1日、ヤマザキナビスコカップ決勝が東京・国立競技場で行われ、大分トリニータが清水エスパルスに2−0で勝利し、初優勝を果たした。大分は後半23分にFW高松大樹のヘディングで先制点を奪い、試合終了間際にもFWウェズレイのダメ押し弾が決まり勝利をものにした。クラブ創設15年目でのタイトル獲得、そして九州勢のクラブとして初めてのタイトルホルダーとなった。
  堅守で清水の反撃を許さず完封勝ち(国立)
大分トリニータ 2−0 清水エスパルス
【得点】
[大分] 高松大樹(68分)、ウェズレイ(89分)

 4万人以上の観客が詰めかけた決勝の舞台に上がったのは、グループリーグ・決勝トーナメントでの激戦を勝ち抜いてきた大分と清水だ。大分にはクラブ創設以来初優勝が、清水は1996年以来14年ぶり2度目の優勝が懸かった大一番は爽やかな秋晴れの下、13時35分にキックオフされた。

 前半はお互い相手の動きを探るような試合運びとなった。両クラブともラインを高くあげながらコンパクトなサッカーを展開する。前線からのチェックもしっかりと行い、局地的な1対1での攻防では激しいプレーが見られた。

 大分は右サイドバック高橋大輔の突破で攻撃にリズムをつけていく。MF金崎夢生が高橋とパス交換をすることで清水DFラインの裏をつき、度々効果的なクロスボールが上がった。一方清水は、縦パスからのカウンターを主体に大分ゴールに迫っていく。岡崎慎司と原一樹の2トップが体を張ってパスを受け、時には強引な突破で攻撃を組み立てる。この2人の奮闘でゴール前付近でファウルをもらいFKを獲得しながら、チャンスを作っていった。しかし、お互い決定機を決められず、前半を終え0−0で試合を折り返す。

 後半開始から押し気味に試合を進めたのは清水だった。前半同様、岡崎が鋭いドリブルで左サイドを突破する。さらには中盤から2トップの二人を追い越す動きも出てくるようになる。一方、大分は後半から金崎が左サイドに頻繁に顔を出しペースを握ろうとするが、前半に度々右サイドで見せていたようなテンポのよいパスは繋がらず、なかなか攻撃が組み立てられなかった。

 そんな中、待望の先制点を奪ったのは、後半押され気味の大分だった。後半23分、それまで左サイドに位置していた金崎が、右サイドにポジションを変え、うまいタイミングで飛び出しを見せサイドを突破。高いクロスボールをゴール前に上げる。そこで待っていたのは、前半からあまり目立った動きをしていなかったFW高松大樹だった。空中戦にめっぽう強い長身FWの頭にピタリとあったボールは清水ゴールの左下隅に鋭いヘディングシュートとして向かっていった。GK山本海人が懸命のセーブを試みるが、ボールは清水ゴールに完全に入り、大分が先制した。キャプテンの価値ある先制弾に大分ベンチはすでに勝利を手にしたかのようなお祭り騒ぎとなった。

 失点後も清水は攻撃の形を作りながら、なかなかシュートチャンスにまで結び付けられない。長谷川健太監督はサイドから攻撃を組みたてるべく、マルコス・パウロと市川大祐を投入するが、よい効果はあげられない。残り10分ではMF枝村匠馬に変えてFW矢島卓郎をピッチに送りこみパワープレーに出る。それでも森重真人を中心とした大分守備陣を崩せず、時間は過ぎていった。

 そして迎えた終了間際のロスタイム、大分は中盤の高い位置でボールを奪った金崎が右サイドでドリブルを仕掛けDF2人を引き付ける。そしてタイミングよく、ゴール前でフリーの状態だったウェズレイにスルーパスを通す。ウェズレイは絶好のパスを受けGKの動きをよく見て落ち着いて右足で流し込み、大分が2−0と清水を突き放した。

 試合はこのまま終了し、大分トリニータがヤマザキナビスコカップを初めて手にした。決勝で先制点を挙げ、優勝に大きく貢献した高松選手がMVPを獲得、賞金100万円とクリスタル製のトロフィーが贈られた。

 試合後の会見で大分ペリクレス・シャムスカ監督は「大分という常に上位食い込むクラブでなく、降格争いなど苦労の多いクラブが優勝したことは、言葉では言い表せないくらい重い意味のあるものだと思う」と、財政面でも環境面でも苦労の多かったトリニータが歴史に名を残せたことを喜んでいた。自らがクラブを率いて優勝したことについて「クラブには素晴らしい選手たちがいた。選手がよくなければ私がいくらがんばってもタイトルを獲ることはできない。選手の特長を引き出せたことと、選手が特長を生かし力を発揮してくれたことがタイトル獲得に繋がったと思う」と、チーム躍進の要因を分析した。

 監督、選手だけでなくクラブ関係者にとっても今日の優勝は感慨深いものだったに違いない。大分トリニータ溝畑宏社長は試合後の興奮冷めやらぬ中、「(今日の優勝で)一つの物語が完結した。選手たちは地方のクラブが大都市に乗り込んでいくぞという気持ちで決勝を戦ってくれた。地方のクラブでも日本一になれる事を証明できて嬉しい」と、3年前には債務超過でクラブ存亡の危機に立たされた大分が初タイトルを獲得したことについて熱く語ってくれた。

 大分の初優勝で幕を閉じたヤマザキナビスコカップ。今後も12月にはJリーグの年間王者、2009年元日には天皇杯の覇者が決定する。まず、1冠目を制した大分がJリーグ、天皇杯でもどのような戦いぶりをみせてくれるか注目したい。