8月5日、当ホームページ編集長の二宮清純と元日本代表DFの宮澤ミシェル氏が八王子の日本工学院専門学校で対談を行った。その中身を公開したい。
(写真:壇上で対談を行う宮澤ミシェル氏<左>と二宮清純<右>)
二宮: 8月4日、なでしこジャパンが北京五輪最終予選でベトナムを破り、2大会連続3度目の五輪切符を手にしました。ベトナムが相手とはいえ、獲りも獲ったり8ゴール。ミシェルさんは今の女子日本代表をどう見ていますか?
宮澤: 今の女子サッカー界はまだ国によって力の差が大きいのですが、その中で日本は着実に進歩していると思いますね。だいぶ実力がついている。07年の目標は9月に中国で行われるW杯と来年8月の北京五輪の出場権獲得だったのですが、見事に達成した。そういった国際大会で経験を積めば、日本はさらに伸びるでしょうね。

二宮: W杯のプレーオフでは北中米カリブ海代表のメキシコを相手に2200メートルの高地で引き分けましたからね。嘔吐する選手がいたほどの厳しい戦いを制した。タフになってきた印象がある。
宮澤: だいぶ底力がついてきましたよ。なでしこジャパンといって、僕が思い出すのは3年前のアテネ五輪。1戦目の解説が僕だった。前日、練習場に応援に行ったのですが、日本の選手たちに全く元気がなかったんです。疲れきっていた。僕は、練習場の中に入れてもらえなくて、網の外から見ていたのですが、「これは駄目だな、疲れきっている」と心配になって、「あの、明日解説をさせて頂く宮澤ミシェルと申します」と大声で叫んだ。そうすると何人かニコニコと笑ってくれましたね。フジタ工業(現湘南ベルマーレ)で僕と一緒にプレーしたことのある上田監督も気付いてくれて、手を上げて「おーい、中に入ってこい」と。そこで打ち解けるような雰囲気になりましたよ。ただ、ホテルの中では取材を受けてもらえませんでしたね。

二宮: メディアへの対応がまだ厳しいんですね。
宮澤: そうなんですよ。逆に、日本が第1戦で対戦したスウェーデンは「ホテルに入ってもらって結構だ。どんどん取材してくれ」と非常にオープンでした。スウェーデンの女の子たちは呼ぶと、そばに来てくれて、気軽に取材させてくれた。本当に距離が近くて、「この子たち、かわいいな。俺、明日スウェーデン応援しようかな」と(笑)。それは冗談ですが、日本の女子サッカーはプレスへの対応は改善の余地がありますよ。しかし、本当にサッカーのレベルは上がってきた。日本の高校サッカー選手権大会に出場するチームのレベルまで到達していますよ。男子高校生とは十分に渡り合える。

二宮: 女子サッカーW杯の目標はどこになりますか?
宮澤:: やっぱりベスト8でしょう。決勝トーナメントの対戦相手によっては、ベスト4も狙ってほしい。今回、日本と同組はイングランド、アルゼンチン、ドイツ。これは男子のサッカーだったら全く勝てないですよね(笑)。

二宮: それは厳しい。“死のグループ”どころじゃないですよ(笑)
宮澤: そう思うでしょう。ただね、現場の見方は違うんです。元女子日本代表の高倉麻子ちゃんとラジオ番組を一緒にやっているんだけど、「今度のW杯はどう?」と訊いたら「ウーン、アルゼンチンには勝つな」と。

二宮: へえ、それはビックリだな。
宮澤: 男子の価値観では考えられないですよね。麻子ちゃんは「イングランドは体格の差で苦しむかもしれないけど、大したことないですよ」と。残る一つはドイツなんだけど、「そこは苦しい」と言っていました。女子サッカーの勢力図ってそうなんだと勉強になりましたよ。

二宮: 男子サッカーでは中堅国の米国も、女子サッカーでは世界トップクラスですからね。アテネ五輪でもブラジルを破って金メダルを獲得した。男子とは勢力図が違うんですね。
宮澤: そうなんですね。ただ、やはり、サッカーの文化は、その国独自のものがありますね。ドイツは女の子が男子と一緒でデカイ。失礼だけど、日本にいるような可愛いらしい女の子はいないですよ(笑)。本当に大きい。だから、男子と悩みどころは一緒ですよ。体格が違うから、空中戦やリーチの長さには、なでしこも苦しんでいますよ。

二宮: 昨年、W杯ドイツ大会に取材に行ったのですが、現地の女の子が草サッカーを楽しんでいた。みんなプレーし終わったら、男子に混じってジョッキでビールを飲むんです。そうやって、向こうの女の子は大きくなるのかな(笑)。なにはともあれ、今回のW杯、なでしこの奮闘を期待しましょう。

(第2回に続く)