それは“黒船襲来”を思わせる外電だった。
「10年以内に真のワールドシリーズを行いたい」
 昨秋、ドジャースのピーター・オマリー会長は、壮大なプランをブチ上げた。オマリー会長といえば、野球をオリンピックの正式種目に組み入れることに功績のあった凄腕の実業家。単なる打ち上げ花火とは思えない。早速、オマリー会長に取材を申し込み、発言の真意を問いただしてみた。
――まずはワールドシリーズ構想の真意をお聞かせください。
オマリー: その前に私のベースボール観を語らせてください。私は日頃から、野球こそ世界共通の素晴らしいスポーツだと考えてきました。実際、野球をオリンピックの正式種目として認めてもらうために、何年もかけてIOC(国際オリンピック委員会)に働きかけたこともありますし、ドジャースとしても昨年の暮れに日本や台湾に遠征したり今シーズンには韓国の若者と契約を結んだりしました。また、キャンプにはふたりのオランダ人とふたりのイタリア人が参加しました。つまり私は、こうしたプロセスを経て、野球の国際化がどんどん深まっていると考えているのです。
 私が提唱した「野球版ワールドカップ」は、そういう動きの中から出てきた発想であり、実現できない理由はどこにもないのです。具体的にはアメリカとカナダ、そしてアジアにある3つのプロリーグ(日本、韓国、台湾)が中心勢力になるでしょう。
――オマリー会長の構想ではナショナルチームとクラブチームのどちらが参加することになるのでしょう?
オマリー: それについては簡単に結論を出したくありません。バルセロナ・オリンピックに出場した、バスケットのドリームチームのようなナショナルチームがいいのか、それとも単独チームが登場するべきなのか。研究する余地はまだまだあります。
――予想される困難は?
オマリー: これを実現するためには、先頭に立って実践するリーダーが必要なのですが、そのリーダーになるべき米大リーグには、残念ながら現在、コミッショナーがいません。これは非常に由々しき問題だと思います。
――運営費など資金面での問題はどうなのでしょう?
オマリー: それに関してはまったくといっていいほど心配していません。これだけ大きな大会となればスポンサーもつくし、テレビの放映権収入も莫大なものになると思われるからです。ファイナンシャル面での問題はありません。

 オマリー会長は否定したが、大リーグはNBAやNFLの人気に押され、さらには選手の年俸高騰もあって、新しいイベントを欲している。
 ある意味で大リーグは、Jリーグ人気に押され気味の日本球界と同じ状況にあるとみていい。生き残り、さらなる発展をとげるには、サッカーW杯やオリンピックに比肩しうる国際的なイベントが野球にも必要なのだ。

 ではオマリー会長が投げてよこした“連帯”へのメッセージともいえるボールを、日本のプロ野球機構はどのように受け止めているのだろう。
 日本プロ野球機構を代表して本阿弥清事務局長が答える。
「プロ野球は改善の時期にきている。これは事実です。そのために『プロ野球制度改革本部』を設置したわけですが、4つある基本理念のうちのひとつが“国際交流を活発にする”という項目です。たとえば日本、韓国、台湾でアジアシリーズを開き、そのチャンピオンが大リーグのチャンピオンに挑戦するのはどうか。問題は各国のレベルの差ですが、日韓の場合は問題ないでしょう。反対に日米の差は一向に縮まっていない。個人的には交流試合や親善試合ではなく真剣勝負を行うのがいいと思っています」
 守旧派の巣窟である機構も、たまにはまともなことを言う。ただ、これから問われるのは実現に向けての方法論だろう。野球の将来を考えるうえで、真剣勝負を前提とした国際大会の実現は、決して中長期的な課題ではなく、きわめて短期的な命題なのだから。

 グループ傘下に、韓国のロッテ。ジャイアンツを抱える重光昭夫・千葉ロッテマリーンズ・オーナー代行は、野球の国際化に最も理解を示す経営者のひとり。彼が思い描く構想とは?
「ワールドカップ化の手始めとして、まず東アジア・リーグをスタートさせるべきでしょう。日本、韓国、台湾。この3カ国を軸にしたうえで、セミプロのある中国、オーストラリアも加えていく。東アジア・リーグの前段として、“5カ国対抗”から始めてみるのも面白いと思っています」
 少しずつ、かたちが見えてきた。まだまだ図案の段階だが、決して不可能なシロモノではない。
 さらに開国派のひとり、原野和夫パ・リーグ会長にも見解を求めた。
「これは私個人の意見ですけど、地理的には福岡ドームが中心になるでしょう。現に九州や沖縄には、毎年のように韓国や台湾のプロチームがキャンプを張っていますし、非公式ながら、日本のチームと試合も行っています。国際試合については韓国が非常に熱心で、すでに韓国国内では日本の選抜チームとの試合を“スーパーゲーム”と呼んでいるそうです。これをとりあえず4年に1回やらないかと。今、韓国からはそんなオファーが届いています」
 国際大会の第一歩はナショナルチーム同士の日韓シリーズ。サッカーの日韓定期戦のようなものだが、サッカー人気を野球人気が上回っていることを思えば、このプランは成功する確率が高い。その余勢を駆って台湾、中国、オーストラリアを誘い、東アジア・シリーズを開催する。そこで東アジアのチャンピオンが決定する。そして太平洋をはさんでの米大リーグチャンピオンとの一騎打ち。いずれ、ヨーロッパ、キューバ、南米なども加わってくれば、真の意味でのワールドシリーズになるであろう。野球の将来を思えば、決して“絵に描いた餅”で終わらせるわけにはいかないのだ。

<この原稿は1994年1月『Bart』(集英社)に掲載されたものです>
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