オリンピックイヤーとなる2008年は、スポーツ政策の面でも重要な1年になりそうです。スポーツ振興法改正に向け、与野党がともに動き始めました。僕も、所属している民主党会派のプロジェクトチーム副事務局長として、先日、初会合に出席しました。今後は年内の法改正を目指して活動予定です。
 スポーツ振興法は、「スポーツ振興に関する施策の基本を明らかにし、もって国民の心身の健全な発達と明るく豊かな国民生活の形成に寄与することを目的」(第1条より)として、1961年に制定されました。途中、細かな改正はありましたが、基本的には47年間変わっておらず、時代にそぐわない面が出てきました。

 まだ与野党とも具体案はこれから作成するところですが、自民党の方針をみてみると、スポーツ振興を「国の責務」と明記し、トップアスリートの育成を重視している印象を受けました。しかし、スポーツはトップアスリートのためだけにあるのではありません。大人も子供も高齢者も障がい者も、それぞれがそれぞれのレベルに合わせて楽しむ。これがスポーツの本質です。

 政府、自民党のスポーツに対する考え方は予算に表れています。2008年度案のスポーツ関連予算は約190億円。昨年度より10億円のアップです。とはいえ、文化庁の予算は約1000億円。スポーツも人類のかけがえのない文化と考えれば、“格差”がありすぎるのではないでしょうか。

 しかもスポーツ予算の中身を精査すると、半分近い約88億円はJOC(日本オリンピック委員会)や、1月に利用が始まったナショナルトレーニングセンター(東京都北区)などへの補助にあてられます。スポーツ普及に欠かせない総合型地域スポーツクラブなど、生涯スポーツ関連予算は10%にも満たない約16億円。スポーツ振興を推進するには、あまりにも少ない割り振りです。

 日本のスポーツ界の現状は、たとえて言えば、サッカーならサッカー、野球なら野球とそれぞれが独自にお店を開いているようなものです。しかも中体連、高体連といった組織があるように、年齢別でお店がバラバラに分かれています。全体としてのコンセプトやビジョンは感じられません。

 対して総合型地域スポーツクラブは、言ってみればデパートです。デパートでは日用品から家具、電化製品まですべて買えるのと同じで、クラブに行けば好きなスポーツを思い思いの方法で取り組むことができます。もちろん、各フロアには専門の売り子(指導員)がいて、それぞれのニーズにあったアドバイスをしてくれます。一家そろってデパートへ買い物ついでに遊びに行くように、年齢問わず、スポーツとふれあい、楽しむことが可能になるのです。

 スポーツ政策の先進国、ドイツではスポーツクラブ人口が全人口の3分の1に達しています。僕もドイツにサッカー留学中、老若男女がスポーツに楽しんでいる姿をよく見かけました。人々にとってクラブは日常生活になくてはならない憩いの場として機能しています。

 1960年、当時の西ドイツで“ゴールデンプラン”とよばれる15カ年計画が発表されました。これは国民の健康増進のため、スポーツに取り組むハード面を整備しようとしたものです。必要な経費は連邦政府、州政府、地方自治体が2:5:3の割合で負担し、国家全体でプロジェクトを具現化していきました。子供の遊び場、プールなどのスポーツ施設、アリーナ……。結果、次々とスポーツを楽しむ環境が各地に誕生しました。

 また1959年には「第2の道」と呼ばれるスポーツ政策も発表されました。こちらは五輪や世界大会で活躍するトップアスリートの育成、強化を「第1の道」とするならば、子供や障がい者、高齢者などを含む一般国民にスポーツを普及させることを「第2の道」として推進するものです。このようにハード、ソフトの両面でドイツではスポーツ振興が図られました。

 翻って日本は、ドイツのような長期的なスポーツ政策がありません。スポーツへの取り組みも、国民の健康増進に関するものは厚生労働省、文化・教育面に関わることは文部科学省と、各省で分かれているのが実情です。

 スポーツ振興法の改正は、単に条文を見直すだけでなく、今後、10年、20年先のビジョンを描きながら、議論を重ねていくべきでしょう。ソフト面を考えると、総合型スポーツクラブを日本に根付かせるには、教育機関との連携が欠かせません。

 たとえば、サッカーでは各Jクラブがユースや、ジュニアユースチームを設立して、中高生の育成を行っています。ところが今の日本では子供たちはユースに行くのか、学校の部活動に入るのか、選択を迫られます。「プロに近いのはユースだけど、進学を考えたら調査書に記載してくれる部活動のほうがいい」。実際、保護者の方からはそんな声が聞こえてきます。少子化が進み、学校単位の部活動が限界にきている地方も多い中、スポーツクラブが受け皿になりうるシステムを早急に確立する必要があるでしょう。

 一方ハード面では、各種の法律がスポーツ環境の整備に縛りをかけています。例を挙げると、外国では公共のスポーツ施設にショッピングモールを併設し、その利益でランニングコストを賄うといった工夫をしています。しかし、日本の場合、現制度上でこれは不可能です。

 スタジアムにしてもスポーツの醍醐味をより味わえる構造になっていません。僕がドイツ時代に感動したカイザースラウテルンのスタジアムは、スタンドの傾斜が急になっていて、ピッチまでの距離が近く、迫力がありました。通路までびっしりと埋まったサポーター席からの声援と地響きは、観る者を興奮の渦に巻き込みます。こんな環境でプレーしていれば、選手たちもうまくなるでしょう。

 各党の議員の方々は本当にスポーツが大好きです。スポーツ議員連盟やサッカー外交推進議員連盟といった超党派のグループもたくさんあります。すべての人にスポーツを。数少ないスポーツ界出身議員のひとりとして、そういった議員のみなさん、関係者のみなさんの協力を得ながら、ぜひ日本版“ゴールデンプラン”と“第2の道”を制定したいと思っています。 

友近聡朗(ともちか・としろう):参議院議員
 1975年4月24日、愛媛県出身。南宇和高時代は全国高校サッカー選手権大会で2年時にベスト8入りを果たす。早稲田大学を卒業後、単身ドイツへ。SVGゲッティンゲンなどでプレーし、地域に密着したサッカークラブに感動する。帰国後は愛媛FCの中心選手として活躍し、06年にはJ2昇格を達成した。この年限りで現役を引退。愛称はズーパー(独語でsuperの意)。07年夏の参院選愛媛選挙区に出馬し、初当選を果たした。
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 当HP編集長・二宮清純の携帯サイト「二宮清純.com」では友近議員の現役時代から随時、コラムを配信していました。こちらはサッカーの話題を中心に自らの思いを熱く綴ったスポーツコラムになっています。友近聡朗「Road to the Future」。あわせてお楽しみください。
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