背に腹はかえられないということか。2019年ラグビーW杯、2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設をめぐって、下村博文文部科学大臣が当初の計画を大幅に見直すことを明らかにした。「コストと期限の問題」と下村大臣は説明した。
 まずは新国立競技場の売り物のひとつである開閉式屋根。フィールド部分に限ってこれは先送りされることになる。つまりラグビーW杯にも五輪・パラリンピックにも間に合わないということだ。

 新国立競技場の維持・管理費は年間35億円にのぼると見られている。スポーツの大会だけで黒字化することは、困難というより不可能だ。そこで新国立競技場を管理・運営するJSCはコンサートなどの会場使用料を穴埋めに当て込んでいた。これにより3億円の黒字が見込まれると試算した。

 ところが、である。屋根がなければコンサートにも支障が生じる。防音対策もイチからやり直さなければならない。捕らぬ狸の皮算用、とはこのことだ。それどころか屋根が架かるまでは大幅な赤字が予想される。景気が冷え込めば、屋根の設営はさらに遅れることになるだろう。

 下村大臣は東京都の舛添要一知事に新国立競技場の整備費用として500億円の負担を要請した。これに対する舛添知事の答えは、こうだ。<そのような約束を誰と誰が行ったのか、知る術も無い。国と東京都が正式に約束したのなら、公文書で協定書を交わすべきであるが、そのような文書もない>(現代ビジネス5月19日付)

 そこで調べてみると、国側が主張する500億円の根拠は猪瀬直樹前都知事が招致活動のプレゼンテーションで、繰り返し口にした次の言葉に行き当たる。「(都は)45億ドル(約4500億円)の資金を用意しています」。このうちの一部を競技場の建て替えや周辺の整備費用に充てるということなのか。今となっては真相は藪の中だ。

 舛添知事は、こう懸念を表明する。<私はいま、2020年までに新国立競技場が完成しないのではないかという危惧すら抱いている。メインスタジアムが完成しないという理由で、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会を返上するなどという悪夢が現実のものとなってはならない>(同前)。事態は周囲が考えているより、はるかに深刻のようだ。

<この原稿は15年5月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから