9月中旬とは思えない暑さの中、高校のグラウンドをお借りして練習を行いました。
 キャッチボール、ノックを終え、フリーバッティングに入りました。
 フリーバッティングは、3人一組になり、ひとり10本×3回です。
 いつもはゲージの後ろで選手のバッティングを見ているコーチですが、あまりの暑さにベンチからなかなか出られず、1組目が始まっても、ベンチの中からバッティングを見ていました。
(写真:とにかく暑かった練習)
 1組目はレギュラー3人。仙田と泉谷は東北福祉大学野球部を今年卒業したばかりの実力のある選手です。同大学野球部OBである大塚監督の後輩にあたります。
 仙田はセレクションのときから実力の違いを感じさせた選手です。マシンでの打撃を初めて見たとき、ほとんどの球をバットの芯でとらえ、室内練習場のネットを破るかのような勢いのある打球が印象的でした。仕事の関係で週末の練習にもなかなか来ることができませんが、試合に出場するときの打順はほとんど1〜5番。監督・コーチの信頼が厚い選手です。

 1周りめのフリーバッティングを終えたとき、仙田が小走りでベンチの中にいるコーチのところに来ました。
 「あの、ひとつ教えていただきたいんですけど…」
 コーチが身を乗りだします。
 「二岡選手とかが打つ右打ちは、どうやったら打てるんですか?」
 「あれは力がないと打てないぞ」
 「振りぬかないでここらへんで止めるんですか?」
 「こうかな?」と繰り返し言いながらコーチの前で仙田が何度もバットを振っていると、暑いといってなかなかベンチから出なかったコーチが、愛用のオレンジ色のノックバットを持って、ベンチを出ました。バットを振りぬかない位置で手の甲を返し、「振りぬかないで、右手で押し込むような感じ」と何度も何度もバットを振ります。仙田はそれを食い入るように見ながら、バットを繰り返し振っていました。

 「わかったか?」とのコーチの問いかけに、「やってみます」とまだ体得しきれていない様子で2周めのバッティングに向かった仙田。そのあとを追い、ゆっくりとコーチもゲージのほうに向かいました。
 遠くから見ていたので何を教えてもらっていたかは定かではありませんが、1組めのバッティングの間、ゲージの後ろに置いてあった椅子に座る間もなく、コーチは仙田はじめ他のふたりにもノックバットを自ら振りながら、熱心に指導していました。

 チームが発足して今年の12月で2年が経ちますが、練習中、積極的に質問に来る選手が少ないことに、仙田の姿を見て気がつきました。プロ野球まで経験している監督やコーチには、私たちよりも多くの気づきがあるはずです。それを言ってくれるまで待っていたり、結局何も聞かされず、何も気づかずに自分の世界だけで野球をしている選手のほうが多いのではないかと思います。企業チームや学校の部活と違って、クラブチームの練習は週に1〜2回になってしまうのが現状です。少ない練習から多くのことを学び取る姿勢が私たちのチームひとりひとりにはもっと必要なのではないかと思いました。
 ひとりで3時間半の練習を全て指導し、ヘトヘトになっていた安藤コーチ。来週からはコーチが帰りの運転ができなくなるくらい積極的に食らいつく選手が増えてくれることを願います。


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広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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