2008年のサッカー界で一躍スターダムにのし上がった選手といえば、この男だろう。長友佑都(FC東京)。5月に日本代表に初選出されると、8月の北京五輪にも出場。11月のキリンチャレンジカップ・シリア戦では代表初ゴールもマークした。岡田武史監督が「今、おそらくJで最も輝いている」と評価したサイドバックは、いまやW杯アジア最終予選を勝ち抜く上で欠かせない存在になりつつある。2010年本大会での活躍が早くも楽しみな愛媛出身の22歳に、二宮清純が今の思いを訊いた。
 闘争心が沸いた代表デビュー

二宮: 改めて間近で見ると、非常に上半身から筋肉質でたくましい。格闘技でもやっているんですか(笑)。
長友: ちゃんとサッカーだけやっています(笑)。体脂肪率は3%くらいです。5%以下になると、正確には測れなくなるようで細かい数値は僕もよくわかりません。

二宮: この体なら大柄な選手にも当たり負けしないというのが納得できます。
長友: 全体練習が終わっても、フィジカルや体幹のトレーニングをしたり、日頃から自分を追い込むようには心がけています。スタミナや当たりの強さには自信がありますね。

二宮: 2008年は北京五輪の日本代表に加え、A代表にも選ばれました。11月には代表初ゴール。振り返ってみて、どんな1年でしたか?
長友: 本当にいろいろな経験ができた1年でしたね。その中でメンタル面が強くなったように感じます。これまで代表の試合をテレビで見て、いろいろと思うこともありましたが、見るのとプレーするのでは全然違う。世界は甘くないですよ。

二宮: やはり代表のユニホームには独特の重みがありましたか?
長友: そうですね。日の丸を背負うと多くの人に注目される。特に子どもたちがたくさん見ている。みんなのお手本にならなくてはいけないとの気持ちが強かったですね。実際に自分が点をとった時や、ギリギリの戦いに勝った時のスタジアムの雰囲気は本当にすごかった。しびれましたね。

二宮: 緊張して足が震えたりは?
長友: それはなかったですね。むしろ「やってやる」との思いが沸いてきました。僕はどうも相手が外国人のほうが燃えるみたいです。(A代表で)初めて出場したコートジボワール戦ではアーセナルにいるエブエとのマッチアップ。相手が大きくてすごいほど、「絶対に負けない」という気持ちが出てきました。

二宮: 記念すべき代表初ゴールを振り返りましょう。11月のキリンチャレンジカップのシリア戦、前半立ち上がり、自らドリブルで敵陣を突破して、迷わずシュート。鮮やかな得点を決めました。
長友: 前にスペースができていたので「行っちゃえ、行っちゃえ!」と(笑)。シュートもニアを狙ってイメージ通りでした。シュートに対する意識をもっと高めようと考えていた時だったので、ゴールは自信になりました。

二宮: 代表に招集されて、岡田監督から言われていることは?
長友: 具体的なプレーに関することは特にありませんが、「日本にいる1000人くらいのJリーガーの中からオマエたちは選ばれたんだ」と試合のたびに言われます。「この20何名の代表に入れたのは、どこか人より優れたところがあるからだ。その部分を思う存分出してほしい」とも。
 では、自分が人より優れているところはどこかと考えたら、90分間走り続けられる運動量だったり、対人の強さだったり、積極的な攻撃参加や戻りの速さ。このあたりを岡田監督は評価してくれていると思っています。だから自分の長所をどんどん代表のピッチで出していくだけです。

 内田、安田とは刺激し合える関係

二宮: サイドバックのポジションといえば、ロベルト・カルロス(フィネルバフチェ)や、日本にもやってきたジョルジーニョやレオナルド(元鹿島)が有名です。具体的に目標にしている選手はいますか?
長友: ロベルト・カルロス選手はプレーがアグレッシブですし、理想とする選手のひとりです。でも、一番は自分が目標とされる選手になること。自分の強みを生かした、僕にしかできないサイドバック像をつくりたいなと思っています。

二宮: その思い描いている理想のサイドバック像とは?
長友: 攻撃の起点になると同時に、守備でも絶対に負けない選手ですね。やはりゴールも決められるし、センタリングもあげられるというバリエーションがあったほうが、相手も怖い。現状の自分はまだまだ。課題だらけです。欠点を言い出したら、何時間でも話せるくらい(笑)。どの要素をとってもアベレージを上げていかないと世界では戦えないと感じています。

二宮: 内田篤人選手(鹿島)、安田理大選手(G大阪)と同年代に同じポジションのライバルがいることもモチベーションをかきたててくれるのでは?
長友: 3人でいい関係ができていると思いますよ。仲もいいですけど、ウッチー(内田)や安田が活躍すると、「オレもやんなきゃ」という気持ちが自然と出てきます。

二宮: リーグ戦で鹿島やガンバと顔を合わせるといつも以上に燃えると?
長友: かなり(笑)。お互いに意識していますね。今季はそういったところも楽しみにスタジアムへ来ていただけるとうれしいですね。

二宮: ただ内田選手、安田選手とともに代表として戦った北京五輪はグループリーグ0勝3敗。世界の壁の厚さを感じましたか?
長友: それはもう、いっぱい感じましたよ。でも、それ以前に自分のプレーがまったくできなかったことが情けなかった。周りからもいっぱい叩かれましたし……。その悔しさが自分を奮い立たせて、一回り大きく成長させてくれたと今は思っています。

二宮: あえて得たものを挙げるとすれば?
長友: この情けない、悔しい気持ちしかないですよ。この思いは世界の舞台で晴らすしかない。W杯に絶対出て、見返してやるつもりです。

(Vol.2につづく)

<この対談はテレビ愛媛で1月3日に放送された『二宮清純の我らスポーツ仲間』でのインタビューを元に構成したものです>

(構成:石田洋之)