金メダルの威光は、かくも凄いものなのか。ロンドン五輪ボクシング男子ミドル級金メダリストの村田諒太がプロに転向した。
 転向表明の記者会見会場となった都内のホテルには約100人の報道陣が駆け付けた。テレビカメラは11台。ボクシングにおいては世界戦の調印式でも、これほど多くのメディアが集結することはない。4月16日のプロテストの模様は地上波でゴールデンタイムに放送された。

 金メダリストのプロ転向は桜井孝雄(東京五輪バンタム級)に次いで史上2人目。桜井はプロ23戦目にライオネル・ローズ(オーストラリア)が持つ世界バンタム級王座に挑戦したが、判定で敗れている。

 気の早い話だが、村田が世界のベルトを獲れば、アマ・プロ双方で世界の頂点に立った初めての日本人ということになる。

 しかし、ハードルは低くない。村田が主戦場と考えているミドル級は激戦区で、これまで日本人で同級王者となったボクサーは竹原慎二(WBA)ひとりしかいない。
 これを受けて村田は「スパーウエルターからライトヘビーまで戦える階級全てを視野に入れる」としているが、それでも難関であることに変わりはない。

 激戦区を制するには何が必要か。竹原に訊ねた。

「村田君は接近戦の巧さには定評がある。しかし、相手が足を使ってきたら一方的に試合を支配されてしまう危険性がある。このクラスはパワーだけでなくスピードのある選手が揃っていますから。

 まずは左ジャブからの右ストレート、ワンツーとアウトボクシングの基本を磨くこと。いきな大きなパンチを狙っても、まず当たりません。アウトボクシングでポイントを稼いでおいて、得意の接近戦に持ち込むような展開が望まれます。

 それとスタミナ。アマは1ラウンド3分の3ラウンドでしょう。プロは同じ3分で12ラウンドを戦わなければならない。長いラウンドのスパーリングを行うなどして、今からスタミナをつけておくことが重要です。

 年齢も27歳と若くない。30歳までに世界に挑戦するようなスケジュールを組んでもらいたいですね」

 本人も自らの挑戦が決して平易でないことは重々承知のようで、「難しい階級に挑戦することに価値がある。無謀な挑戦、やめておけばいいという意見もあると思うけど、夢に向かって挑戦する姿が少しでも今の日本の力になればいい」と語っていた。

 追い風もある。この4月からJBC(日本ボクシングコミッション)は従来のWBA、WBCに続いてIBF、WBOも世界団体として認定した。所属する三迫ジムの関係者は「単純に考えてチャンスは倍に広がるわけだから、これはありがたい」と話す「ただし年齢を考えたら、ゆっくりはできない」とも。

 注目のデビュー戦は8月に予定されている。時間はあるようで、ない。少なくとも世界挑戦までは白星を並べたい。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年5月5日号に掲載されたものです>

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