納豆の日(7月10日)やバナナの日(8月7日)があることは知っていたが冷凍食品の日があることは寡聞にして知らなかった。
 10月18日が、その日である。10は冷凍の「トウ」、18は冷凍食品の国際基準の管理温度マイナス18度に引っかけたものだそうだ。1986年に定められ、今年で28回目を迎える。
 選手村の食堂に、初めて冷凍食品が登場したのは東京五輪からだと言われている。前年の試食会には佐藤栄作五輪担当大臣ら多くの食通が出席した。

 選手村の食事を任された村上信夫(後の帝国ホテル総料理長)が「日本冷蔵(現ニチレイ)の協力で、冷凍品と生鮮品で同じ料理を作って出したところ、だれも違いに気づかない」(読売新聞04年11月2日付)。試食会という名の実験に成功した村上は五輪での冷凍食品使用に自信を深めたというのである。

 五輪後、大量の料理を提供するホテルは言うに及ばず、冷凍食品はスーパーでも販売されるようになり、一般家庭にまで普及した。東京五輪が“食のイノベーション”を促したのである。

 五輪におけるイノベーションといえば、これについても触れないわけにはいかない。コンドームだ。昨年のロンドン五輪では選手村で史上最多の15万個が支給された。自国のデュレックス社製品を配布したのはBOA(英国五輪委員会)である。

 コンドームも五輪のたびに“進化”をとげてきた。バルセロナ(92年)、リレハンメル(94年)、長野(98年)と夏冬合わせて3つの大会に商品を提供した相模ゴム工業営業企画室・樋沢洋室長によれば「現在、最も薄いのはウチが出している0.02ミリ。7年後の東京五輪は0.01ミリの新商品を登場させたい」と意気込む。そんなに薄くて大丈夫なのか?

「大丈夫です。薄くて強度があるのがウチの商品の強み。実はコンドームの品質は日本が世界一。欧米と違いピルの浸透が遅かったことで逆に品質が向上したとも言えます。7年後は世界をアッと驚かせたいと思っています」

 より速く、より高く、より強く――。これが五輪のモットーだが、世界のコンドームメーカーは研究時間を惜しまず、「より薄く」に挑戦しているのである。

 このように五輪が副次的にもたらす技術革新は、私たちの生活と密接に結びついている。五輪イノベーションはアベノミクスの強力な援軍でもある。

<この原稿は13年10月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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