映画「オールド・ルーキー」の主人公ジム・モリスは2年間で、わずか15イニングしか投げていないにもかかわらず、メジャーリーグで最も偉大なピッチャーのひとりである。
 実戦から遠ざかること、実に10年。高校教師としての安定した生活。一度は断念したはずのメジャーリーグへの夢。悩みに悩みぬいた末にモリスは決断する。
「It’s never too late to believe in your dream.」。胸にジンと響く言葉だ。

 和製オールド・ルーキーといえば、さる2日(日本時間3日)、日本人選手最年長でのメジャーリーグデビュー(40歳)を果たした高橋建(メッツ)だ。デビュー戦でのピッチングが評価された高橋建は8日(日本時間9日)のパイレーツ戦での先発が濃厚だ。次なる目標は日本人メジャー最年長勝利投手か。

 ところで和製オールド・ルーキーが立ち向かっているのは「年齢の壁」だけではない。彼には「喘息」という持病がある。
 発症したのは小学校入学の頃。「呼吸ができなくて本当に苦しかった。子ども心ながら、このまま死んじゃうんじゃないかと思った」というくらいだから、相当ひどかったのだろう。

 高校は名門・横浜高。本人によれば「ヒーヒーいいながら投げていた」。大学(拓大)、社会人(トヨタ自動車)を経て広島に入団したが、簡単に完治はしない。「キャンプ中に発作が出て、練習を休んだこともあった」という。「最近でひどかったのは3年前。中継ぎの役割を与えられていたんですが、2週間くらい登板できなかった。1軍にいながら別メニューでの調整を余儀なくされました」。

 実は私も喘息患者である。3歳で小児喘息と診断されて、もう46年になる。ゼーゼーはまだいい方で、ひどくなるとヒーヒーと喉がスキ間風のような音を立てる。気管支がほぼ塞がってしまうのだ。あの苦しみと精神的な恐怖は味わった者でしかわかるまい。

 広島時代、喘息が一因で高橋建は夏場になると体調を崩した。海を渡るにあたっても、そのことがネックになっていた。しかし、40歳は決心した。「気持ちさえ折れなければ、やれる自信がある」。現在、この国の喘息患者は推定約600万人。ひとつの白星が勇気という名の良薬となる。

<この原稿は09年5月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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