再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.3)
二宮: 実際にオリックスの代表になられてからはどうでしたか? 井箟さんは思い出したくもないかもしれませんが、1998年のドラフトでオリックスは、新垣渚投手(当時沖縄水産高校)を指名しました。彼は「ダイエーしか行かない」と言っていて、実際に入団を拒否し、三輪田勝利スカウトが自殺したとう事件が起きました。
井箟: あのときは大きな問題になったわけですが……。彼だけでなくて、ほかの選手でも、何百万単位のお金が裏から回っているという話がたくさんあった。まじめにやっているスカウトが悔しい思いをすることも多かった。

二宮: ドラフトで目玉になるような選手には、すでに裏から金が回って、ほとんどの選手に特定の球団の色が付いている。
井箟: 付いているね。だからわれわれは、「色の付き具合」で判断するんです。オリックスが取りにいって、そのほかの球団の色を消せるのなら消そうと。太刀打ちできないならやめておけと。

二宮: 新垣の場合は勝負しようと?
井箟: ダイエーが動いていたけれど、「スカウトが頑張ればオリックスに来てくれる」と判断して指名した。

二宮: その年の高校生では、松坂大輔(当時横浜高校)と新垣の両投手が目玉だった。松坂と新垣で迷われましたか?
井箟: いや、迷わなかった。というのも、松坂は「関西のチームには行かない」と言っていて、調べさせたらどうも本気らしいということだった。

二宮: 迷わずに新垣を指名した。そのときは、取れると思っていたのですか?
井箟: 直前まで担当スカウトは「新垣を指名しないでくれ」と言っていたんです。ダイエーが動いていて、「(ウチが指名しても)取れません」と。当時スカウト部長だった三輪田君は半信半疑だったけど、彼と相談したうえで「大丈夫、いける」ということで、最終的には私が判断して指名した。

二宮: 新垣は結局入団を拒否して九州共立大学に入った。その後で、ダイエーに入団したんですね。98年のドラフトのときはオリックスにしたら賭けだったんでしょうけど、新垣とダイエーとはすでにガチガチの相思相愛の関係になっていたということでしょう。九州共立大学とダイエーにも、太いパイプがあった。


(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
◎バックナンバーはこちらから