1995年に野茂英雄選手がメジャーリーグへの道を切り開いた後、さらなる上のレベルを目指す日本人選手が米国へ流出。イチロー、松井秀喜、松坂大輔といった日本を代表するスタープレーヤーのメジャー移籍による日本野球界の空洞化も懸念されている。
 日本のプロ野球界が今後進むべき方向について二宮清純、坂井保之(プロ野球経営評論家)、牛込惟浩(メジャーリーグ・アナリスト)が語った。(今回はVol.7)
牛込:「一場問題」で責任取った人がいないんですからね。誰もクビを切られていない。メジャーでは、ダメだったらクビを切られます。ところが日本の野球界は、いったん就職したら定年まで保障されている永久就職みたいなもの。野球の底辺を支えているスカウトがこれではどうしようもない。
二宮: 今のように逆指名があると、スカウトはアマチュアのチームにつけ届けをしたり、裏金を渡したりと不正の温床になる。それがわかっていながら、いろいろと屁理屈をつけて逆指名制度をやめようとしない。「希望枠」なんてブラックユーモアですよ。

牛込: 親会社から降りてくるから、ダメなら親会社に戻ればいいという安易な気持ちがあるんです。
二宮: 3年前の球界再編のときに、それがはっきりと現れた。球団経営者といっても親会社からの天下りばかり。赤字を出しても親会社が広告・宣伝費で損失補填してくれる。これで経営に緊張感が生まれるわけがない。

坂井: 野球に対する情熱がないオーナーは売ればいい。そしたら、赤字で苦しむ必要もない。ところが、経営者の面子だけで保有し続ける。自分のポケットマネーじゃなくて、会社で所有しているので、ついズルズルとやってしまう。
牛込: 米国にも赤字球団は確かにありますが、そこは共存共栄という考え方で、贅沢税(ラグジュアリータックス)を導入して、弱小球団にもお金が回る仕組みを作り上げています。

二宮: 贅沢税にしても、30球団が共存共栄するためには何が必要なのかを考えて、富裕球団と貧乏球団の対立を考えながらも、共通の利益となる一致点を見つけて前へ進んでいる。同じことは経営者と選手会についても言えます。
坂井: メジャーは、互いにメディアを持って連携しながら、自分たちのコンテンツの価値を上げて、全員で潤う仕組みを作り上げている。しかも、潤いすぎているチームがいたら、贅沢税で貧乏球団に分けたりもしている。メジャーというのは、ひとつの財布でできているんですね。

牛込: 共存共栄なんです。
坂井: ただね、だからメジャーが素晴らしいとは言わないでもらいたい。たとえば、日本が世界一になった昨年のWBC(ワールドベースボールクラシック)のギャラがまだ払われていなかったりする。日本は見下されている。

二宮: ただ、メジャーだって、最初は30球団にまで増やすことに反対する勢力があったけれど、そこを説得して前に進んだ。結果的には、球団数が増えることによって、マーケットがどんどん拡大しているんです。いろいろと問題がありながらも前へ進んでいくのがメジャー。その一方、ずっとぬるま湯につかったままで改革を後回しにし、じりじりと後ずさりしているのが、日本のプロ野球。勝負の行方は火を見るよりも明らかです。
坂井: メジャーは、自由競争と言いながら、ひとつの財布の下で共同戦線を張って、対日攻略戦争を仕掛けている。日本のオーナーたちにここの発想がほしい。

二宮: それに最近、メジャーの球団の共同経営者に投資家が入ってきていますよね。
うしごめ:ほとんどがそうですね。バリバリの投資家や実業家が目立ちます。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年3月号『スポーツセレブのマネー論』に掲載されたものを元に構成しています>
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