今季のスペインリーグはレアル・マドリードの4シーズンぶり30回目の優勝で幕を下ろした。最終節(6月18日)のマジョルカ戦で3−1と逆転勝ちして、リーグ制覇を決めた。マジョルカ戦では指揮官のファビオ・カペッロ監督の采配がチームを窮地から救った。
 最終節を残して、スペインリーグは三つ巴の様相を呈していた。勝ち点73でレアルとバルセロナが並び、直接対決の差でレアルが首位。セビージャが勝ち点71で2チームを追っていた。レアルはマジョルカ戦で勝てば優勝が決まるという状況だった。

 マジョルカ戦は決して楽なゲームではなかった。
 試合開始から右サイドのMFベッカム、左サイドのMFロビーニョを中心に攻勢だったが、前半17分、カウンターから一瞬の隙を突かれて失点。前半32分には、今季25ゴールのエースFWファンニステルローイが負傷交代を余儀なくされた。悲願の優勝に暗雲がたちこめた。

 追い込まれたレアルは後半、ボールを6割以上支配し、マジョルカを攻めたてる。だが、ゴール前で得たFKをベッカムが外すなどチャンスを生かせない。一方、レアルと同じ時間帯に試合を行っている宿敵バルセロナはヒムナスティックを相手に確実にゴールを重ね、後半の序盤までに4−0と大差でリード。勝利をほぼ手中に収めていた。当然、バルセロナの情報はレアルにも入っている。勝つには少なくとも2点が必要なレアルの焦りは相当なものだったに違いない。

 しかも、マジョルカは油断のならないサッカーを仕掛けてくる。1点のリードを生かし、うまく時間を使いながらも、カウンターを虎視眈々と狙う。後半9分には、ロングパスに反応しDFライン裏へ飛び出したマジョルカMFバレラがGKと1対1の絶好機をつくった。シュートがわずかに右へそれたため事なきを得たが、痛恨の2点目を奪われていてもおかしくなかった。集中力の高いマジョルカからゴールを奪うことは容易ではなく、時間は刻一刻と過ぎていった。

 だが、カペッロ監督の采配が悪い流れを一変させる。後半21分、この試合がレアルでのラストゲームとなるベッカムに代えて、MFレジェスを投入。ベッカムは2月に戦列復帰後、1ゴール4アシストとチームを牽引してきたが、6月上旬の代表戦で傷めた左足首の具合が思わしくないのか、後半には運動量が激減していた。プレースキック一つで得点が奪えるメリットは代えがたかっただろうが、カペッロはあえてフレッシュなレジェスに賭けた。

 そのレジェスが指揮官の起用に応える。23分、FWイグアインが左サイドの深い位置から折り返すと、ニアサイドに思い切りよく飛び込み、ダイレクトで左隅へ流し込んだ。1−1の同点。ピッチに送り込まれてから2分足らずで決定的な仕事をやってのけた。

 この1点で流れが変わった。後半35分には左CKからMFディアラがDFに囲まれながらもヘッドで勝ち越し弾を叩き込み、勝利をグッと引き寄せる。逆転を許したマジョルカは明らかに集中力を失っていた。38分には、再びレジェスがミドルシュートを左隅へ決めて、優勝を確実なものとした。残り時間は大きな動きもなく、レアルの4シーズンぶり30回目のリーグ制覇が決まった。

 カペッロ監督の采配は勝因の全てとはいえないが、その大きな要素を占めたことは間違いない。同指揮官は、これまでも勝負所での好采配で勝利を引き寄せてきた。第33節(5月6日)のセビージャ戦では後半途中から投入したMFグティが2つの絶妙なスルーパスで同点弾と逆転弾を演出している。これまでに指揮をした全てのチームをリーグ制覇に導いてきた名将の勘は、優勝がかかった重大な局面でも冴え渡った。

 そのカペッロ監督は、チームを4年ぶりに優勝へ導いたにもかかわらず、志向しているサッカーが「守備的でつまらない」という理由で来季の去就が不透明だという。今季主力として活躍したベッカム、DFロベルト・カルロスは退団がすでに決定している。さらに、指揮官まで失うことになれば、チームは大きな打撃を受ける。続投か、解任か――。カペッロ監督の扱いが来季のレアルを大きく左右することは間違いない。