8「おまえら、障がい者をさらし者にする気か!」。12年前、パラスポーツのインターネット生中継を行った際にある男性から唐突にぶつけられた言葉は、今も忘れられません。後に振り返ると、NPO法人STANDの設立は、この言葉がきっかけともいえます。そのSTANDはこの9月で10年を迎えることできました。感謝でいっぱいです。
(写真:2003年、初めての生中継の映像を体育館のロビーで展示)

冒頭の「さらし者」については以前、当コラム(第40回“さらし者”という言葉から見える社会)でもご紹介させていただきました。“さらし者”という言葉を辞書で引くと、「人前で恥をかかされた人」と出てきます。これには驚きました、こういう言葉が使われるのは、障がいのある人の側に問題があるのではなく、社会の側にこそ問題があります。

例えば、野球のイチロー選手、ラグビーの五郎丸歩選手らが世界中のテレビに映しだされた時、それを「さらし者にされている」と言う人はいないでしょう。これから先、パラスポーツのアスリートが大活躍し、多くのメディアに登場してきた時、「さらし者」と言われない社会になっていて欲しい。それがSTAND設立や、パラスポーツへの関わりの原点となっています。私たちは“パラスポーツを手段にして社会ソリューションをしよう”と考えたのです。

 何よりもまず知ってもらうことが大事

ひとつの例を紹介します。多くのパラリンピアンを輩出しているある企業のお話です。そのオフィスの受付横では所属選手の競技映像を流しています。仕事で同社を訪れたある女性から「このビデオを譲ってもらえませんか?」と問い合わせがありました。女性は「実はこのビデオを息子に見せたいんです」と、おっしゃったそうです。

実は彼女のご子息は障がいがあり、車椅子を使用していました。最近は学校にも行かなくなり、ひきこもりになっていたんです。女性は「息子にこの競技をさせたいわけじゃないんです。でも、車椅子でも、障がいがあっても、こんなにかっこよくスポーツをしている人がいることを知ったら、きっと『どこかに行きたい』と言うはず。私にはわかるんです。息子が行きたいと言うところなら、わたしはどこにだって連れて行きたいんです」と話したそうです。彼女のご子息は、のちに車椅子バスケットボールの体験会に参加したと聞きました。

以前、紹介したボッチャの奈良淳平選手の例もそうです。リオパラリンピックを目指す奈良選手は2011年には日本チャンピオンになった実績を持っていますが、競技に出合うまでは、スポーツはするものではなく見るものでした。それがボッチャを始めてから人生は劇的に変化しました。今では名古屋の大学に通い、ひとり暮らしを始めました。学業と競技の両立を実現しました。

このように、パラスポーツは、まずは知ってもらうことが大事です。私たちはこの12年で約320競技のべ約60回の中継をやってきました。しかし、当初は何年続けても閲覧者が微増しかしませんでした。その原因は、閲覧者は関係者しかいなかったからです。そこで私はスポーツファンを取り込もうと考えました。

スポーツファンに支持されているライターやジャーナリストの方々を探す中で、私は二宮清純氏責任編集のSPORTS COMMUNICATIONSを発見しました。サイトに掲載されていた<世界のビッグスポーツも日本の地域スポーツも「おもしろいものはおもしろい」と均等に取り扱うことで、スポーツの醍醐味を発信していこうと考えています>との文言を見て、私は<世界のビッグスポーツも日本の地域スポーツも>の後にパラスポーツを組み込めると感じたのです。早速、二宮氏にお会いしました。そこからパラスポーツサイトの「挑戦者たち」をスタートすることにつながったんです。予測通りアクセス数は飛躍的に上がりました。スポーツファンが訪問してくれて、パラスポーツのスポーツとしての魅力に気づいてくれたことの証左です。

 2020年の機運に乗って

STANDは今年で10周年を迎えましたが、今もパラスポーツを広めるのはあくまで手段であって、社会が変わってほしいという思いは変わりません。これまで体験会、スポーツサイト運営、ネット中継、ボランティアアカデミー……と試行錯誤をしてきました。

たとえば体験会を開催すると「STANDがパラスポーツを広める目的で実施している」と言っていただくことも増えました。とてもうれしく思います。しかし、本当の目的はパラスポーツ体験というツールを使い、障がいのある人とない人が触れあう時間を持つことで、障がいのある人への理解を深めてもらうことにあります。ボランティアアカデミーもボランティアスタッフ養成が目的ではなく、障がいの有無に関わらないコミュニケーションを広げて行くことを目指しています。

現在、2020年東京パラリンピックの存在により、パラスポーツへの機運は高まってきています。認知度もSTAND設立時と比べれば、大きく上がりました。イベントや体験会の参加希望者も増えていくことでしょう。そういったムードを生かしながら、社会が変わっていけるように、これからもSTANDは継続していきます。まだまだ10年、道半ば。まずは次の10年に向かって。

9月30日、11年目に向かって、新動画サイト「Rio,Rio,Rio」を、スタートさせました。
(写真:リオパラリンピックに向けた動画サイトのトップページ)

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。障がい者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。1991年に車いす陸上を観戦したことがきっかけとなり、障がい者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障がい者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障がい者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障がい者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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