝することができました。とはいえ、それに浮かれることなく「まだまだ」という気持ちで、翌週の新潟アルビレックスBC戦に臨んだのですが、1戦目は惜しくも引き分けに終わり、2戦目は完封負けを喫しました。

 勝ち星をあげることはできませんでしたが、それでもチームとしては得たものもありました。特に1戦目で、優勝するためにはこうした接戦をモノにしなければダメだということを早い段階で気づくことができたというのは、チームにとってプラス材料になったと考えています。

 打線好調のワケ

 20日現在、チーム打率は石川ミリオンスターズに次ぐリーグ2位の2割7分1厘。打点も群馬ダイヤモンドペガサスに次ぐ同2位の23点と、打線が好調です。その理由は、タイムリーを打てる準備をしっかりと練習の時からしているからです。選手は、どうしても結果志向になりがちです。「ヒットを打とう」という気持ちで打席に入ります。そうすると、余計な力みが生じてフォームがおろそかになり、的確な状況判断をすることができません。

 そこで、そうしたことが起こる前に、選手同士でチェックし合うのです。練習の時から、「この場面ではどう打つべきか」ということを確認し合ったり、リラックスさせる、あるいは積極的になれるような声かけを周囲がする。こうしたことを普段からやっているからこそのタイムリーなのです。

 打線のなかでも絶好調なのが、ヘサス・バルデス(ドミニカ)です。打率3割5分7厘、3本塁打、12打点。本塁打と打点はリーグトップです。彼は外国人によくあるように、長打を狙ってブンブン振り回すタイプではありません。センターを中心にと考えて打ったのが、結果的にホームランになっているのです。話を聞くと、配球についてもよく考えていて、非常に頭のいいバッターです。

 また、バルデスがこれだけ打点を稼ぐことができているのは、もちろん、それだけ得点圏にランナーを置いている証拠でもあります。1番・川口圭大(松商学園高−玉川大)、2番・渡辺正人(上宮高−ロッテ)、3番・竜太郎(松商学園高−明治大−ヤマハ−オリックス−東北楽天)、4番・大平成一(波佐見高−北海道日本ハム)も調子がいいので、この4人が出塁をして5番・バルデスにつなぐという攻撃ができています。

 さらに、6番・仁藤敬太(城葉学園橘高−専修大)も打率こそ2割3分5厘ではありますが、ボール自体はしっかりと芯でとらえられており、ヒットになってもおかしくない打球が少なくありません。7番・大谷尚徳も打率3割8厘と打っていますから、たとえバルデスが歩かされても、彼らがいる。そのため、相手ピッチャーにとっては気の抜けない打線になっているのです。

 ルークが見せた順応への努力

 一方、ピッチャーはというと、新加入のルーク・グッジン(米国)が先発の柱となってくれています。彼は真っ直ぐも変化球もコントロールが良く、牽制も何種類も持っていて非常にうまい。そのために、ランナーはなかなか走ることができません。

 ルークは今年2月半ばにチームに合流したのですが、初日から一生懸命に日本の野球に順応しようという努力が垣間見られました。信濃ではウォーミングアップから全員が声を出し、動きをそろえるようにしています。米国人にしてみたら、「なぜ、ここまで合わせなくちゃいけないんだ」という気持ちになってもおかしくありません。しかし、ルークは不満を言うことなく、それに従ってくれたのです。

 また、彼は噛みタバコが好きなのですが、「オレたちは子どもたちの見本とならなければいけない。だから、噛みタバコをグラウンドで吐き捨てるのはダメだ」と注意したところ、すぐにやめてくれました。もちろん、チームで一番力のあるピッチャーだということもありますが、そういう姿勢も買って、開幕投手に起用したのです。

 先発2番手の知成(新潟明訓高−武蔵大)は、1試合目の富山戦では6回5安打1失点と好投し、昨年から成長している姿を見せてくれました。しかし、まだまだ完成とは言えません。特に課題としているのが、気持ちの面です。ランナーが出た時など、もっとギアを上げたピッチングをしてほしいのです。というのも、シーズンが進むにつれて、他球団のピッチャーも調子を上げてくることが予想されます。そうなると、接戦が増えてくるはずです。先発が1、2点に抑えていかなければ、勝つことが難しくなります。ピンチになった時こそ、「絶対に抑えてやるんだ」という強い気持ちが必要なのです。知成には、自分がエースとしてチームを引っ張るというくらいの気持ちを出してほしいと思います。

 もうひとりの先発が、杉山慎(市立船橋高−日本大学国際関係学部−全足利クラブ)です。彼は率先して練習をする選手で、行動でチームを引っ張ってくれています。昨年はチーム最多の9勝を挙げましたが、私はもっとできるピッチャーだと思っています。そのためには、低めへの制球力が課題です。杉山は、真っ直ぐのコントロールがいい時はいいのですが、ランナーを背負うと力が入ったり、勢いのまま力まかせで投げ、単調になって球が上ずることが少なくありません。オープン戦での新潟戦では、低めを意識したピッチングができましたが、それを常に根気よくできるかが重要です。もともと安定感はありますので、昨年までとは違った姿を見せてくれることを期待しています。

 今年、チームで取り組んでいるのは、どんな展開においても「全力疾走」「全力発声」「カバーリング」「素直な心」を実行し続けることです。たとえ大量点を奪っても、油断しそうになる気持ちを抑え、「まだまだだ」と気持ちを引き締めることができるか。また、劣勢な場面でも「これから大逆転のドラマをつくってやるぞ」と、相手がうるさがって、やりづらさを感じるくらい声を出し、諦めないという雰囲気をつくりだせるか。こうしたことをやり続けることが、悲願の初優勝につながると思っています。そんな信濃の野球を、ぜひ球場に見に来てください。

大塚晶文(おおつか・あきのり)>:信濃グランセローズ監督
1972年1月13日、千葉県生まれ。横芝敬愛高、東海大、日本通運を経て、97年、近鉄にドラフト2位で入団。セットアッパー、クローザーとして活躍し、2001年には12年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。02年オフ、中日に移籍。翌オフにポスティングシステムで念願のメジャー入りを果たす。04、05年はパドレス、06、07年はレンジャーズで活躍した。06年第1回ワールド・ベースボール・クラシックではクローザーとして5試合に登板。決勝では8回途中から登板し、胴上げ投手となった。13年、信濃グランセローズに入団。14年より監督を務める。
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