1995年に野茂英雄選手がメジャーリーグへの道を切り開いた後、さらなる上のレベルを目指す日本人選手が米国へ流出。イチロー、松井秀喜、松坂大輔といった日本を代表するスタープレーヤーのメジャー移籍による日本野球界の空洞化も懸念されている。
 日本のプロ野球界が今後進むべき方向について二宮清純、坂井保之(プロ野球経営評論家)、牛込惟浩(メジャーリーグ・アナリスト)が語った。
(今回はVol.8 ※最終回)
二宮: 日本のプロ野球経営者は、本当にこの国のプロ野球のことを考えているのか心配になってきます。例えば、日本において、プロ野球開幕戦の前に、メジャーリーグの開幕ゲームを持ってきたじゃないですか。僕は開国派だけど、こんなのは売国主義ですよ。
坂井: 一極集中の巨人支配だから、そういうことが起きる。G支配の下、鶴の一声ですべてが決まるんですから。他球団は「ノー」と言えない。「巨人の言うことを聞かなかったら独立リーグを作るぞ」と驚かされてきましたからね。

二宮: でも、その力は相対的に弱くなっている。皮肉にも巨人戦の視聴率がとれなくなってきたことで平準化が進み始めた。ただ、まだGカードに代わるコンテンツはできていない。私は球団を十六球団制にし、八球団が参加できるプレーオフ制度を敷き、それをキラーコンテンツにしろ、と以前から主張しているのですが…。
坂井: G支配が衰退しつつある、いまが大改革するチャンスなんですが、かつて、ヤクルトが巨人の独りよがりに反対して、えらい目に遭ったことがあるからねぇ。

二宮: 当時はどこも巨人の威光と権力には逆らえなかった。
坂井: 一週間近く、新聞で主力商品のヤクルトを叩かれて売り上げが激減した。あまりにも悔しかったので、ヤクルトジョアを開発したという経緯があるんです。

二宮: それは禁じ手ですね。
坂井: あそこは、絶えず禁じ手を使う(笑)。そういうところが盟主だったから、日本の野球界がここまで落ちてきたんです。

坂井: 30年以上も前から、メジャーリーグのオーナー会議の下には、「対日戦略委員会」という特命委員会がある。七人ほどのオーナーとGM(ゼネラルマネージャー)で構成されていて、どうやって米国のベースボールというビジネスをグローバルに拡大していくかということを真剣に研究していましたね。
牛込: 実際問題として、メジャーには明確なアジア戦略があります。まず日米野球を開催して、スカウトを帯同して品定めをさせる。例えば、松井の場合は日米野球に出た二年目からオファーが来た。

二宮: それに対して、日本の野球界にはビジョンも戦略もない。アマとプロだっていまだに一本化できないんだから…。言葉は悪いが内戦をやっていて、太平洋戦争に勝てるわけがない。
牛込: 米国と対等にやっていけるようにしなきゃダメですよ。

二宮: 結局はそこに行きつくんです。そのためには日本野球のレベルをさらに上げることが必要。人材資源を国内外で発掘、開発しなければならない。「開国攘夷」の発想があれば、アメリカの植民地化対策をくい止められます。そこで共存共栄の平和協定を結べばいい。それが最も現実的な選択だと思います。
坂井: 野球界の体制は、戦後二リーグに分かれてやったときのまま。実行委員会があり、オーナー会議があり、セ・リーグとパ・リーグの連盟会長がいて、その上がコミッショナーだという、その古典的な組織がずっと今日まであって、それぞれ何も機能していない。専門家もゼロ。

二宮: ポスティングの話にしても、各球団が個別に対応するんじゃなくて、日本の野球機構としてどういうルールを作るかという問題なのに、そういう体制になっていない。外交不全なんですよ。
坂井: 各球団は「前年より観客を増やせ。前年より成績を上げろ」ということしか考えていない。球界全体のことなんて考えていない。

牛込: 外交戦略だけじゃなくて、国内でも戦略がない。たとえば、あるチームは「経費がかかるから、ファームは要らない」なんて公式の場で発言している。
二宮: 鎖国が無理である以上、開国して、どうやってメジャーと対等の立場に立つのか、ということを考えるしかない。改革は待ったなしです。ゆっくり議論している暇はないのに、津波が来ている浜辺にゆっくり寝そべっているような人たちが何と多いことか。松坂の「30億円ショック」でもまだ目が覚めないんですから…。

(終わり)
<この原稿は「Financial Japan」2007年3月号『スポーツセレブのマネー論』に掲載されたものを元に構成しています>
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