台風一過の3連休最後の日、大学野球部のグラウンドをお借りして、練習が行われました。今年初めて、というくらいの夏らしい日で、気温もぐんぐん上がり、アップを終えた段階でへばってしまうくらいでした。
(写真:必死にノックに食らいつきます)
 この日の参加人数は12人。人数が少ないとくれば、必然的にひとりひとりの動く量は増えます。アップを終え、水分を補給したりアンダーシャツを着替えたりしているみんなに、安藤コーチが言いました。
 「人数少ないなぁ…。暑いなぁ…。ノックいっぱいやるかぁ…」

 出た! ドS!

 とりあえず、いつものように守備位置につこうとしたのですが、コーチから出た指示は「外野全員レフトに行け」。
 嫌な予感を感じながらレフトの守備位置につくと、「セカンドバック、サードバック、ホームバック、全員ちゃんと決められたらセンターに行け」。
 プチアメリカンは、逃げようのない地熱とセットになると、体力を奪うにはもってこいです。


 「5分休憩したら内野行くぞ」
 内野ノックは3塁側ファウルゾーンから始まりました。ファウルゾーンからサード守備位置までダッシュ、サードの守備範囲に打つコーチのボールを捕球し、ファーストへ送球します。それがクリアできたら、次はサードからショートまでダッシュ、ショートからセカンドへダッシュ、セカンドからファーストへダッシュ、最後はファースト守備位置でのノックからホームへのストライクバックで終了です。このノックも、ミスをすればもう一度失敗した守備位置からやり直しです。

 外野ノックのときの中継プレーの疲れもあり、内野の選手たちは徐々に足がもつれてきます。
 「そんなのも取れんのかぁ!」
 「今のいけたやろ!」
 エラーはもちろん、ギリギリの位置で捕球ミスをしても思いっきり責められますが、ナイスプレーをしてもコーチは無言です。捕って当たり前なのです。


 選手がフリーバッティングをしているとき、コーチがおもむろに近くにいた選手を呼びました。
 「ノック打て」
 珍しくコーチがノックを受けると言いました。コーチへのノックで多少なりとも緊張がはしる選手に、さらにドSな追い討ちをかけます。
 「真正面以外のボールは捕らんからな」
 選手にはあれだけ前後左右に見事なバットさばきをみせておきながら、自分が受けるときは真正面以外捕らないそうで…。


 これからますますギラギラと照りつける太陽の下での練習になります。私たちが成長するべき最初の道は、コーチのドSを快感と捉えることすら可能なドM集団になることなのかもしれません。


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広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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