27日、08−09欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝がローマ・スタディオオリンピコで行われ、バルセロナ(スペイン)がマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)を2−0で下した。前半10分にサミュエル・エトーのゴールで先制したバルセロナは、細かいパスを回しながら、マンチェスター・ユナイテッドを圧倒する。後半25分にはリオネル・メッシのヘディングが決まりダメ押し点を挙げ、ユナイテッドの2連覇の夢を打ち砕いた。バルセロナのCL制覇はロナウジーニョらを擁した05−06以来3シーズンぶり。リーガ・エスパニョーラ、スペイン国王杯に続く3冠獲得はスペインサッカー史上初の快挙達成だ。

 メッシが大会9ゴールで得点王
◇5月27日 ローマ・スタディオオリンピコ
マンチェスター・ユナイテッド 0−2 バルセロナ
【得点】
[バ] サミュエル・エトー(10分)、リオネル・メッシ(70分)
 ヨーロッパの各国リーグ上位クラブのみが出場を許されるCLは、世界最先端のサッカーが毎試合で繰り広げられる。その決勝戦といえば毎回名勝負が期待されるが、今年の決勝ほど前評判の高いカードは過去にはなかった。「マンチェスター・ユナイテッド対バルセロナ」。ともに攻撃サッカーを標榜し、各国のスター選手を擁する名門クラブだ。過去にもCLで名勝負を演じてきた両雄が、初めて決勝の舞台で激突する。08−09ファイナルの行われるローマへ、世界中のサッカーファンの熱い視線が集まった。

 ピッチに現れた両軍の先発はほぼ戦前の予想通り。負傷により出場が危ぶまれたバルセロナのティエリ・アンリとアンドレス・イニエスタは揃って登場、今シーズン最後の大一番にしっかりと間に合わせてきた。両サイドバックのダニエウ・アウベスとエリック・アビダルの穴を埋めるのはカルレス・プジョルとシウビーニョだ。監督のジョセプ・グアルディオラは就任1年目から欧州王者に就くという偉業への挑戦することとなった。

 一方のマンチェスター・ユナイテッドは、クリスティアーノ・ロナウドを中心に、左にウエイン・ルーニー、右にパク・チソンという3トップで決勝に臨む。パク・チソンはCL決勝に出場した初めてのアジア人選手となった。

 試合開始からペースを掴んだのは、マンチェスター・ユナイテッド。先述の3トップが厳しいチェックでボールをチェイシングし、高い位置から攻撃を仕掛ける。ボールを奪うとすかさずC・ロナウドへつなぎ、遠目の距離からも果敢にシュートを放つ。立ち上がりわずか10分でシュート5本、バルセロナゴールを脅かす。ポゼッションでも相手を大きく上回り、戦前の予想とは逆の展開で試合は始まった。

 だが前半10分、厳しいチェックで攻めの形を作れずにいたバルセロナがファーストチャンスをものにし先制点を挙げる。ピッチ中央で前を向いたイニエスタがドリブルでゴール前に持ち込み、DFを引き付けて右サイドへスルーパスを出す。そこへ開いていたサミュエル・エトーが一瞬の切り返しでネマニャ・ビディッチを振り切り、素早く右足でシュートを放った。ゴールマウスを守るエドウィン・ファンデルサールも鋭い反応をみせたがボールは彼の左手をかすめてゴールへ突き刺さった。

 失点を喫するまで完全に試合を支配していたユナイテッドだが、エトーのゴールにより意気消沈してしまう。いきなりの失点に動揺したのか、ボールを空振りする選手まで現れる始末だ。浮き足立つ赤い悪魔をよそに、バルセロナは落ち着いたプレーを披露し、一気に流れを掴む。シャビ・エルナンデスとイニエスタが華麗なパス回しで相手を翻弄し、リオネル・メッシは切れ味鋭いドリブルで幾度となくチャンスを演出した。

 先制後は完全にバルセロナペースで試合が進み、1−0で前半を終了。シュート数はバルセロナ4本に対し、マンチェスターは8本。しかし、ピッチで躍動したのはバルセロナの選手たちだった。

 ユナイテッドは局面を打開すべく後半開始からMFアンデルソンに代えFWカルロス・テベスをピッチに送る。中盤を制圧されていたにも関わらず、前線の選手を増やすという奇策に出た。名将・アレックス・ファーガソンの決断は吉と出るか凶と出るか……。

 後半がキックオフされると、その答えはすぐに明らかとなる。開始3分、左サイドをアンリが突破しシュート。これはファンデルサールが好セーブを見せ得点ならず。さらにその3分後にはゴール正面からのFKをシャビが右足で直接狙う。ボールはゴール隅を襲うがポストに当たり追加点ならず。得点こそ奪えないものの、流れは変わらず完全なバルセロナ。ファーガソンの采配も大勢を変えるに至らなかった。

 そして迎えた後半25分。右サイドからシャビが上げたクロスボールに飛び込んだのはメッシだ。ファーサイドで合わせたふんわりとしたヘディングシュートがファンデルサールを頭上をゆっくり通過しゴールネットを揺らす。ここまで攻守で追加点を与えなかったファンデルサールもお手上げのヘディングが決まり2−0。この時点でほぼ勝負あったといっていいだろう。メッシは得点王独走の今大会9ゴール目。欧州制覇を決定づける一撃は自身のバロンドール(欧州最優秀選手賞)を確定させるゴールにもなっただろう。

 ユナイテッドも王者の意地を見せたいところだったが、バルセロナDFを崩すまでには至らなかった。急遽右サイドバックに入ったプジョルは、C・ロナウドに決定的な仕事をさせず、完璧に押さえ込んだ。左サイドバックシウビーニョとともにウイークポイントと言われた両サイドをしっかりと封じ込めた。

 ユナイテッドは最後まで中盤の舵取り役がおらず、出場停止のダレン・フレッチャーの不在が大きく響いた。「完成されたチーム」とまで言われ、CL無敗記録を更新してきた彼らだが、決勝に関しては前線にスター選手を並べただけの凡庸なクラブに成り下がってしまった。欠場者の存在を感じさせなかったバルセロナと中盤に大きな穴があったユナイテッド。2−0という結果以上に両軍のサッカーの質には開きがあった。

 バルセロナはCL制覇でスペインサッカー史上初めての3冠を手中にした。欧州制覇9度を誇るライバル、レアルマドリッドでも成し得なかった偉業を達成させたのだ。スペクタクルなサッカーで世界中のファンを魅了する彼らは、今後どのように進化を続けていくのだろうか。超攻撃サッカーの行き着く先に注目していきたい。

(大山暁生)