7日、カシマスタジアムで9月12日に中断となったJリーグ第25節鹿島アントラーズ対川崎フロンターレ戦は3−1の後半29分から再開され、鹿島の猛攻に耐えた川崎が3−2で逃げ切った。この勝利で川崎が勝ち点を49とし、首位・清水エスパルスと2位の鹿島との差を1とした。

 再開直後に反撃の狼煙あげるも追いつけず(カシマ)
鹿島アントラーズ 2−3 川崎フロンターレ
【得点】
[鹿島]マルキーニョス(30分)、岩政大樹(74分)
[川崎F]鄭大世(19分、32分)、ジュニーニョ(66分)
 4週間前に豪雨で打ち切りとなった試合が、完結の刻を迎えた。紆余曲折を経た首位攻防戦は川崎が勝ち点3を手に入れる形で終了した。

 しかし、この4週間で両クラブを取り巻く状況は大きく変わった。首位攻防戦の大一番が中断された後、鹿島は勝ち点を一つも積み上げられないでいる。今日の結果を受け、クラブワースト記録の5連敗となり、先週末にはついに首位の座から陥落した。

 一方の川崎も、26、27節と連敗を喫するなどやや低調な戦いが続いた。9月12日の時点では全てのタイトルを獲得する可能性もあったが、23、30日に行なわれたアジアチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝で名古屋グランパスに2戦合計3−4で敗れ、アジアの頂点への道は閉ざされてしまった。両者ともに、この中断試合から調子を崩しているのは偶然ではないだろう。

 Jリーグ史上初となる“再開試合”が決定された経緯を振り返ってみよう。Jリーグでは今年度からリーグ規約の中に「悪天候などの不可抗力で試合が中断した場合、原則として再試合とする」という文言を加えていた。雨や雷などで開始後に中断となった試合は、1993年にスタートしたJリーグの歴史の中でわずか5試合しかない。それら全ての試合は再試合という形で再開されてきた。

 しかし、9月12日の第25節は優勝の行方を決める大事な首位攻防戦であり、後半29分まで試合が行われていたこと、さらに3−1という点差からみても、原則通り再試合とした場合、川崎に不利な判定となることは明白だった。試合後、中村憲剛は「雨の中でもやるのがサッカー」と中断の判定に不快感を隠そうとはしなかった。

 この試合の取り扱いについて、15日に行なわれたJリーグ理事会で鬼武健二Jリーグチェアマンが提案する形で「公平性を重んじるためにも、後半29分からの再試合としてはどうか」との意見が出された。これに対し出席した理事からは「規約に則るべき」との声もあったが、大半はチェアマンの提案を支持する形で再試合が決定した。試合日程は10月7日とされ、代表合宿と重なる日程となったものの、選手は再開試合を優先することも発表された。

 不可抗力による中止について「原則再試合」という規約を作った年度に、まさか首位攻防戦でこのような事態が待っているとは夢にも思わなかっただろう。今回の再試合の決定は、チェアマンの提案という形で決まったが、原則に捉われず個別の事案に対し柔軟に決定を下した理事会の姿勢は評価できるものといえよう。

 そして迎えた10月7日、16分間の戦い。後半29分、鹿島アントラーズのセンターライン付近からのフリーキックから試合は再開された。伊野波雅彦がゴール前にあげたボールに対し、競り合いから左足を伸ばした岩政大樹のシュートがいきなりゴールネットを揺らす。ファーストプレーで追撃弾が決まり、一気に勝負の行方はわからなくなった。

 続く31分にもダニーロのヘディングがクロスバーを叩くなど、一気呵成に川崎ゴールへ襲い掛かる鹿島イレブン。許される反撃の時間はたった16分間だ。この時間ならばスタミナもなにも関係ない。DFの岩政もチャンスと見るや、前線に駆け上がり必死に同点ゴールを狙った。

 凄まじい勢いで攻めあがる相手を前にし、試合再開直後から落ち着きのなかった川崎だが、徐々にペースを掴む。もともと2点差で迎えた再開試合だ。しっかりとポゼッションをキープすれば勝ち点3を掴むことができる。落ち着いて前線の鄭大世やジュニーニョにボールを預け、時計の針が進むのを待った。

 かつてないほどハイペースで進んだ試合は鹿島が攻め続けるものの、同点ゴールを叩き込むことはできず、あっという間に終了の時刻が近付いてきた。第4審判から示されたロスタイムは5分間。これはもちろん、中断前の豪雨での試合のロスタイムが加算されている。攻める鹿島に守る川崎。再開試合ではこの図式が崩れることはなかった。

 ロスタイム5分が過ぎ、森勇介がクロスボールをヘディングでクリアしたと同時に主審が試合終了のホイッスルを吹いた。中断を経たものの、川崎が勝ち点3を獲得し、鹿島に勝ち点1差に詰め寄った瞬間だった。

 9月12日の試合で2ゴールを決め、今日の試合が終了した時点でそのゴールが有効になった鄭大世は「終わってみればあっという間の試合だった」と再開試合を振り返った。「最も注意していたはずのファーストプレーで失点してしまったことで、相手に勢いを与え非常に難しい試合になった。この試合が終わったことで、やっと気持ちを次に切り替えられる」と語った。

「試合への入り方が大事だと思っていたが、最初に1点を取られてバタバタとしてしまった。ウチだけではなく、鹿島にとっても試合が終わるまでストレスがあったと思う。これが終わってスッキリしたというのが本当のところ」と川崎・関塚隆監督はほっとした表情でインタビューに答えた。

 様々な問題を抱えた中で行なわれた16分間の試合は川崎がモノにした。この試合が消化されたことで、全クラブが28試合を終え、勝ち点50で首位に立つ清水、得失点差で2位の鹿島。勝ち点49でガンバ大阪と川崎が並ぶ大混戦となった。優勝の行方だけでなく、3位までに与えられるACLも全く先の読めない状況が続く。前代未聞の再開試合は、今年のJ1をさらに盛り上げてくれる結果となった。

(大山暁生)