まれに見る大混戦が続くセ・リーグにあって、抜け出すとしたら、どのチームだろうか。大勢が見え始めるのはおそらく8月末あたりだろうけれど、8月上旬の現時点で、多くの評論家が注目するのが、東京ヤクルトである。

セ・リーグの混戦の原因は、どのチームにも他チームを圧倒的に引き離すほどの力がないことにある。わかりやすく言えば、6球団ともに弱い。どんぐりの背くらべ状態である。その点、ここへきてヤクルト打線の爆発力には目を見はるものがある。その圧倒的な打撃力で、最終的には抜け出すのではないか、というわけだ。

たしかに、9回にいっきょ11点を奪うほどの爆発力はすさまじい。
その猛打ヤクルトの象徴的存在が、山田哲人である。履正社高出身の5年目、23歳。昨年、最多安打のタイトルを獲得してブレイクしたけれども、今年はホームランでもリーグトップを快走するなど、さらスケール・アップした。三冠王+盗塁王で四冠を視野に入れ、そのうえ「3割、30本塁打、30盗塁」のトリプルスリーを達成する可能性も十分にある。

前回とりあげた柳田悠岐(福岡ソフトバンク)、秋山翔吾(埼玉西武)とともに、いまや、日本野球を代表する強打者に成長した。
山田もまた足を大きく上げて、ステップして打つ打者である。左右の違いはあるが、どちらかというと、秋山の右足の上げ方と似ているのかもしれない。

投手のモーションに合わせて、まず左ヒザをまっすぐ持ち上げるようにして、そのトップの位置から、何かを蹴るようにいったん足首を体の前方へ振ってから、投手側へ着地させる。この「前へ蹴り上げる」ような動きが、独特の間を生んでいる。

前回、秋山のステップは柳田と比べると、一拍分、間が多いと書いたが、それと同じような一拍分の動きが、山田のステップにもある。
ただし、重要なのは、その大きく足を上げてステップする間、上体はステップする前の位置に、ピタリと止まっているという点だろう。上体がブレないから、速球も変化球も強く振ることができる。

実際、本人も「待ち方がいい。直球待ちで変化球が来ても、前に突っ込まずに打てている」(「日刊スポーツ」7月30日付)と自己分析している。「(好調の原因は)しっかり右足に体重が乗っているので」とテレビ取材に答えている場面もあった。つまり、足を大きく上げる場合、軸足の側に体重が乗って、体が前に出ていかないことが肝要なのである。

ちなみに、山田と首位打者を争っている同じヤクルトの川端慎吾にも同じような動きがある。川端は左打者なので右足を上げたときだが、1回、前方に蹴るような動きを入れてから着地をする。

こうして、セ・パを代表する強打者が、続々と足を大きく上げて、間をとる形のステップで成功していくのを見ていると、それは、ある種の日本野球の、もっといえば日本文化の特質なのかな、と考えたくなる。

日本野球で大きく足を上げて成功した大打者といえば、王貞治とイチローである。ついた愛称は、一本足打法と振り子打法。イチローの打法は、年々、少しずつ変化が加えられているように見えるが、王さんの一本足打法は、完成の域に入ってからは、ホームランも凡打も、スイングがすべて同じに見えた。足を上げて、ボールとの間を測る様式美とでも言うのでしょうか。そういう域に達していた。

山田も秋山も、王のあの足を上げて、何か静寂のような間があって打ちにいく様式美ほどの域には、まだ達していないように思う。王さんの場合は、ピタッと何かが臍下丹田に鎮まるような間と言いたくなるが、山田も秋山も、もう少し、ざわついている感じがする。ただ、あえてどちらかと言えば、秋山の方が山田よりも、王の静かさに近いかもしれない。

思わず、日本文化などと言いつのったのは、同じステップするのでも、こういう足の上げ方は、たとえばメジャーリーグでは、あまり見られないからだ。もちろん、向こうは全員ノーステップだとか言うのではない。典型例は、アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)だろう。投球に対して、ごく自然にスッと足を上げて、スッと着地してスイングする。意識的に足を上げて間を測るのではなく、無意識に近い感覚で、スッとステップしているように見える。あえていえば、間とリズムの違いでしょうか。

もちろん、メジャーの投手のボールは手元で動くから、足を上げる打法は難しい、という見解もあるだろう。だが、青木宣親(ジャイアンツ)もメジャーで成功したし、むしろ、山田のように、上体がきっちり動かないかどうかが、ポイントになるのだろう。

いずれにせよセ・リーグにも、これだけの打者が出現したことはたしかである。とすれば、よく言われる、「セの打者はパの打者ほどバットを振りきらない、だからパのほうが強い」という俗説も、少々疑わしくなってくるのではあるまいか。

とくにヤクルトは、川端、山田のあと、4番・畠山和洋は、独特のステップで豪快にふりきるし(密かに「ヨッコラショ打法」と名づけている。1度でも畠山を見たことのある人ならば、わかりますよね)、5番・雄平も、小柄な体がふっとぶんじゃないかと思うほどのフルスイングを繰り出す。こうして見ると、ちょっとソフトバンク打線並ですよ。

ただ、それでも、セ・リーグはやはり“6弱”と言わざるをえない。そのゆえんは、いったいどこにあるのだろうか。

たとえば、7月30日のヤクルト―広島戦。スコアだけ見れば、5-4で広島勝利という大接戦の好ゲームである。
実は、ヤクルトは広島先発の薮田和樹の立ち上がりを攻め、3回までに4-0とリードした。世間の評判通りに、大混戦を抜け出して優勝するチームならば、当然勝ちきるべき試合だろう。

ところが、試合は中盤に入って、何やらこんがらかった様相を呈し始める。広島側にはセンター丸佳浩のダイビングキャッチとか、ヤクルト側には比屋根渉のバックホームで本塁で刺すとか、お互いいいプレーも出る。そうなんだけど、しかし、7回表など、ヤクルトの中継ぎ投手オーランド・ロマンが、無死からいきなり鈴木誠也に四球を出したかと思えば(繰り返すが、鈴木ですよ)、広島は直後にヒットエンドランを仕掛けて得点圏に走者を進めたのに、鈴木は三塁で憤死。

象徴的なのは9回裏である。1点を追うヤクルトは、あっさり2死となって打席に三輪正義。さすがに苦しいかもしれないが、ともあれ、わずか1点差である。

三輪の当たりは、平凡なセカンドゴロ。二塁手・菊池涼介が前進してきて、つかんで……、おっーとお手玉、あー、暴投。これを見て、三輪は一塁を蹴って二塁へ向かう。バックアップに入った捕手の會澤翼が、こぼれたボールを拾って二塁へ送球。タッチアウト! 試合終了。

面白いといえば面白い。しかし、なんじゃこりゃあと思いませんか。
お互いにもつれた糸がほどけないもどかしさと勝手に格闘しているとでも言おうか。あるいは、下手なボクサー同士が、ガードが甘く、お互いに打ち疲れたボクシングの試合みたいだとでも言うべきか。どこかゆるさが紛れこんでいる試合だった。セ・リーグの弱さを言うならば、打者の比較よりも、むしろ、このあたりにその要因があるのではなかろうか。

それにしても剛の柳田、静の秋山、そして烈の山田とでも言いましょうか。いまや、日本代表のクリーンアップは、この3人でいいのではないですか。え? 秋山は1番ですか? まぁ、常識的には。

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール
1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。