セ・リーグでは巨人が開幕ダッシュに成功し、開幕1カ月を経たずして、独走態勢を築き始めた。貯金を重ねるチームにおいて欠かせない存在がセットアッパーの山口鉄也である。今季も既に8試合で投げ、防御率0.87。20日の広島戦では通算154ホールドを記録して中日・浅尾拓也を抜き、歴代トップに躍り出た。2008年から5年連続で60試合以上に登板し、チームの勝利に貢献し続ける“鉄腕”は、修羅場のマウンドで何を考えているのか。二宮清純がインタビューした。
(写真:3月のWBCでも2次ラウンドの台湾戦や準決勝のベネズエラ戦など、ここぞという時に踏ん張り、流れを相手に渡さなかった)
二宮: 山口さんが素晴らしいのは、何といってもタフなところ。毎年のように60試合以上に投げれば、疲労もたまるはずです。大きな故障もなく成績を残せている秘密は何でしょう?
山口: 何なんでしょうね。自分では特別なことはやっていないんです。ケアはいつもトレーナーさん任せ。僕はマッサージをしてもらっているだけなので、そういった方のおかげですね。

二宮: テストを経て育成選手としての入団。それが今やWBCの日本代表にも2大会連続で選ばれる選手になりました。こんな野球人生は想像していましたか。
山口: 自分でもビックリしていますね。まさか、という感じです。正直、最初は1軍で投げられるとすら思っていなかったですから。

二宮: ピッチングの軸となるボールはストレートとシュート、チェンジアップ、スライダー。チェンジアップは米国で教わったのでしょうか。
山口: マイナーのルーキーリーグ時代から投げていましたけど、参考にしたのは実はヤクルトの石川(雅規)さんです。テレビで石川さんが中指と薬指で挟んで投げるというのを見てマネしました。

二宮: マスターするのに時間はかかった?
山口: キャッチボールで試してみたら、意外と自分には合っていて、すぐに投げられるようになりました。抜きながら、ちょっと外に向かってひねる(写真)とフォークみたいに落ちます。

二宮: それは面白い話ですね。では、スライダーは?
山口: スライダーはランディ・ジョンソンを参考にしました。ちょうど米国に渡ったのがダイヤモンドバックスがランディ・ジョンソンとカート・シリングの活躍でワールドチャンピオンになった翌年。僕が所属したのはダイヤモンドバックス傘下のチームだったので、同じ施設で練習しているのを見かけた時には、もうそれだけで鳥肌が立ちました。

二宮: それで思い切って聞いてみたと?
山口: いえいえ。話しかけるなんてできないですよ(笑)。僕はこれまたテレビで見てマネしたんです。ランディ・ジョンソンのスライダーは「パワースライダー」で思い切り力でひねるような感じだと。それで自分も力を入れて投げるようにしたら、よく曲がるようになりました。

二宮: これだけセットアッパーで活躍すると、クローザーでも成功するのではないかと思いますが、山口さん自身は今のポジションがいいとか。
山口: はい。セットアッパーが自分では一番合っていると感じます。クローザーだと、絶対に抑えなきゃいけないという気持ちが強くなって、どうしても力んでしまう。自分で自分を追い込んでしまうんです。でも、今の役割は、もし最悪ダメでも他のピッチャーに代えてもらえばいい(苦笑)。そう思えるから心に余裕が生まれて、かえっていいピッチングができるんです。

二宮: マウンド上は常に強気で「絶対抑えてやる」という感じではないんですね。
山口: どちらかと言ったら、弱音を吐きながらマウンドに行きますね。ブルペンでは「あぁ、これは抑えられないよ」とドキドキしています。それでも投げなきゃいけないので開き直る。「こんな厳しい場面で出てくるんだから、打たれたらしょうがないでしょう」って。それがいい結果に出ているのではないでしょうか。

二宮: クローザーであれば、勝利の瞬間、監督やチームメイトと握手する瞬間が一番うれしいと聞きます。セットアッパーの場合、やりがいを感じるのはどんな時でしょう?
山口: 相手の流れを断ち切れたと感じた時は、いい仕事ができたと感じますね。

二宮: 山口さんのサクセスストーリーは、恵まれない環境でプレーしている選手たちに希望を与えています。紆余曲折がありながら、日本を代表する選手になれた要因を自己分析するとしたら何だと考えますか。
山口: 僕はそこまで気持ちが強いほうではなくて、「何くそ」という反骨心もそれほどではないでしょう。ただ、1年でも長く野球がしたい。その一心なんです。諦めずに野球を続けたことが今につながったのでしょうし、これからも少しでも長く投げられるよう頑張りたいと思っています。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2013年5月5日号)に山口投手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>