サッカーの女子W杯は17日(日本時間18日)、ドイツ・フランクフルトで決勝が行われ、日本代表は米国代表と対戦した。日本は米国の速い攻めに苦しみ、後半24分に先制を許す。しかし、後半35分に宮間あや(岡山湯郷)が同点ゴールを決め、試合は延長戦にもつれ込んだ。延長前半14分に再び失点した日本だったが、今度は澤穂希(INAC神戸)が延長後半12分に起死回生の同点ゴール。勢いに乗った日本はPK戦も制し、初優勝を収めた。
 
 澤、大会MVP&得点女王(フランクフルト)
日本代表 2−2 米国代表
   (PK −1)

【得点】
[日] 宮間あや(80分)、澤穂希(117分)
[米] モーガン(69分)、ワンバック(104分)
 日本のサッカー史、いやスポーツ史に永遠に残る素晴らしい試合だった。激闘、死闘の120分、息詰まるPK戦。相手はこれまでAマッチでは0勝21敗3分と1度も勝ったことがないFIFAランキング1位の米国だ。それだけでも充分すぎる内容だった。

 だが、勝利の女神は、この大一番でなでしこたちに優しく微笑んだ。気まぐれな女神を振り向かせたのは、頼れるキャプテン・澤だ。延長前半に1点を勝ち越され、残り時間はあとわずか。敗色ムードも漂い始めた中、“女俊輔”の異名もとる宮間がニアに蹴ったCKに素早く反応した。難しい角度ながら右足のアウトサイドで合わせる。ボールは相手GKとのわずかな隙間を抜け、ゴールネットへ。今大会最多の5得点目は値千金の同点ゴールとなった。

 この一撃で流れは変わった。PK戦に臨む円陣では佐々木則夫監督はじめ、なでしこの選手たちは全員が笑顔をみせた。一方、もう少しで勝ちを逃した米国はPKを3本続けて失敗。GK海堀あゆみ(INAC神戸)の反応も良く、2本のシュートをセーブする。日本は宮間、阪口夢穂(新潟)が成功し、最後は熊谷紗希(浦和)が右足を振りぬく。勝利を決める弾道は分厚い歴史の扉を破るように、鋭くゴール左上に突き刺さった。

 120分間の戦いは、まさに我慢の連続だった。速いパス回しに大きなサイドチェンジ。米国の白いユニホームが幾度となく日本の最終ラインを突破し、ゴールを脅かす。

 まず8分、ミーガン・ラピノーの左サイドからの低いクロスにローレン・チェイニーがニアに飛び込み、シュート。続く9分には181センチの長身FWアビー・ワンバックにドリブルで持ち込まれてミドルシュートを打たれた。さらにその2分後、ゴール前の競り合いでこぼれたボールにカーリ・ロイドが右足を振りぬく。ただ、いずれもわずかにボールは枠の外。28分にはワンバックが左サイドを駆け上がり、強烈なシュートを放ったが、これはゴールポストに救われる。振り返れば、勝利の女神はこの時点からなでしこたちに味方していた。

 なかなか前を向いてプレーできなかった日本だが、チャンスが訪れたのは31分だ。大野忍(INAC神戸)がペナルティーアーク手前でボールをキープ。左サイドへスルーパスを送り込む。そこへ抜けたのは安藤梢(デュイスブルク)だった。1対1でシュートを打つが、相手GKの正面を突いた。

 後半に入っても米国が押し気味の展開は変わらない。4分には鋭い右クロスに途中出場のアレックス・モーガンがニアに飛び込む。これは日本のDF陣が体を張って阻止したものの、その直後にはロイドが自ら右サイドを突破。ミドルシュートはサイドネットを揺らし、ヒヤリとさせられる。

 それでも運動量がやや落ちてきた米国に対し、日本は縦へ早いボールを入れ、局面を打開しようと試みる。16分には澤が中央から右へ浮き球の縦パス。抜け出した近賀ゆかり(INAC神戸)が合わせるも、これはバーの上を越えた。チャンスとみた佐々木監督は永里優季(ポツダム)、丸山桂里奈(千葉)と前線の選手を投入。勝負に打って出た。

 後半24分、その永里が前線でボールキープ。ゴール前にボールを運ぼうとするが、逆に米国DF陣に囲まれて失う。そこから米国のロングフィードが一本、前線に通ると、顔を出したのはモーガンだった。日本の守備の対応も遅れ、左足のシュートがゴール右に突き刺さる。0−1。日本はカウンター攻撃で先制点を許した。

 反撃したいなでしこジャパンは27分に、澤がクリアボールを拾ってミドルシュートを放つ。ただ、これは力なく相手GKの手の中に収まった。一時はほころびが見え出していた米国の守りも落ち着き、時間は刻一刻と過ぎていく。日本には厳しい戦況だった。

 だが、最後まで諦めない姿勢がドラマを生んだ。立役者は途中出場の2人だ。まず高い位置で奪ったボールを永里が右サイドでキープ。粘ってクロスを入れる。そこへ倒れこみながら飛び込んだのが丸山だ。ボールにはうまくヒットしなかったが、こぼれ球を相手DFがクリアしきれない。このチャンスに賭けてゴール前に走っていたのは宮間だった。左足で押し込み、同点。なでしこジャパンは泥臭く1点を奪い、試合を振り出しに戻した。

 3大会ぶり3度目の優勝へ負けられない米国はパワープレーで勝ち越し点を狙う。90分を過ぎて延長に入ってもゲームの主導権は米国にあった。両サイドからボールを送り込み、延長前半2分には前線のワンバックが強引に体を入れてヘディングシュート。これはGK海堀がキャッチし、必死の防戦をみせた日本だが、ついに延長前半終了間際の14分、均衡が破れた。左サイドのクロスを1度は跳ね返したものの、セカンドボールを拾ったモーガンがドリブルでゴールに迫る。そして折り返しのラストパス。完全に最終ラインを崩された日本はゴール前でのワンバックのヘッドを見送るしかなかった。

 再び米国1点のリード。それでも、なでしこたちの気持ちは切れていなかった。延長後半7分には宮間が左クロス。さらにクリアボールを近賀が拾ってゴール前へ入れ直す。10分には澤の縦パスに近賀が反応した。いずれもわずかに通らず、ゴールには至らなかったが、この姿勢が最後の最後で花開いた。

「信じられない。最後まであきらめず戦った結果だと思います。後まで走り続けたし、全力を出し切った」
 そう澤が感激の面持ちで試合を振り返れば、佐々木監督も「ちいさな娘たちが粘り強くよくやってくれました。僕もビックリです」と目をうるませながら選手たちを讃えた。

 3年前、北京五輪では準決勝で米国に敗れ、あと一歩のところで入賞を逃した。それだけにメダル、そして世界一を目指す気持ちは強かった。澤は自身5度目のW杯を集大成と位置づけ、周囲の選手たちもその姿に触発されて、より高みを目指した。
「苦しい時は私の背中を見て」
 史上最強と言われた今回のなでしこジャパン。32歳のベテランの背中に引っ張られ、世界最高の舞台で大輪の花をピッチに咲かせた。