6月7日、クラブ選手権県予選が始まりました。
 全国のクラブチームのみが参加する大会で、いわばクラブチームの都市対抗。クラブチームにとっては1年のうちで一番大きな大会となります。
 全国大会へ進むには、県予選、南関東予選で勝ち進む必要があります。県予選は12チームが代表2枠を争い、南関東予選は、埼玉2チーム、東京2チーム、千葉2チーム、神奈川2チームの計12チームが全国大会出場権2枠を争うことになります。全国大会への道のりは長いです。

 私たちの初戦は6月7日。第1試合は8回裏まで4対1でリードされていましたが、キャプテンの逆転満塁ホームランで一気に逆転。7対4で勝ちました。

 第2試合は6月8日。2回からコンスタントに得点を重ね、9対1の7回コールド勝ちでした。

 第3試合は第2試合終了30分後の開始となりました。コールド勝ちで試合時間は短かったものの、ひとつ負けたら終わりのトーナメント戦は気が抜けず、集中力と体力の消耗は避けられません。その上、投手の人数はじめ、選手の人数が少なく、交代がほとんどできないチーム状況は、連戦には不利になってしまいます。

 体の疲労はまだしも、心配なのは集中力でした。
 後攻の我がチームは、1回表は0点に抑えたものの、4回までに6失点し、コールドゲームが心配になる展開になってしまいました。4回裏に1点返したものの、点数を取れそうで取れない状況が続きました。
 「とにかく点を取ろう」
 集中力を切らさないように、円陣を組むたびに選手全員が気合を入れていました。

 5回裏の攻撃は1番夏目がレフトフライで1アウトのあと、選球眼のある2番菊橋がフォアボールで出塁し、3番新井がセンター前ヒット。4番泉谷がセンターフライで2アウト1、2塁とし、5番の仙田です。
 仙田は仕事が忙しく、なかなか練習に参加できませんが、2回戦で三塁打を放つなどチームに勢いをつける存在です。
 「なんとか点を取りたい」チーム全員が懸命の声を出しながら見つめる中、1ストライク2ボールからの3球目を仙田が振りぬきました。
 全員がベンチの柵を乗り越えんばかりの勢いで身を乗り出し、レフト方向に釘付けになりました。
 「入った!!」
 3塁塁審の右腕がぐるぐると回る中、仙田がホームイン。このホームランで試合の流れを一気にひきよせました。

 ベンチからハイタッチを待つ手がいくつも伸びていましたが、仙田はそれに応えることなく、顔をゆがめながらベンチ奥の選手控え室に下がりました。
 「塩ないか?」とコーチが聞きました。
 「塩……ですか?」
 「少しでも塩なめると、足のつりが楽になるんだよ」
 真っ先に浮かんだ球場の給湯室目がけて、全力疾走しました。悪いと思いながらも戸棚を物色し、賞味期限が怪しそうな塩を見つけ、ベンチに大急ぎで戻りました。
 ストレッチをし、塩と水分を補給し、「大丈夫か?」と心配するコーチに「出れます」と言い、仙田はサードの守備位置につきました。どうしても勝ちたい試合です。信頼感抜群の仙田を下げるわけにはいきませんでした。

 6対4まで追い上げて迎えた6回表の攻撃。
 「点取った後の攻撃、締まっていこう!」
 キャプテンの呼びかけとともに、ベンチを飛び出す選手たちの後ろ姿は、「絶対負けない」という思いがあふれていました。
 6回、7回の相手攻撃は0行進でした。守り抜いた選手たちが口々になにか叫びながらベンチに戻ってきます。
 「守ったぞ!」
 「逆転するぞ!」
 「これが鬼の形相っていうんだな……」と思いました。3年間やってきた中で初めて、選手全員の恐いくらいの気合を感じました。

 7回裏、1アウト1、2塁の場面で第1試合にホームランを打っている新井。2ストライク2ボールで叩いた打球は、センター方向へホームランを思い出させる大きな弧を描きました。ホームランかと思われましたがフェンス直撃の2ベースとなり、夏目がかえり、同点となりました。

 序盤で6点差をつけ、無駄話しか聞こえなかった相手ベンチも、同点に追いつかれ、なんとしても勝つという雰囲気になっています。お互いに一歩も譲らず、8回は両チームとも無得点に終わりました。

 9回表、1番をスイングアウトの三振にきってとりますが、2番には力の差を見せ付けるような早い打球をセンター前に運ばれました。絶対このランナーをホームにかえすまいとの思いがみなぎります。3番をセカンドゴロに終わらせると、矢筒が気合のピッチングで4番をスイングアウトの三振にきってとりました。

 「絶対勝つ!」
 「とにかく(塁に)出ろ!」
 ベンチから身を乗り出すチーム全員の思いを背中に受け、9回裏1アウトから森がバッターボックスに立ちます。
 一球一球に緊張が走る中、森がフォアボールで出塁しました。
 「出たぞ! 続け、濱田!」
 最近不調が続いている濱田でしたが、3塁線にバントを決め、2アウト2塁。夏目はこの日2つ目のデッドボールで出塁しました。菊橋がこの上ない緊張感の中、落ち着いてフォアボールを選び2アウト満塁。
 絶対勝てるという思いと、ここで点数が入らなかったらどうなる?という不安な思いが入り混じり、今まで感じたことのない、胸を締め付けられるような思いになりました。
 チーム全員が祈りました。「何とかしてくれ」

 バッターボックスは新井。1球目、低目の変化球を大きく空振り。「いつものクセがでたな」といわんばかりにニヤっとした3塁ベースコーチの安藤コーチを見て、もう一度落ち着きを取り戻し、新井がバッターボックスに入ります。いつもの構えをとり、投げられた2球目。

 ボールがスローモーションを見ているようにサードの頭を越えた瞬間、一気にベンチから選手がいなくなりました。ホームベース上はこどものような顔をした選手たちが歓喜し、いくつもの帽子とヘルメットが舞いました。

 「ナイスゲーム」
 コーチからの第一声は、この上なく嬉しい言葉でした。
 「小さいミスはあったけど、今日はいい。自分たちはこんなゲームができるんだって、自信にしろ、な?」
 コーチを見上げる選手の目がきらきらしていて、嬉しさをもてあましている状態です。
「いい試合だった。ナイスゲーム。もうそれだけ!」という嬉しいお言葉もいただきました。

 ミーティングのあと、日が傾いたグラウンドで選手全員がいつもの顔に戻ってわいわいとダウンをする姿を見て、心から「いいチームになったな」と思いました。この試合に是非いて欲しかった監督が仕事でいなかったのが残念だったのですが、コーチから話を聞いた監督から、夕方電話が入りました。
 「よかったな! がんばったな!」
 「みんながんばりました〜。大塚さんに見て欲しかったです」
 「なかなかほめない安藤が、選手ががんばりましたよーって言うてたで」

 次はもっと厳しい大会になる南関東予選です。今回の県予選で得たいくつもの大きな収穫と勢いをそのままに、全国大会出場に向けて突っ走りたいと思います!


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広瀬明佳
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

(このコーナーは毎週第1・3木曜日に更新いたします)
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